コラム

3Xによる行動変容の未来2030エネルギー・サステナビリティ・食農

社会課題解決に向けた行動促進 第2回:環境配慮行動へのナッジの活用

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2022.12.15

サステナビリティ本部田中智章

3Xによる行動変容の未来2030

POINT

  • 環境配慮のための行動変容の必要性が高まり、取り組みが加速。
  • 再エネ電力メニューへの切り替えに関する意識変容の度合いを検証。
  • 属性によっては情報補足や利他強調的なメッセージが効果的。

環境・エネルギー分野での行動変容の必要性

環境・エネルギー分野では、昨今の脱炭素化の流れを受けて一般家庭や個人にライフスタイルの転換が求められています。環境省は2022年10月に「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを作る国民運動」※1と題して、国民・消費者のライフスタイル転換を後押しするポータルサイトを立ち上げました。このような中、脱炭素に資するライフスタイル転換を促すアプローチとして、行動科学的な手法に基づいて需要家の行動を変容させるニーズは高まっていると感じています。

脱炭素型のライフスタイルが求められる背景には、2020年10月に掲げられたカーボンニュートラル宣言があります。これは2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにするという野心的な目標です。この達成のために、産業、業務、家庭、運輸の各部門で脱炭素にかかる取り組みが加速しており、2021年10月に閣議決定された地球温暖化対策計画では、2030年までに家庭部門で66%の温室効果ガス削減が求められています。

なお、国立環境研究所の公表資料※2によると、国内における直接・間接的な温室効果ガス排出量(カーボンフットプリント)の約6割が消費者の活動に由来し、中でも住居・移動・食・消費財にかかる消費活動による排出が多いという結果も出ています。
図1 ライフスタイルに関連する温室効果ガス排出量の内訳
図1 ライフスタイルに関連する温室効果ガス排出量の内訳
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出所:国立環境研究所「国内52都市における脱炭素型ライフスタイルの選択肢」(左図:p.1 右図:p.115)
https://lifestyle.nies.go.jp/assets/pdf/carbonfootprint_databook.pdf(閲覧日:2022年11月25日)
環境配慮行動としては、住居分野では再エネ電力メニューへの切り替え、太陽光発電設備の導入、省エネ行動、省エネ製品への買い替えなどが挙げられます。また、移動分野では自家用車のEVへの切り替え、脱炭素型の交通機関への代替(スマートムーブ)、カーシェアリングの利用などが挙げられます。食分野では家庭・飲食店での食べ残し削減、消費財分野では衣服や製品のリユース促進、マイボトル・マイカップ利用、ごみ分別などによるプラスチックごみ削減のほか、製造過程でCO2排出量の少ない環境配慮型製品を購入することなどが挙げられます。

なお、環境省はサイト上に家電、住宅関連設備、車など家庭向けの商品・サービスを製造・販売する事業者の目線で参考となる「日常生活部門における温室効果ガス排出削減」の対策メニューも掲載※3しています。

環境配慮行動の促進には、消費者自身の意識や行動変容が不可欠です。自治体や事業者がそのきっかけ作りをしていくことが、ますます重要になってきます。

ナッジを生かした消費者の行動変容に関する施策と取り組み

環境・エネルギー分野でも、人の行動科学的特性を考慮したナッジによる行動変容施策の検討や取り組みが、官公庁を中心に始まっています。例えば2017年度より環境省を中心として日本版ナッジユニットが立ち上がり、省エネリポートにはCO2削減効果の検証をはじめとしてさまざまな取り組み結果がまとめられています。

また2022年度より「ナッジ×デジタルによる脱炭素型ライフスタイル転換促進事業」や「食とくらしの『グリーンライフ・ポイント』推進事業」、「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」などの各種事業が本格的に立ち上がります。そこではさまざまな行動分野に対してナッジの介在や経済インセンティブがどのような行動変容を引き起こすか、また、カーボンフットプリントの見える化などがどのような効果を生み出すかについてデジタル技術を活用した検証が行われる見込みです。

再エネ電力メニュー切り替えにおける行動変容にかかる検証

コラム第1回で紹介した通り、当社は、消費者の行動変容に関する社内研究を進めています。そのうち環境配慮行動は、脱炭素効果は大きいものの需要家の取り組み意向が低いこと※4や、電力会社も家庭向けの電力メニューを再エネ由来に切り替えることに課題認識を持っていることなどを踏まえ、「再エネ電力メニューへの切り替え」にフォーカスして、ナッジメッセージによる行動変容に関する検証を行いました。

具体的には消費者アンケート調査によるRCT(ランダム化比較試験)を行い、行動促進介入策の有無や種類の違いで再エネ電力メニューに対する関心度合いおよび切り替え意向の2段階で意識変容がどの程度起こるのかを検証しました。なお、アンケート調査には当社保有のアンケートパネルである生活者市場予測システム(mif) を活用しています。mifでは毎年さまざまな観点でアンケートを行っており、そこで得られた結果を活用して属性分析をすることも可能です。

調査設計

コラム第1回で示した行動促進設計論に従い、①行動障害となっているボトルネックの分析、②ボトルネックを解消するための行動促進介入策の設計を行いました。①については過年度調査やヒアリングなどを通じて、電気料金値上がりへの懸念や再エネ電力メニュー内容への理解不足、手続きの手間、切り替え効果に対する情報不足などといったものをボトルネックとして設定しました。

