コラム

食と農のミライ食品・農業サステナビリティ

「未利用魚」活用に向けたアプローチ 外食実証からの考察

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2023.1.24

営業本部藤馬裕一

食と農のミライ

年間約4.6億人分の魚が世界で廃棄されている

「未利用魚」について、聞いたことはあるだろうか。

水産白書では、「水産物の流通過程において、魚体のサイズがふぞろいであったり、漁獲量が少なくロットがまとまらないなどの理由から、非食用に回されたり、低い価格でしか評価されない魚」とされる※1。本コラムでは、利用度の低い「低利用魚」も含めて考察する。

国連食糧農業機関(FAO)のレポート※2によると、世界の漁獲廃棄率は10.8%、年間漁獲廃棄量は910万トン(2010~2014年のデータより推計)である。漁具によってばらつきは大きいが、年間漁獲廃棄量の45.5%(420万トン)が底びき網によるものであった。底びき網漁の平均漁獲廃棄率は21.8%と高くなっている。

日本の海面漁業の漁獲量(2020年)は321万トンである※3。全世界の年間漁獲廃棄量は、日本の漁獲量の約2.8倍に相当しており、そのインパクトの大きさが伺える。

日本の属するNORTHWEST PACIFICの海域の漁獲廃棄率は9.1%とされており※2、あくまでも推計ではあるが、日本では30万トン前後の年間漁獲廃棄が発生している可能性がある。世界と同様に年間漁獲廃棄量の45.5%が底びき網に由来すると仮定すると、13.7万トンが底びき網で廃棄されていると推定される。

世界平均の1人当たり年間食用魚介類供給量は19.9kg(2019年)であり※4、約4.6億人分の消費に見合う量が廃棄されていることになる。一方、日本の1人当たり年間食用魚介類供給量は44.6kg(2019年)であり※4、30万トンが廃棄されているならば、約673万人分の消費に該当する。これらの情報を整理すると、図1の通りとなる。
図1 未利用魚に関する統計値(推計値を含む)
未利用魚に関する統計値(推計値を含む)
出所:三菱総合研究所

*1:内水面漁業の漁獲量を除くとされており、海面漁業と判断。漁獲廃棄率より割り戻して算定。なお、2018年の世界の海面漁業の漁獲量は8,440万トンとされ※5、2010~2014年のデータから推計した場合に大きな差分はない。

*2:2010~2014年のデータからの推計値※2

*3:底びき網の漁獲廃棄率より割り戻して算定。

*4:2020年の値(2023年1月時点で最新の令和3年度水産白書は2020年の値を使用)※6

*5:日本の属するNORTHWEST PACIFICの海域の漁獲廃棄率9.1%※2をもって推計。

*6:世界の漁獲廃棄量のうち45.5%が底びき網に由来することから※2日本でも当該比率と仮定して推計。

*7:2019年の値(2023年1月時点で最新の令和3年度水産白書は2019年の値を使用)※4

広がる未利用魚活用の動き

未利用魚の大半は洋上廃棄されてしまうが、船内選別を経て、産直・加工・小売・外食で活用される事例がある(図2、表1)。水産資源管理や食品ロスの削減、海洋汚染の防止など、サステナビリティへの企業・消費者意識の高まりもあって、近年事例が増えつつある。

未利用魚は小ロット・多品種かつ供給が不安定なため、持続可能なビジネスとして活用するには工夫が必要である。具体的には、ハード面に加えて、ソフト面のアプローチも組み合わせることが有効である。

ハード面

①船内選別を支援する器機の導入
②規格外魚類を効率的に集約して加工する仕組みの構築 など

ソフト面

③加工・小売・外食向けのレシピの開発
④サプライヤーの意識改革
⑤消費者への魅力的な遡及(そきゅう:行動・意識変容の促進) など

買い手を確保することで、生産者に未利用魚を持ち帰るインセンティブが生まれる。
 
図2 未利用魚の普及に向けたアプローチ
未利用魚の普及に向けたアプローチ
出所:三菱総合研究所
表1 未利用魚の活用事例
未利用魚の活用事例
出所:各種資料を基に三菱総合研究所作成

未利用魚の意味を消費者に伝えて購買を促進する

三菱総合研究所は、これまで接してきた関係者とのやりとりから、未利用魚活用が広がるためには、「⑤消費者への魅力的な遡及」のアプローチにフォーカスし、消費者が未利用魚の意味を理解し、通常価格よりも高く買ってくれる仕組みづくりがポイントになる、との仮説を設定した。

