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外交・安全保障 第12回:政府安全保障能力強化支援(OSA)とは何か?

戦略的な対外協力の連携可能性を探る

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2023.7.28

フロンティア・テクノロジー本部鈴木拓海

外交・安全保障

POINT

  • 安全保障上の能力向上を目的とした新たな無償資金協力の枠組み(OSA)が創設。
  • 国家安全保障戦略ではODAなどとともに自由で開かれた国際秩序のための取り組みと位置づけ。
  • OSAとODAなどはお互いの補完関係を活かし、共通の目的を達成していくことが重要。

国際協力の新たな支援の枠組み誕生「OSA」

2023年4月5日、政府安全保障能力強化支援(Official Security Assistance:OSA)と呼ばれる新たな支援の枠組みが創設され、同年7月11日には、OSAの担当部署である「安全保障協力室」の新設が発表された※1

OSAとは、「同志国※2」の軍などを対象に、資機材の供与やインフラの整備などを行う無償による資金協力の枠組みである。2022年12月16日に改定された国家安全保障戦略において、「平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化」するための取り組みの1つとして、この枠組みが設けられることが決定された(表1参照)。
表1 国家安全保障戦略におけるOSAについての記載
国家安全保障戦略におけるOSAについての記載
出所:「国家安全保障戦略」, p.16(2022年12月16日)より引用(下線太字は三菱総合研究所追加)
これまで日本は、外務省や国際協力機構(JICA)を中心として開発途上国に対する政府開発援助(Official Development Assistance:ODA)を実施してきたほか、安全保障に関連する分野では海上保安庁や防衛省などがさまざまな国際協力を行ってきた(表2参照)。OSAはこれらの取り組みとどのような点が異なり、どのような点が新しいと言えるのだろうか。
表2 安全保障分野での国際協力の例
安全保障分野での国際協力の例
出所:各種公開資料を基に三菱総合研究所作成

OSAと他の枠組みの違い

OSAとODAは目的、支援対象、支援内容の面で大きく異なる。特に、ODAでは「非軍事原則」という原則が存在し、軍事目的の支援を行うことは不可能である。他方で、OSAはむしろ諸外国の軍を、主たる支援対象として想定している。支援形態という観点では、ODAのほうが無償の資金供与に加え、有償貸付や多国間援助なども行える一方で、OSAはあくまで無償の資金協力に限定される(表3参照)。
表3 OSAとODAの差異
OSAとODAの差異
出所:各種公開資料を基に三菱総合研究所作成
また、OSAとODA以外の国際協力枠組みは表4で示す観点で異なっている。
表4 OSAとODA以外の国際協力枠組みの比較
OSAとODA以外の国際協力枠組みの比較
出所:各種公開資料を基に三菱総合研究所作成
ODAとは異なり、能力構築支援および防衛装備・技術協力は軍などを対象とすることが可能だが、前者は装備品の供与やインフラ整備といった物的支援ができない。後者は防衛装備品の移転や共同研究などが可能だが、不用品・用途廃止品として認定されたもの以外は無償で供与できない。

OSAの創設により、既存制度では不可能であった、開発途上国の軍などを対象とした無償の物的支援(資機材の供与やインフラ整備)が可能になった※3。これにより、従来のODAでは難しかった軍民共用のインフラの整備(後述)や、新造された防衛装備品の供与が可能になる。

異なる手段と共通する国益

これまで見てきたように、OSAは他の国際協力枠組みとは異なる目的や手段を含んでいる。他方で、これらが全く無関係というわけではなく、共通の目的を達成するための手段としての役割も期待されている。

実際、表3、表4で取り上げた枠組みのうち、OSA、防衛装備・技術協力、能力構築支援およびODAは国家安全保障戦略において「平和で安定した国際環境を能動的に創出し、自由で開かれた国際秩序を強化させていくための外交的取り組み」という戦略アプローチの中に位置づけられている(図1参照)。
図1 国家安全保障戦略における各種枠組みの位置づけ※4
国家安全保障戦略における各種枠組みの位置づけ
出所:「国家安全保障戦略」,pp.1-7(2022年12月16日)を元にボックスおよび矢印は三菱総合研究所加筆
それぞれの枠組みは、個別の政策目的の実現のための手段であると同時に、「平和で安定した国際環境の能動的な創出」、「自由で開かれた国際秩序の強化」といった共通の目的を目指すことも求められているといえよう。

