OSAとは、「同志国※2」の軍などを対象に、資機材の供与やインフラの整備などを行う無償による資金協力の枠組みである。2022年12月16日に改定された国家安全保障戦略において、「平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化」するための取り組みの1つとして、この枠組みが設けられることが決定された(表1参照)。
※1:日本経済新聞「外務省、OSA担当室を新設 同志国の防衛装備支援に注力」(2023年7月11日)
https://www.nikkei.com/
※2:同志国とは一般に、「ある外交課題において目的を共にする国」とされる。どのような国が同志国にあたるかどうかは、「日本と目的を共にするかという観点から個別に判断」をするとされ、同盟国とは異なる。「第211回国会 参議院 予算委員会 第14号」(2023年3月24日)より引用
なお、同盟国とは一般に「共通の目的のために互いに行動を共にする」国とされ、日本政府としては米国を唯一の同盟国としている。「第211回国会 安全保障委員会 第9号」(2023年4月18日)より引用
※3:なお、具体的な支援内容や実施上の原則は、2023年4月5日に安全保障会議から示された「政府安全保障能力強化支援の実施方針」に記載されており、その枠内での支援となる点に留意が必要である。
例えば、支援分野としては、「ア 法の支配に基づく平和・安定・安全の確保のための能力向上」として領海や領空などの警戒監視、テロ対策、海賊対策などの支援、「イ 人道目的の活動」として災害対処、捜索救難・救命、医療、援助物資の輸送能力向上などの支援および「ウ 国際平和協力活動」として支援国の軍が国連平和維持活動(PKO)に参加するための能力強化等のための支援などが示されている。
また、実施上の原則としては「防衛装備移転三原則及び同運用指針の枠内での実施」、「支援対象国の経済社会状況等の検討」、「適正性・透明性の確保」などが定められている。
※4:国際平和協力活動に関しては、戦略的アプローチの7つめである、「国際社会が共存共栄するためのグローバルな取組」における「国連平和維持活動(PKO)等の分野で長年貢献をしてきた国際平和協力」という記載が該当すると整理している。
国家安全保障会議「国家安全保障戦略」, p.29(2022年12月16日)より引用
※5:OSAの実施方針には、「OSAの実施に際しては、国家安全保障局、外務省、防衛省等が連携する」、「政府が有するその他の国際協力枠組みとの連携を図る」といったことが定められているものの、具体的な連携の在り方は公表されていない。防衛省の戦略を定めた国家防衛戦略においても、OSAについての記述はなく、既存の枠組みとの関係性は不明である。
また、ODAなどの政策指針を定めた「開発協力大綱」の改定版が2023年6月9日に閣議決定されたが、OSAに係る記述は存在していない。
※6:類似の事例として、木場、安富(2016年)は能力構築支援活動とODAとの政策調整過程について詳述している。木場らは、能力構築支援の開始に当たって防衛省、外務省および当時の政権与党との間で具体的な合意がなかったこと、実施段階においては外務・防衛両省の課長級による会議が設置されたものの、「ODAとの戦略的統合活用や外務省との情報共有のためのメカニズムは不十分」であったことを指摘している。
木場紗綾、安富淳「防衛省・自衛隊による能力構築支援の課題 : 「パシフィック・パートナーシップ」における米軍の経験から学ぶ」,国際協力論集 24 (1), 103-123, 2016-07
※7:例えば、木場、安富(2016年)により、能力構築支援における「自衛隊は支援対象国に対し、施設を作って供与することはもちろん、中古の機材を供与することもできない」といった課題が指摘されているほか、西田(2022年)は「防衛省・自衛隊には他国との安全保障協力における新規装備品の供与枠組みが存在しない」と述べている。OSAの創設により、上記で指摘されているような軍事目的での物品・財産の供与なども可能になると思われる。
西田一平太「「開発協力大綱」の改定が示す日本の課題—ODAと安全保障」(笹川平和財団、2022年6月27日)
https://www.spf.org/
※8:図中に示したような複数制度による連携した支援は前例がないわけではない。例えば、2021年にはODAを通じてフィリピン軍に供与された人命救助器材の取り扱い方法などを防衛省の能力構築支援の枠組みを通じて教育・研修するといったことが行われている。
ただし、人命救助器材はあくまで、開発協力大綱に照らして非軍事目的に使用されるものと確認された上で供与されている。OSAの創設により軍事分野でのそのような連携も可能になるものと思われる。
参照;
防衛省「フィリピン陸軍に対する人道支援・災害救援分野の能力構築支援について」(2021年11月12日)
https://www.mod.go.jp/
産経新聞「自衛隊装備、ODAで初供与 来年度 比軍に人命救助器材」(2019年9月23日)
https://www.sankei.com/
※9:なお、「民生目的、災害救助等非軍事目的の開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合」には、「実質的意義に着目し、個別具体的に検討」とすることとなっており、諸外国の軍が関わっていたとしても一律で軍事目的とはならない点に留意されたい。
外務省「開発協力大綱」, p.12(2023年6月9日)より引用
※10:国立国会図書館 調査及び立法考査局「日本の諸外国に対する海上法執行能力構築支援—巡視船艇及び自衛隊の装備品等の供与を中心に—」(2020年4月20日)
https://dl.ndl.go.jp/
※11:ただし、稲場(2022)は、他国では国境警備隊の能力強化等が開発援助委員会(DAC)基準でODAに該当しないと整理された事例があることから、沿岸警備隊の支援が非軍事原則においては「極めてグレー」と整理している。
稲場雅紀「開発協力大綱の改定に関する 有識者懇談会 第3回 稲場提出資料」(2022年10月21日)
https://www.mofa.go.jp/
※12:外務省「円借款の供与に関する日本国政府とフィリピン共和国政府との間の交換公文」(平成26年外務省告示第133号)pp.610-612を参照
※13:第190回国会 参議院 政府開発援助等に関する特別委員会 第6号(平成28年5月20日)において、岸田外務大臣(当時)は①巡視船の供与に際しては軍事転用されないために相手国政府との間で目的外使用または第三者の移転を行わないことを文書で同意している、②供与後もモニタリング等を通じて適切な使用を担保するための取り組みを続けていると答弁している。
※14:参照;
外務省「開発協力適正会議 第68回会議録」(2023年4月25日)
https://www.mofa.go.jp/
独立行政法人国際協力機構 「企画競争説明 ラオス国ビエンチャン国際空港整備計画準備調査(QCBS)」(2023年5月31日)
https://www2.jica.go.jp/
※15:ただし、OSAにおいても野放図に支援を行えるわけではなく、「政府安全保障能力強化支援の実施方針」においては、「国際紛争との直接の関連が想定しがたく、OSAの目的の達成にとって意義のある分野に限定して協力を実施」することとされているほか、支援の適正性を確保するために「評価・モニタリングの実施とその結果についての情報開示」、「供与後の目的外使用や第三者移転に係る適正管理」および「国際連合憲章の目的及び原則との適合性」の確保を行っていくこととされている。
なお、適正利用の担保に当たっては、長期的な支援の歴史のあるODAや、各国の防衛関連組織とのネットワークを有する防衛省との情報共有が重要になるものと思われる。
国家安全保障会議「政府安全保障能力強化支援の実施方針」(2023年4月5日)より引用