そこで、未利用魚の活用に意欲的に取り組む兵庫県美方郡香美町、同但馬漁協協同組合、農林中央金庫とともに、中之島三井ビルディング4階ダイニング「CUIMOTTE」にて、2022年10月17日~21日の1週間、未利用魚を活用した社食フェアを実施し、行動変容を促す店頭POP・ウェブサイト※14などのコンテンツを作成し、仮説検証を試みた。レシピの開発は、大阪調理製菓専門学校 ecole UMEDA・兵庫県立香住高等学校が担当した(図3)。
図3 学生が開発した未利用魚メニュー
学生が開発した未利用魚メニュー
左:ハタハタの炊き込みご飯でつくった和風オムライス(大阪調理製菓専門学校 ecole UMEDA学生考案)、右:ドギの南蛮漬け(兵庫県立香住高等学校生徒考案)
出所:香美町
供給上の制約から1日30食限定ではあったが、通常価格よりも50円値上げしたメニューは完売し、未利用魚メニューへの関心の高さが伺えた。「生産者や産地を応援するために割高であっても良い」「未利用魚活用メニューはサステナビリティとしての付加価値がある」「支払いの増分によってどう産地に貢献できたか知りたい」といった消費者の声があった。店頭POP・ウェブサイトなどコンテンツの工夫によって、消費者に未利用魚の価値を訴求することで、メニュー選択の行動を促せることが確認できた。

また、消費者の声をダイレクトに産地にフィードバックすることで、産地からも「今後の商品開発やイベント企画に有効」とのコメントが得られた。

今回の社食フェアに参画した但馬漁業協同組合は、消費者と生産者をつなぐ仕組みとして、EXestの「Pocket Owners」※15というサービスを開始する。漁船のシェアオーナー料を支払うことで未利用魚の流通を支援できるだけでなく、特典として、未利用魚の産品・レシピ受け取りや産地訪問ツアーへの参加ができる内容となっている。サステナブルな取り組みを行う産地を消費者が応援できるサービスとして、2023年4月以降の開始に期待したい。
 
三菱総合研究所は、香美町、但馬漁協協同組合、農林中央金庫とともに、未利用魚活用の取り組みを2025年大阪・関西万博の「共創チャレンジ」※16に登録している※17。万博を契機として、未利用魚の活用をもって、「産地応援」「食品ロスの削減」「水産業の活性化」の動きをつくっていきたい。

※1:水産庁「平成21年度水産白書 第1部 トピックス-水産この一年-」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h21/pdf/h_topic.pdf

※2:国際連合食糧農業機関(FAO)“A third assessment of global marine fisheries discards
https://www.fao.org/3/CA2905EN/ca2905en.pdf

※3:水産庁「令和3年度水産白書 第1部 令和3年度 水産の動向 第2章我が国の水産業をめぐる動き」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/R3/attach/pdf/220603-11.pdf

※4:水産庁「令和3年度水産白書 参考図表 3-2 食用魚介類供給量の推移(1)主要国別供給量の推移」
https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/R3/attach/pdf/220603-16.pdf

※5:水産庁 水産研究・教育機構「令和2年度 国際漁業資源の現況 世界の漁業の現状と資源状況について」
https://kokushi.fra.go.jp/R02/R02_01.pdf

※6:農林水産省「令和3年漁業・養殖業生産統計 統計表1(1)海面漁業漁業種類別漁獲量」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kaimen_gyosei/

※7:漁師さん直送市場 fish doorホームページ
https://umai.fish/fisherman/fish-door

※8:Fishlle! ホームページ
https://fishlle.com/

※9:「未利用魚の缶詰」でつくる新市場と社会価値 島根県浜田市の水産加工会社が提示した新機軸
https://project.nikkeibp.co.jp/mirakoto/atcl/food/h_vol80/

※10:五島の魚プロジェクト 未利用魚でフィッシュハム!
https://www.ethicalfood.online/2020/03/171213.html

※11:ベガハウス「2021.12.17_ニュースリリース『〈ベガ弁!南さつま深海魚とコラボ〉審査会レポート』」
https://www.vegahouse.biz/8258/

※12:五島の椿「五島列島の未利用魚を活用したサステナブルな調味料『五島の醤』を使ったスープが今年もSoup Stock Tokyoに登場!」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000012.000066900.html

※13:くら寿司が低利用魚の活用に力を入れるわけ、「琉球スギ」期間限定発売
https://www.ssnp.co.jp/foodservice/215290/

※14:兵庫県美方郡香美町「海の恵み、豊かな食資源を守る町 香美町」
https://sarah30.com/topics/6939

※15:Pocket Owners竜宝丸(兵庫県香美町)ホームページ
https://www.pocketowners.com/products/29

※16:大阪・関西万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を実現するため、自らが主体となって未来に向けて行動を起こしている、または行動を起こそうとしているチームの活動のこと。博覧会協会の「TEAM EXPO 2025」プログラムに、共創チャレンジの登録をすることで、万博に「参加」をすることが可能。

※17:TEAM EXPO共創チャレンジ 未利用魚の新たな活用大作戦!
https://team.expo2025.or.jp/ja/challenge/730