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経営戦略とイノベーション経営コンサルティング

シェアリングによって始まるニューゲーム 第1回:シェアリングによって変化する消費者の意思決定

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2020.6.4

経営イノベーション本部宮川貴光

丹羽靖英

藤田 慎

山口 涼

経営戦略とイノベーション
「シェアリング・ビジネスの普及によって、わが社のビジネス環境はどう変わるか」
——こんなことを自社の経営者から問われたら、あなたはどう答えるだろうか。

この問いに対する答えは、シェアリング・ビジネスをどう捉えているかによって、大きく異なる。多くの企業では、シェアリング・ビジネスの台頭によってこれまで築いてきた自社のポジションが脅かされると捉えているのではないだろうか。

われわれは、昨今のシェアリング・ビジネスの普及をきっかけに、「モノを購入する」際の消費者意識にパラダイムシフト※1が起こり得ると考えている。新たなパラダイムにおける企業競争は、従来とは異なる勝ち筋を持つ必要があることから“ニューゲーム”と捉えるべきである。この現象は単なる脅威に限らず、既存企業にとって新しい機会になるのだ。

本連載(全3回を予定)では、これまでの三菱総合研究所でのシェアリング・ビジネスに関する研究結果を踏まえ、既存企業がニューゲームの時代に成長を遂げるためのヒントを示したい。

そもそも、シェアリング・ビジネスとは

近年、“シェアリング”、あるいは“シェア”を冠するビジネスが数多く展開されており、その内容は多岐にわたる。そこで、本論に入る前に改めてわれわれが捉えるシェアリング・ビジネスについて整理しておきたい。

シェアリング・ビジネスが台頭する背景には、情報通信技術の発達・スマートフォンの普及により、名前も顔も知らない人ともシェアが可能になったことがある。加えて、人々の間でインターネットを介した匿名のコミュニケーションが日常化し、インターネットの向こう側にいる見ず知らずの人とシェアすることに対する抵抗感が薄れつつあることがあげられる。

こうした背景を踏まえ、われわれは狭義のシェアリング・ビジネスを「遊休資産の利活⽤を⽬的にインターネット上で個⼈間取り引き(P2P)をするための仲介サービス」と定義している(図1)。
図1 本連載におけるシェアリング・ビジネスの定義
図1 本連載におけるシェアリング・ビジネスの定義
出所:三菱総合研究所
われわれは、この定義にあてはまる分野においてニューゲームと呼ぶべき新たなビジネス環境が生まれていると考えている。情報通信技術の進展とユーザーマインドの変化により、個人の遊休資産を活用するという新たなゲームが始まるのである。

クルマを例に取れば、近年広がりを見せるカーシェアは、企業が自動車を所有し、個人に貸し出す形態であるという点はレンタカーと同様で、レンタカーのビジネスモデルがマイナーチェンジしたとみることができる。一方、Uberなどに代表されるライドシェアは、個人の遊休資産を活用する新たなビジネスモデルであり、ニューゲームと捉えることができる(図2)。
図2 クルマに関するニューゲームの例
図2 クルマに関するニューゲームの例
出所:三菱総合研究所

シェアリング・エフェクトが引き起こすニューゲームの時代

当社ではシェアリング・ビジネスの発展が既存企業に与える影響を考察するため、シェアリング・ビジネスにおける国内トップランナーのメルカリと共同研究を行い、2019年2月26日のニュースリリースにて結果を公表した。

今回の研究から、シェアリング・ビジネスの普及が消費行動に変化を生じさせ、その消費行動の変化が思いもよらない影響をもたらしていることが明らかになった。すなわち、シェアリング・ビジネスが、“風が吹けばおけ屋がもうかる”現象を引き起こしていたのだ。この現象をわれわれはシェアリング・エフェクトと呼んでいる。

