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キャリア再考 その2:AIとの協業を前提とした職業能力の獲得を

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2020.9.4

キャリア・イノベーション本部奥村隆一

MRIトレンドレビュー

AIとの協業によりヒトの役割は変化する

就業者を対象としたアンケートデータ※1を元に、当社が試算を行ったところ、今後10年間に人工知能(AI)活用などで国内の生産能力の大幅な拡大が見込まれている。「事務的な仕事」では約300万人、機械に代替されにくいイメージのある「専門的・技術的な仕事」でも200万人超の労働力が省力化され、日本全体で労働力(正社員ベース)の投入量は平均で7~8割程度に減少すると予想される。

新型コロナウイルス終息のめどが立たない中、人工知能(AI)で業務を自動化する動きが広がっており、これがさらに早まる可能性が出てきた。日本経済新聞の2020年7月19日の記事によると「転職市場のなかでも『自動化されやすい職種』は求人減が目立つ」という。「5月と6月の求人数は、自動化されやすい職種が前年同月より30%以上減り、それ以外は1割程度の減少だった」とのことだ。

日本経済を支えるために必要な総労働投入量の減少は、「機械が人の仕事を奪う」といった、機械への「代替」の議論を招きやすい。実際、フレイ&オズボーン(2013)※2 が「米国人の総労働者数の約47%は、今後10年から20年のうちにAI等に代替される可能性が70%を超える」と発表したことを皮切りに、以降、国内外のさまざまな機関で予測がなされてきた。また、オズボーンらは職業ベースで自動化リスクを予測しているのに対し、経済協力開発機構(OECD)は職業を複数のタスクに分解し、タスク別に自動化を推定している。そこでは21のOECD諸国の平均で、9%の仕事が自動化可能との算定結果が導かれ、技術の進歩による脅威はそれほど大きくないとしている。予測の前提の置き方次第で、代替度合いは大きく異なるといえる。

このような議論は「ヒト」と「機械」を対立関係に置いている。しかし、仕事の現場での機械による自動化の状況を見てみると、一人の人間がそっくりそのまま機械に置き換わるケースはまれであり、タスクの一部を機械が行っているにすぎない。「代替」ではなく、「補完」といった方が実態に近いのである。

確かに、AIなどが職場に浸透する速度が速まれば、失業者が増加する恐れはある。しかし、人口減少の影響により、日本では、2020年から2040年までの20年間で900万人近く就業者が減少するという。この労働政策研究・研修機構の予測※3を踏まえると、長期的に見れば人余りの心配よりも、仕事の進め方や中身が変わることで就業者に求められる能力要素が変化する点を重視すべきだろう。同じ職務でも人間だけで遂行する際と、AIと補完しあいながら行う際では、必要とされる能力は異なるからである。

仮に「量的」に労働の需給がマッチしていても、「質の面」、つまりスキルがマッチしなければ、労働力として顕在化はしない。私たち就業者には、今後AIとの協業を前提とした職業能力の獲得が求められている。

就業者アンケートから見た「今後求められる能力」

冒頭に述べた当社実施のアンケートデータから、AIとの協業時代に就業者が求められる能力について考えてみたい。職業能力には大きく分けると、知識やスキルなど「認知的能力(cognitive skills)」とコミュニケーション力や創造力などの「非認知的能力(non-cognitive skills)」の2タイプがある。前者はAIが強みを発揮しやすい領域であるため、AIとの協業を踏まえると、主に後者において人間としての強みと存在価値を発揮させる必要が出てくる。そのため、本稿では今後特に就業者に必要となる「非認知的能力」の要素は何かを考察する。

AIとの協業において重要となる能力の分析に当たっては、非認知的能力の要素として経済産業省が2016年に打ち出した「社会人基礎力」※4、すなわち「前に踏み出す力(アクション)」の2要素、「考え抜く力(シンキング)」の2要素、「チームで働く力(チームワーク)」の6要素を参考に、交渉力、企画力、判断力などを追加した計18要素を対象とした。

その結果、AIとの協業の際に求められる能力要素は就業者の属する企業の業種や職種によって大きく異なることが明らかになった。業種別では建設業で「計画力」、製造業で「創造力」、卸売・小売業は「判断力」、医療・福祉は「創造力」と「判断力」が、AIとの協業において特に重要になる可能性が高い(図)。一方、職種別では、専門的・技術的な仕事で「企画力」と「創造力」、事務的な仕事で「判断力」、販売の仕事で「創造力」、そして、管理的な仕事で「企画力」「創造力」「計画力」「判断力」の四つを組み合わせた総合力が必要とされているとの結果になった。

