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シェアリングによって始まるニューゲーム 第3回:シェアリングを味方につける事業戦略とは

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2020.9.2

経営イノベーション本部宮川貴光

丹羽靖英

藤田 慎

山口 涼

竹村毬乃

経営戦略とイノベーション
連載3回目の今回は、シェアリング・ビジネスの普及によって生まれた消費者による新たな購買行動が、企業にどのような変化をもたらすかを解説する。特に消費財メーカーにとって、シェアリング・ビジネスの台頭で大きく変化する消費者心理・購買行動を捉えた戦略が、ヒット商品や新たなビジネス展開の鍵となってくるであろう。
本稿では、事業戦略のうちシェアリング・ビジネスが大きな影響を与える「ターゲティング戦略」「商品戦略」「プロモーション戦略」について取り上げ、シェアリング時代の戦略考案のヒントを紹介したい。

ターゲティング戦略:新たな“モノサシ”を持つ消費者像の設定

「消費者はこれまでとは異なるブランドや商品を選ぶようになる」ということを念頭に置いて、メーカーはターゲットとなる消費者像を描くべきである。
第1回のコラムで紹介した通り、“利用対価”という購買のモノサシは、店頭で売られている商品の値札価格から、売却するときの価格を引き算した価格である。
つまり、同じ消費者であっても、売却することを前提にして商品を購入するようになるため、従来より高い値札の商品に手を出せるようになる。商品を提供するメーカー側からすると、今まで顧客として想定していなかった消費者に購買を検討されるようになるのだ。

例えば、高級ブティックに若い女性たちが商品購入のために訪れる。今までであれば何も買わずに帰ることが多かった彼女たちが、シェアリング時代ではバッグや洋服を自分の普段使い用に買っていく。この場合、これまで想定してこなかった客層の流入を機会と捉え、意図的に取り込む工夫が必要だ。ただし、単にユーザーが若返っただけだと、既存ユーザーの抱くブランドイメージを毀損し、離反に繋がる恐れがある。このブランドは、新たなユーザーを取り込みつつもブランドのアイデンティティーを保つための取り組みが重要となろう。

商品戦略:“美人投票”される商品の設計

続いて、1次流通市場の人気獲得のために、2次流通市場で高く売れる商品の開発が求められる。
“利用対価”を購買のモノサシとする消費者は、今買おうとしている商品が「将来フリマアプリで売れるのか?」「どのくらいの金額で売れるのか?」という視点で購入するかどうかを判断する。つまり、①フリマアプリに同系統の商品がある程度出品がされていること、②店頭の値札と比べて大きく値崩れしていないことが重要となる。

モノのシェアリング・サービス最大手のメルカリにおいて、取引が最も多いブランドはユニクロである(図1)。メルカリに出品されているユニクロ商品を見ると、上記2点が当てはまる。実は、思いがけず新品とあまり変わらない価格で取引されているのだ。この事実は、リーズナブルなブランドにとってシェアリング時代の戦略に大きな示唆を与えるものだ。
図1 メルカリ取引量ランキング(2019年5月~2020年5月)
図1 メルカリ取引量ランキング(2019年5月~2020年5月)
注:「ユニクロ」は買われている・売られているブランドともに3年連続で1位となり、メルカリが殿堂入りとしている。
出所:メルカリ プレスリリース「フリマアプリ『メルカリ』、 サービス開始7周年記念インフォグラフィックス公開」を基に三菱総合研究所作成
https://about.mercari.com/press/news/articles/20200702_infographics/(閲覧日:2020年8月31日)
ユニクロがメルカリで値崩れせずに活発に取引されている理由は大きく三つあると考えられる。まず「スター商品」の存在である。ユニクロは、1990年代に社会的ブームになったフリースジャケット、ヒートテック、ウルトラライトダウンなど、誰もが一度は購入したことのある商品を有している。加えて「サイズへの安心感」がある。ユニクロの人気商品は、ベーシックな形態のものが多く、シンプルなサイズ表記がされている。一度ユニクロの商品を購入したことがあれば、そのジャンルのサイズ感は試着せずに分かる人が多い。さらに、「他の人とかぶらないオリジナリティー」を有する。一見ユニクロのイメージとは相反する要素ではあるが、メルカリで取引されているユニクロ商品の中には、デザインが期間限定で変わるTシャツなど、店舗ではもう売っていない商品が多い。

ファッションブランドの中でユニクロに次いで取引の多いナイキやアディダスに関しても、同様の勝ちパターンを有している。年代違いや期間限定で発売されたナイキのスニーカーやアディダスのスポーツウエアなども、安心感とオリジナリティーを兼ね備えたスター商品といえる。

もしあなたの担当するブランドにスター商品があるならば、リアル店舗で試さなくても分かるような工夫と、モデルチェンジによる希少性の訴求によって、2次流通市場での取引を活性化させるべきである。
経済学者ジョン・メイナード・ケインズは株式投資において、投資家が「市場参加者の多くが値上がりするだろうと判断する銘柄を選ぶ」行動パターンを、美人コンテストになぞらえ「美人投票」と名付けた。「店頭で商品を買う際は、2次流通市場でよく売れる商品を選ぼう」という心理は、自分の好みではなくその他大勢の好みを考慮した、まさに「美人投票」的な購買心理といえるだろう。
図2 2次流通を活用した美人投票的購買行動
図2 2次流通を活用した美人投票的購買行動
出所:三菱総合研究所

プロモーション戦略:中古品ユーザーとのリレーション構築の重要性

最後に、プロモーション戦略においては、新規顧客獲得のための投資から既存顧客のロイヤルティー向上のための投資に予算配分をシフトすべきである。拡大する2次流通市場の取引を踏まえることで、消費財メーカーは年間販促予算の大部分を占める広告宣伝費を、より効果的に活用することができる。
これまではブランド認知から購買までの高いハードルを越えるため、試供品の配布やお試し価格と称した値下げなどによって商品を「使ってもらう」施策に多くの投資が必要だった。しかし、2次流通市場で安くモノが手に入る環境では「試し買い」がしやすくなるため、サンプリングの役割を担ってくれるのだ。そうすれば、従来ほどサンプリングに予算を投下する必要がなくなる。

その一方で、「使ってよかった」「売ってよかった」という評価を、商品を購買したユーザーから獲得するための投資は今以上に必要となる。商品の使い方に関する教育コンテンツやアフターメンテナンスなど、ユーザーにより高い価値を感じさせるための施策が肝要となる。
これらの施策は、高級車ブランドが中古車のアフターサービスを行っているように、2次流通市場で購入したユーザーにも行うことがポイントとなる。中古で購入し「使ってよかった」と思った消費者は、当該ブランドの新品を購入する意向が高くなるだろう。2次流通における評価が重要な時代において、もはや「中古品を購入した人はお客さんではない」とは言えないのだ。

昨今の社会情勢の中、生活のデジタル化と同時にフリマアプリは加速度的に成長している。これまでの市場環境では、フリマアプリで中古品が販売されることを嫌う事業戦略担当者が多かった。しかし、シェアリング時代の「ニューゲーム」では、2次流通市場と共存し味方につける戦い方を志向するべきだ。
あなたが担当している商品が、フリマアプリで活発に取引されていることを喜ぶべき時代がすぐそこまで来ている。

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