このシェアリング・エフェクトこそが、ニューゲーム興隆の原動力となっている。ただし、この動きはまだ兆しにすぎない。あくまでもシェアリング・ビジネスを使いこなす一部の消費者の間でのみ起こっている現象である。この現象が多くの消費者に広がったとき、ニューゲーム時代の幕が開くだろう(図3)。
図3 シェアリング・エフェクトをきっかけとしたパラダイムシフト
図3 シェアリング・エフェクトをきっかけとしたパラダイムシフト
出所:参考文献1を基に三菱総合研究所作成
ここで重要なポイントは、単に業界の競争環境の変化にとどまらず、そもそもターゲットとしている消費者の行動が変わることである。消費者の行動原理が根本から変わってしまうことで、従来のビジネスモデルをマイナーチェンジしただけでは全く通用しなくなってしまう。だからこそ、一部の消費者の間で起きつつある変化を捉えて先手を打つことこそが、ニューゲームの時代を勝ち抜き、自社ビジネスを成長させる上で重要になる。

本連載ではメルカリと行った共同研究の内容を深堀しつつ、研究で明らかになった“モノ”におけるシェアリング・エフェクトと、消費財・アパレル業界で今後起こるであろうニューゲームについて解説していきたい。

さて、“モノ”のシェアリングによって起こるシェアリング・エフェクトとはどういったものだろうか。われわれは、研究を通じて①意思決定の変化、②購買行動モデルの変化、③人気商品の変化の三つに大別されると考えている(図4)。

連載1回目では、三つの変化のうち①意思決定の変化について説明したい。
図4 モノのシェアリングによって起こる三つの変化
図4 モノのシェアリングによって起こる三つの変化
出所:三菱総合研究所

売却価格を前提とした意思決定の広がり

近年、「所有から利用へ」という価値観が若者を中心に浸透し始め、モノを持つことに重きを置かない生活者が増えてきていることは言うまでもない。この時流の中でシェアリング・ビジネスの普及が進むと、「いつか売却することを前提とした購入」という意思決定が当たり前になっていくと考えられる。

実際に、フリマアプリサービスの利用者に対するアンケートでも、回答者の約6割以上が新品購入時に売却を意識していることが分かった(図5)。
図5 新品購入時の売却意識
図5 新品購入時の売却意識
出所:三菱総合研究所
※アンケート調査の概要は本連載末尾に掲載
※小数点以下は図式の簡略化のため四捨五入して表示
売却を前提にした購入を行う際には、目の前に提示されている値札から売却する際の額を引いて購入するかどうかを判断する。つまり消費者は、「購入金額から売却金額を引いた額」=“利用対価”で商品を評価するようになるのだ。

3万円の商品が、1万円で売れることが計算できれば、実質2万円の出費で買うか買わないかを決められる(図6)。このことこそ、シェアリング・ビジネスが台頭した際に起こる大きな変化である。
図6 利用対価で図られる購買意思決定
図6 利用対価で図られる購買意思決定
出所:三菱総合研究所
利用対価で測られる購買意思決定は、二つの具体的な購買行動の変化となって表れる。一つは「購入のハードルが下がり、衝動買いが増える」こと、もう一つは「高価な商品やブランドに手を出しやすくなる」ことである。

上述のメルカリとの共同研究の結果においても、フリマアプリのユーザーのうち20代、30代では、中古市場を活用した節約的な購買行動を実施しているだけでなく、新品の購入単価も高くなっている結果が得られた(図7)。
図7 フリマアプリ利用者における新品購入時の価格帯変化
図7 フリマアプリ利用者における新品購入時の価格帯変化
出所:三菱総合研究所
※アンケート調査の概要は本連載末尾に掲載
※小数点以下は図式の簡略化のため四捨五入して表示
われわれは、シェアリング・ビジネスがもたらす「利用対価」という新たな購買意思決定のモノサシ(概念)は、購買を決める瞬間だけでなく一連の購買行動全体のあり方を変え得るものであると考えている。次回は「利用対価」を基にした購買意思決定が、一連の購買行動にもたらす影響を考察する。

シェアリング・エフェクトに関する意識調査概要

調査方法
WEBアンケート
調査期間
2018年9月21日~9月27日
調査対象者
1)洋服のフリマアプリ利用ユーザー:20代以上の男女、フリマアプリ利用頻度が3カ月に1回以上
2)化粧品のフリマアプリ利用ユーザー:20代以上の女性、フリマアプリ利用頻度が3カ月に1回以上
回収サンプル数
1,642件
結果詳細
ニュースリリース「メルカリとシェアリングエコノミーに関する共同研究を実施」(2019.2.26)を参照

※1:ジョエル・バーカー(2014)『パラダイムの魔力 新装版』日経BP社

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