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シェアリングによって始まるニューゲーム 第2回:シェアリングによって激変する購買行動モデル

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2020.6.25

経営イノベーション本部宮川貴光

丹羽靖英

藤田 慎

山口 涼

経営戦略とイノベーション
連載1回目の前回は、シェアリング・ビジネスの台頭により消費者の購買時に売却価格を織り込んだ上で商品を選んでいる、すなわち「利用対価」で商品の購買を決定していることを解説した。

連載2回目の今回は、「利用対価」を重視した消費者の購買行動全体に起こっている変化について解説する。

インターネット時代の消費モデル

人々の購買行動モデルとしては、1920年代に提唱されたAIDMA※1が一般的に知られている。その後、大手広告代理店の電通がインターネット時代の購買行動モデルとして、AISAS※2を提唱し、世の中に受け入れられてきた(図1)。

電通が提唱したAISASのポイントは、インターネットの登場により、①消費者が商品を購入する前にインターネットで検索し、従来よりも豊富な情報を集めた上で購買の意思決定をできるようになったこと、②商品を使用した際の感想・評価をインターネット上で発信するようになり、ユーザーの評価が別の消費者の意思決定に影響を与えやすくなったこと、にある。
図1 購買行動モデル「AIDMA」および「AISAS」
図1 購買行動モデル「AIDMA」および「AISAS」
出所:三菱総合研究所

シェアリング時代の購買行動モデル「SAUSE」

われわれは、フリマアプリを運営するメルカリと実施した研究の結果を踏まえ、スマートフォンの普及、さらにはシェアリング・ビジネスの台頭により、新たな購買行動モデルが誕生していると考えている。
当社では、この新たな購買行動モデルを「SAUSE(ソース)」と名付けた。SAUSEは、まず「Search(検索)」が起こり、「Action(⾏動)」「Use(⼀時利⽤)」「Share(再販売/シェア)」「Evaluation(評価)」へと変遷するモデルである(図2)。

新たな購買行動モデルSAUSEの特徴はプロセスごとに三つに大別することができる。
図2 シェアリング普及後の購買行動モデル「SAUSE」
図2 シェアリング普及後の購買行動モデル「SAUSE」
出所:三菱総合研究所
(1) 所有から一時利用への変化
第一は、「AUS」の部分で起こる所有から一時利用への変化である。前回取り上げたように、フリマアプリの台頭により商品を手軽に売却できるようになったことで、商品はあくまでも一時利用するものであり、消費者は売却価格を織り込んだ「利用対価」で商品の購入を決める傾向が強まりつつある。

(2) シェアリングによって起こるSearchの変化
第二の変化は、商品の認知や具体的な商品の情報を得る過程の変化だ。これまでは、特定のブランドや商品に興味を持ち、その情報をインターネットで検索することが一般的な過程と考えられていた。
しかしながら、近年、スマートフォンやSNS(交流サイト)の普及により、消費者は特定のブランドや商品の情報を「検索」するだけでなく、「どんな商品があるのか」「どんなものがはやっているのか」といった「探索」を行っている。

実際に、当社がメルカリと共同で行ったアンケート調査においても、「特定の製品(洋服)について検索する人」の割合を、「ブランドやジャンルを指定せずに情報収集する人」が上回っている(図3)。
図3 洋服に関する情報収集の方法
図3 洋服に関する情報収集の方法
出所:三菱総合研究所
注:アンケート調査の概要は本連載末尾に掲載
スマホやSNSの普及が後押しする形で、商品を「認知」し具体的な商品の情報を「検索」するプロセスに、「探索」が加わり一体化しているのだ。

シェアリング・ビジネスの台頭に伴うSearchの変化はこれだけにとどまらない。第1回で解説した通り、消費者は「利用対価」で商品の購入を判断する傾向が強まっており、売却価格を事前にSearchするようになりつつあるのだ(図4)。
すなわち、インターネット時代のSearchから、スマホ・SNS時代のSearchに変化し、さらにシェアリング時代のSearchへと変化している。消費者は「SNSなどでの探索」「雑誌やブランドサイトでの検索」に加えて、「フリマアプリで、将来いくらで売れそうかの調査」といった三つのSearchをしながら、自らが購入したい商品を見つけていくのである。
図4 「SAUSE」におけるSearchの変化
図4 「SAUSE」におけるSearchの変化
出所:三菱総合研究所
(3) 商品に対する評価方法の変化
第三の変化が、商品の一時利用が終了した後に起こる変化である。これまでは、インターネットの普及に伴い人々が購入した商品の感想をブログやSNSで発信し、彼らの評価が別の人の購買行動に影響を与えるとされてきた。

しかし、この点においてもシェアリング・ビジネスの台頭によって新たな変化が起こりつつある。ここまで言及したように、フリマアプリを使いこなす消費者は商品を購入し、一時利用した後に売却する。売却後に商品やブランドに対する評価が変わったと回答した人は約8割にものぼった。消費者は商品を所有し使用した際の評価だけでなく、使用後に売却した際の価格も踏まえて商品の評価をしていることがアンケート結果からも見て取れる(図5、図6)。
図5 商品・ブランドに対する評価の変化
図5 商品・ブランドに対する評価の変化
出所:三菱総合研究所
注:アンケート調査の概要は本連載末尾に掲載
図6 「SAUSE」におけるEvaluationの特徴
図6 「SAUSE」におけるEvaluationの特徴
出所:三菱総合研究所

新たな購買行動モデル「SAUSE」が企業にもたらす変化

今回は、シェアリング時代の新たな購買行動モデル「SAUSE」について解説した。この購買行動モデルの変化によって、足元では売却を意識した商品の選択、購入頻度の増加、新商品の購入価格の上昇といった事象が発生している。この事実が示すのは、フリマアプリ上での売買といった2次流通での取引が、1次流通にまで影響をおよぼしつつあるということである。

今後、この流れはさらに強まり、「SAUSE」の購買行動モデルが多くの消費者に広がっていくだろう。その購買行動が主流となった市場こそが、第1回で紹介したニューゲームの戦場である。ニューゲームの下で、新しい消費者の購買行動を前提とした戦略の立案・実行が企業に求められる。
第3回となる次回は、そこで求められる戦略立案について解説する。

シェアリング・エフェクトに関する意識調査概要

調査方法
WEBアンケート
調査期間
2019年4月5日~4月9日
調査対象者
洋服のフリマアプリ利用ユーザー:18~69歳の男女、フリマアプリでの洋服の購入もしくは売却の頻度が3カ月に1回以上
回収サンプル数
1,000件

※1:AIDMA:消費者の購買行動プロセスを表したモデルで、Attention(注意)→Interest(関心)→Desire(欲求)→Memory(記憶)→Action(行動)の順に意思決定が行われると考え、その頭文字をつなぎ合わせたもの

※2:AISAS:電通が提唱したインターネット上を日常的に利用する消費者の購買行動プロセスを表したモデルで、Attention(注意)→Interest(関心)→Search(検索)→Action(行動)→Share(共有)の順に意思決定が行われると考え、その頭文字をつなぎ合わせたもの

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