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フロンティア・テクノロジーの社会実装

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2021.9.24

フロンティア・テクノロジー本部

当社フロンティア・テクノロジー本部は、このたび「フロンティア・テクノロジーの社会実装に向けて」と題した研究レポートを公表いたしました。

かつて技術立国として名を馳せていた日本は、「失われた30年」を経て、グローバルな観点で競争力低下のさなかにあると言わざるを得ません。これは、日本の技術開発力が相対的に低下したのではなく、新たな技術を社会に浸透・定着させていく「社会実装力」が不足していることが根本にあると考えています。この問題意識から、「社会実装力を向上させるにはどうしたらよいのか」という命題に対して研究・考察し、提言をレポートにとりまとめました。

当社は、空、海、宇宙といったフロンティア領域に今後適用していこうとするハードウエア技術(これを「フロンティア・テクノロジー」と呼びます)の社会実装を目指して活動しています。ドローン、空飛ぶクルマ、無人運航船、低軌道衛星、宇宙太陽光発電システムなどはその例ですが、実装までのタイムスケールを含めて広範囲な対象に調査研究・コンサルティング・政策推進支援を行っています。そうした中で感じるのは、日本は「実証」と「実装」の間にあるギャップを越えるのが決してうまくない、ということです。

例えば民生用ドローン。日本はドローン機体を高性能化する技術に長けてはいましたが、一般市民のドローン利用ニーズのポイントである「空撮映像をいかに簡便かつきれいに撮るか」という点に訴求した海外企業のドローンが、結果として大きなシェアを占めるに至っています。日本は、新たな技術の成立性を検証する「実証」は得意で、国家プロジェクトとして盛んに行われています。一方、それを社会に導入し浸透させていく「策」への着意が足りておらず、ギャップの向こうにある実装の領域を前に手をこまねいている間に、海外勢の技術・製品に市場を席巻されてしまうという構図が多くなっているのではないでしょうか。今後、フロンティア・テクノロジーを開発・利用していく際にも、実装領域へのギャップをうまく越えていくための「策」と一体で進めていく必要があると考えています。

本レポートでは、先進技術の社会実装に係る海外事例研究を行い、それらの分析・整理を通じて、フロンティア・テクノロジーの社会実装の成否のカギを握る5つのキーファクターを導き出しました。
  1. ビジネスモデル:利益を確保できるか、また、それが持続的か。
  2. 戦略:自前主義にとらわれずパートナーとの座組ができているか。知的財産戦略は周到か。
  3. 訴求効果:それまでに無かった新しい価値を提供できるか。
  4. 合意形成・センスメイキング:ユーザーの合意を形成するための制度・ルールが作れるか。
  5. 社会受容性・Well-being:安心・安全が確保され、人生をより豊かにすることができるか。

そして、これらキーファクターの実現確率を上げるために、「政府」「産業界」「学術界」のそれぞれの主体が相互に関連しながら、最終ユーザーである「市民」を積極的に巻き込んで課題解決に共に取り組んでいくための仕組み(研究レポートでは「パブリック・エンゲージメント」と表現しています)を戦略的に活用して、テクノロジーの社会実装に向かうことを提言しています。
図 社会実装力向上のための政府・産業界・学術界・市民のつながりと役割
図 社会実装力向上のための政府・産業界・学術界・市民のつながりと役割
出所:三菱総合研究所
このたび当社がとりまとめた研究レポートが、フロンティア・テクノロジーの社会実装を後押しする一助となれば幸いです。

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