「計画力」「判断力」「創造力」など、上記に掲げる能力要素はいずれも、社会人基礎力の類型でいえば「考え抜く力(シンキング)」、つまり思考力に該当する。思考局面で就業者はこれらの能力を活用し、AIで補完しつつ生産性を高めることが求められていると解釈できる。なお、本アンケートでは就業者に対し、今と同じ職務に就いている前提で、AIと共同で職務を遂行するには今後どのような能力を高める必要があると認識しているのかを尋ねている。あくまで就業者自身の認識を問うものであり、職務へのAIの適用に関する理解の深さなどによる回答バイアスが一定程度、含まれていることに留意する必要がある。
図 AIとの協業において重要になる可能性が高い能力要素(業種別:一部)
図 AIとの協業において重要になる可能性が高い能力要素(業種別:一部)
出所:三菱総合研究所

AIとの協業時代における能力開発の視点

就業者の非認知的能力、とりわけ思考力を効果的に高めるには、社員自身の主体性が重要であり、企業は側面支援するというスタンスが求められる。企業が社員に対して能力開発支援を行うインセンティブは一般的に弱い。なぜなら、企業がそうした支援を行っても、その利得は就業者自身に帰属するだけで、転職してしまえばその会社にとって投資効果はゼロになるためである。この点は、思考力が「ポータブルスキル」※5と呼ばれる能力タイプの一種であり、特定の企業や業種、職種にあまりとらわれないという特性に起因している。将来必要になるスキル、とりわけ個々人が必要なスキルを、企業があらかじめ詳細に知ることができないことも企業主導の教育訓練を行う上でネックとなっている。そもそも、非認知的能力の開発には就業者自身の自発的な学習が最も効果的であり、「やらされ感」があっては、効果は低くなる。

ただし、競争力獲得のためにAIとの協業に必要な非認知能力を備えた人材を確保しなければならない、という企業側の危機感は大きい。就業者が自発的かつ主体的に能力開発を行うことが基本であるが、企業が向かっていく方向と、一人ひとりの社員が伸ばしていくべき能力を明確化しつつ、社員の能力開発の意欲を引き出すことのできない企業は淘汰(とうた)されていくのではないだろうか。

企業が社員の主体的な能力開発を支援する際にヒントになるのは、ジョン・D・クランボルツによる「計画性偶発理論」※6 である。これは個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定されるとの理論であり、その偶然を計画的に設計し、よりよいキャリアを築く姿勢が重要であるとして、この理論をベースに以下の五つの行動指針を提起している。第一に「好奇心(Curiosity)」、絶えず新しい学習の機会を模索し続けること、第二に「持続性(Persistence)」、失敗に屈せず、努力し続けること、第三に「柔軟性(Flexibility)」、こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること、第四に「楽観性(Optimism)」、新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること、第五に「冒険心(Risk Taking)」、結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと、である。「持続性」と「柔軟性」は一見、矛盾するようにも思えるが、要はケース・バイ・ケースなのであろう。社員に対して「どのような能力開発のメニューを与えるか」ではなく、「いかにして能力開発への意欲を引き起こさせるか」が重要といえる。

個人が「職業人」として自身の能力を高め続ける意識を持つことが何よりも大切だが、AIとの協業がうまく進まず職のミスマッチが拡大すれば、社会経済全体にも悪影響を及ぼすため、政府や企業の支援も期待したいところである。最後に、就業者の自発的で主体的な能力開発の取り組みを促進するための三つの取り組みを提案したい。

就業者の非認知能力を高めるための効果的な支援

第一は、教育訓練給付制度における「給付範囲の拡大」である。この制度は就業者の主体的な能力開発の取り組み、または中長期的なキャリア形成を支援し、雇用の安定と再就職の促進を図ることを目的として、厚生労働大臣が指定する教育訓練を就業者が自発的に受講した場合に、その費用の一部の給付を受ける仕組みである。

