一方、開示項目の一つであるリスク分析などで気候シナリオを用いる利用者の立場からすると、多数提示される気候シナリオの分析結果をどう捉えればよいか戸惑うこともあるだろう。本コラムではこうした気候シナリオを比較しつつ、特に金融機関向けに、シナリオ分析を実施していく上で知っておくべき背景知識やデータを用いるにあたっての留意点などを紹介する。
※1:国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)など。
※2:例えばFuss et al. (以下URL)のFigure 1にあるように、数百の気候シナリオの計算結果を集約し、その中で最も代表性の高いシナリオを同定してRCP(Representative Concentration Pathways)やSSP(Shared Socioeconomic Pathways)というシナリオ群を設定している。
https://www.globalcarbonproject.org/
※3:IEAやIPPCはエネルギー需給や気候変動の分析を行う一方、NGFSは金融機関のリスク管理のために情報公開をしている点で、若干機関の特性や公表目的が異なっている。
※4:気候モデル部分が詳細に分析可能となっており、24種類の温室効果ガスやオゾン・前駆体などの分析が可能。計算結果では負の排出やCCUSが重視される傾向。
※5:MESSAGEは特にエネルギーシステムについて詳細な分析が可能。土地利用に関する分析を行うモジュールであるGLOBIOMとともに用いられる。
※6:REMINDもMESSAGEと同様エネルギーシステムについて詳細な分析が可能。特徴としては学習効果(learning by doing)がモデルに組み込まれているため、再エネ価格下落が反映されやすく再エネ比率が高くなる傾向にある。MAgPIEはGLOBIOMと同様土地利用に関して分析するモジュール。
※7:いわゆる統合評価モデル(Integrated Assessment Model)。これ以外にはAIM、 IMAGE、WITCHなどのモデルがある。2018年5月15日までに論文として投稿されたシナリオ数を上位から並べるとREMIND(93件)、AIM(90件)、IMAGE(61件)、MESSAGE(58件)、GCAM(47件)の順。“Mitigation Pathways Compatible with 1.5°C in the Context of Sustainable Development - Supplementary Material”, Forster et al., Table 2.SM.8
https://www.ipcc.ch/
※8:https://escholarship.org/
なお、エネルギー強度(MJ/km)は経年で変化する想定となっているが、どのような変化パスをたどったかは確認ができないため初期値のエネルギー強度を用いた。
※9:https://www.iea.org/
※10:例えばShellが分析するShell-Sky 1.5というシナリオでは、分析主体の特性上2050年にNet Zeroを実現しているという前提でも使用エネルギーはIEAの約1.5倍、再生可能エネルギー導入比率も40%程度になっており、石化企業にとって比較的都合の良い社会の姿が想定されている。
※11:https://www.jpx.co.jp/