これらを踏まえて、それを解消するような②行動促進介入策として、情報補足、現状維持バイアスの解消、損失回避・利得強調、利他強調の観点から4つの類型を設定し、電力会社の既存再エネ電力メニュー申し込みサイトの情報を参考に具体的なメッセージを作成しました(表1参照)。なお、各種介入策の効用を把握するため、レファレンスとなるメッセージも用意しています。
表1 行動科学的特性を基にしたナッジメッセージの設計
行動科学的特性を基にしたナッジメッセージの設計
出所:三菱総合研究所
RCTでは行動促進介入策の差異の有意性および精緻さを担保するため、十分なサンプル数と群間均質の確保が重要になります。また、群間均質は当該メッセージ以外の影響で行動変容が起きないよう、今回の場合では再エネ電力メニューへの関心度などを均質化しておくことが望ましいです。

なお、今回の研究では再エネ電力メニューへ切り替え済みならびに切り替えに無関心な層を除いた潜在層合計2,000サンプルに対して、表1に示すレファレンスメッセージのみを配信する対象群を含む5つの群を想定し、各群を性別年代(男女、20代~60代まで5世代)で均等になるように割り当てました。また、有意差検定としてカイ二乗検定(p値分析)により5%水準と1%水準で評価しました。

検証結果

RCTの結果、全体平均で見た場合、関心度において損失回避・利得強調のナッジメッセージがかなり効果的であることが分かりました(表2参照)。これはボトルネックとして最も大きな要因を占めていた電気料金値上がりへの懸念を解消するメッセージが最も有効であることを示唆しています。その他のタイプのメッセージもレファレンスメッセージのみを配信する対象群に対して意識変容傾向はあるものの目立った差は見受けられませんでした。また、切り替え意向に至っては関心度から平均で15ポイント程度下回り、ナッジによる目立った差は見られませんでした。

次に再エネ電力メニューへの切り替えに影響を及ぼし得る属性についていくつか検討し、当該属性間でメッセージの寄与度がどの程度変わるかを確認しました。具体的には、男女、年代、家族類型、電気料金の支払額、太陽光発電設備や低燃費自動車の保有状況などの軸で検証しました。

例えば性別では男性には損失回避・利得強調型のメッセージが効果的であり、女性は利他強調型のメッセージが響いている傾向にありました。年代で見ると特に若年層では損失回避・利得強調型のメッセージや電源の種類・産地に関する情報補足的なメッセージが効果的であり、それ以外の世代では目立った差は見られません。家族類型別に見ると単身世帯では電源の種類・産地にかかる情報補足的なメッセージ、「夫婦+子」世帯では損失回避・利得強調型のメッセージが効果的な傾向にありました。ナッジメッセージの介在自体の効果もさることながら、属性別により効果的なナッジの種類を選定することは、重要な行動促進策と言えます。
表2 属性の違いによるナッジメッセージの効用と有意性
属性の違いによるナッジメッセージの効用と有意性
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出所:三菱総合研究所

検証を通じて得られた示唆と今後の方向性

再エネ電力メニューへの切り替えは、最終的に価格勝負になりやすく、経済的インセンティブを強調した損失回避・利得強調型のメッセージが支配的であるため、属性ごとに最適なナッジメッセージを選ぶことが難しいと改めて認識しました。

とはいえ、属性によっては情報補足や利他強調的なアプローチも一定程度効果的であるため、これらのナッジメッセージを組み合わせて効果を高めることもできると考えます。また、行動を促す主体である電力会社は顧客の属性情報を保有いるため、スマホアプリなどのデジタルデバイスを通じて属性別にナッジメッセージを配信することも可能であることから、販促戦略に取り入れる価値は高いと思われます。

ナッジメッセージの介在はメッセージの内容だけでなく、介在方法やタイミング・頻度についても考慮する必要があります。ボトルネックの分析や意向調査を通じて最も効用の高い介在策を検討する必要がありますが、再エネ電力メニューへの切り替えでは、過年度調査によって引っ越しやリフォームなど住環境の変化のタイミングに意向が高まることが分かっていますので、このようなタイミングを狙って住宅関連企業と協業するなどして施策を打ち出すことが望ましいでしょう。

現状行動変容にかかる施策や取り組みは社会課題解決を目的としたものが中心です。このような施策・取り組みは社会課題解決だけでなく、事業者視点で経営課題の解決などにも役立てられると考えています。環境・エネルギー分野でも、カーボンニュートラル社会の実現と事業経営課題の解決を両立させる施策や取り組みの一つとして、このような行動変容施策が活用されることを期待します。

※1:環境省「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを作る国民運動」
https://ondankataisaku.env.go.jp/cn_lifestyle/index.html(閲覧日:2022年11月25日)

※2:国立環境研究所「国内52都市における脱炭素型ライフスタイルの選択肢」
https://lifestyle.nies.go.jp/assets/pdf/carbonfootprint_databook.pdf(閲覧日:2022年11月25日)

※3:環境省「温室効果ガス排出削減等指針 日常生活部門の指針(対策メニュー)」
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/gel/ghg-guideline/house/(閲覧日:2022年11月25日)

※4:MRIマンスリーレビュー2022年8月号「脱炭素化に向けた行動変容の促進のために」

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