この制度が抱える問題は、給付対象が講座、講習などの、いわゆる「座学」に限られていることである。講座や講習は知識やスキルなどの認知的能力を高めるのには向いているが、思考力をはじめとした非認知的能力を高める上では効果的とはいえない。むしろ、異業種交流会など社外の勉強会、研究会への参加や、グループワーク形式の民間主催の講習会やセミナーなどへの参加、さらには講師として講演や学習支援に携わるといった、いわゆる「状況的学習」(レイヴ & ウェンガー)※7の方が、効果が期待できる。このような能動的な自己学習の活動を活発化するために、給付対象を広げていくことが大切であろう。

第二に、企業において豊富な実践の機会を提供することである。企業が行うOff-JTといえば座学の社内研修であるが、上述の通り非認知的能力を高めるのには効果的ではない。「越境学習」を社内の人材育成プログラムに位置づけるのが望ましい。越境学習とは個人が所属する組織の境界を行き来しつつ、自分の仕事・業務に関する内容について学習・内省する活動である。他社の仕事を行う兼業や副業、海外NPOなどでの一定期間の勤務、各分野の専門家が職業上持っている知識やスキルを無償で行うプロボノ活動などがこれに当てはまる。広く捉えれば、社内の別部署の仕事を兼務する社内兼業も含まれるだろう。企業内あるいは特定の職場内では「知の深化」はできても、「知の探索」※8は難しい。技術革新を背景に求められる能力が目まぐるしく変化する中、越境学習は自身の能力をしなやかに変化させ、その時々の状況に適応する上で効果的な手法の一つとして注目されている。政府は、就業者が行う越境学習の取り組みや企業における越境学習支援のベストプラクティスを提示するなどして、越境学習を推進してはどうだろうか。

第三に、多様なタイプの教育訓練にかかる費用を対象とした税額控除の導入である。2018年度の税制改正(所得拡大促進税制)によって、前年度より給与等の支給額を増加させた場合、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除されることとなっており、さらに人材投資に積極的な企業に対しては税額控除の上乗せ措置が講じられている※9

しかし、そもそも所得拡大を促進する目的で導入された時限的な制度であり、能力開発の促進が主目的ではないため、社員が給与等の支給額を増加させた場合に限られるという課題がある。加えて、外部講師謝金、外部施設使用料、研修委託費などが対象であり、座学以外の教育訓練は想定されていない。これらのことから、企業が教育訓練を行うインセンティブ効果は限定的であると言わざるを得ない。そこで、越境学習活動を含む広義の教育訓練に要した費用を、所得の増加の有無を問わず、法人税額から控除する仕組みを導入してはどうか。

2020年7月17日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2020」には、人的資本形成をはじめとした無形資産への投資を強力に推進することが、将来の成長の鍵となることが明記されている。今後10年単位で数百万人規模の就業者人口が減り続ける日本にとって、就業者一人ひとりの人的資本を高めていくことは重要な政策課題の一つといえる。職業人生がますます長くなる時代において、就業者にはAIとの協業に対応した能力を主体的に磨き続ける意欲を、また、企業と政府にはそれを積極的に支援する覚悟と行動を望みたい。

※1:就業者3,000人を対象として2020年3月に当社が実施したインターネットアンケート調査データを活用。AIとの協業度合いに関する就業者の認識と予想を定量的に分析した。

※2:Frey, Carl Benedikt, and Michael A. Osborne. (2013) “The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerization?” Oxford Martin School,Working Paper

※3:「労働力需給の推計—労働力需給モデル(2018年度版)による将来推計—」独立行政法人労働政策研究・研修機構、2019年。ベースラインケースで875万人の減少が予測されている。

※4:「我が国産業における人材力強化に向けた研究会報告書」経済産業省、2018年

※5:業種や職種が変わっても通用する、持ち出し可能な能力を指す。

※6:Mitchell, K. E., Al Levin, S., & Krumboltz, J. D.(1999) “Planned happenstance: Constructing unexpected career opportunities“ Journal of counseling & Development, 77(2), pp.115-pp.124.

※7:『状況に埋め込まれた学習—正統的周辺参加』ジーン・レイブ、エティエンヌ・ウェンガー、産業図書、1993年

※8:組織学習理論における「知の深化」は、既に組織に存在する知の基盤をさらに深めていくことを意味しており、企業特殊的スキルの向上などが当てはまる。一方、「知の探索」は、組織における知の基盤から逸脱することを意味し、破壊的イノベーションの源泉となる。

※9:本制度は大企業に対しては過去からの教育訓練費の増加、中小企業に対してはこれに加え、賃上げなどを行った企業に対して、給与等支給の増加額の一部を法人税から税額控除するというものである。

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