国際協力活動が連携し合う可能性

異なる目的や実施主体を含む複数の枠組みを効果的に活用し、共通する目的を達成することは容易ではないだろう。

本コラム執筆時において、これらの枠組み間の具体的な役割分担や連携方法については明らかにされていないものの※5※6、今年度のOSA実施予定国では既に他の国際協力枠組みが実施されている(図2参照)。以下、それぞれの枠組みが共通の目的を達成するために連携する可能性について考察する。
図2 南アジア、東南アジア周辺の国際協力の実施状況
南アジア、東南アジア周辺の国際協力の実施状況
出所:各種公開資料を基に三菱総合研究所作成

①安全保障分野における柔軟な協力

「OSA」、「能力構築支援」および「防衛装備品・技術協力」には、防衛に関わる国際協力という共通項がある。これらの制度を組み合わせることにより、有償または無償で、ソフト面(人材教育・技術移転)とハード面(資機材などの供与と装備品移転)双方の支援が可能となる※7。つまり、それぞれの制度の足りない部分を補いつつ、相手国のニーズにあった柔軟な協力を行うことが可能になるだろう(図3に具体的な制度連携のイメージを記載)※8
図3 防衛協力における制度間連携のイメージ
(領海警備能力の強化などを想定)
防衛協力における制度間連携のイメージ(領海警備能力の強化などを想定)
出所:各種公開資料を基に三菱総合研究所作成

②軍民共用分野における支援

ODAには「非軍事原則」と呼ばれる原則が存在し、軍事的用途に繋がる協力はできない※9

ODAではこれまで、安全保障分野に関係する協力や、軍民で共用しうる空港・港湾、電力・通信施設などであっても、ODAの対象にするために軍事分野と民生分野を切り離しながら協力を行ってきた(表5参照)。裏を返せば、そのような切り分けが難しい対象についての協力は難しい現状があると言えるだろう。
表5 ODAにおける安全保障/軍民共用分野の支援例
ODAにおける安全保障/軍民共用分野の支援例
出所:各種公開資料を基に三菱総合研究所作成
OSAが新設されたことにより、従来のODAでは実施が難しかった軍民共用分野(軍の統制下にある沿岸警備隊への支援/軍民が共用する港湾・空港など)に対する支援も可能になる※15(図4参照)。さらに、協力相手国にとっては、ODAを受けることができるよう形式を整えるだけのために軍民を切り分ける必要もなくなり、本来のニーズに応じた支援が可能になる。
図4 軍事分野/民生分野/軍民共用分野における支援枠組み
軍事分野/民生分野/軍民共用分野における支援枠組み
出所:各種公開資料を基に三菱総合研究所作成
OSAという新たな制度によって、より柔軟に支援対象国のニーズにマッチした支援をできるようになった。それぞれの制度の特性について検討・把握した上で、「平和で安定した国際環境の能動的な創出」、「自由で開かれた国際秩序の強化」といった戦略的目標を追求していくことが重要であろう。

※1:日本経済新聞「外務省、OSA担当室を新設 同志国の防衛装備支援に注力」(2023年7月11日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA114VU0R10C23A7000000/(閲覧日:2023年7月12日)

※2:同志国とは一般に、「ある外交課題において目的を共にする国」とされる。どのような国が同志国にあたるかどうかは、「日本と目的を共にするかという観点から個別に判断」をするとされ、同盟国とは異なる。「第211回国会 参議院 予算委員会 第14号」(2023年3月24日)より引用
なお、同盟国とは一般に「共通の目的のために互いに行動を共にする」国とされ、日本政府としては米国を唯一の同盟国としている。「第211回国会 安全保障委員会 第9号」(2023年4月18日)より引用

※3:なお、具体的な支援内容や実施上の原則は、2023年4月5日に安全保障会議から示された「政府安全保障能力強化支援の実施方針」に記載されており、その枠内での支援となる点に留意が必要である。
例えば、支援分野としては、「ア 法の支配に基づく平和・安定・安全の確保のための能力向上」として領海や領空などの警戒監視、テロ対策、海賊対策などの支援、「イ 人道目的の活動」として災害対処、捜索救難・救命、医療、援助物資の輸送能力向上などの支援および「ウ 国際平和協力活動」として支援国の軍が国連平和維持活動(PKO)に参加するための能力強化等のための支援などが示されている。
また、実施上の原則としては「防衛装備移転三原則及び同運用指針の枠内での実施」、「支援対象国の経済社会状況等の検討」、「適正性・透明性の確保」などが定められている。

※4:国際平和協力活動に関しては、戦略的アプローチの7つめである、「国際社会が共存共栄するためのグローバルな取組」における「国連平和維持活動(PKO)等の分野で長年貢献をしてきた国際平和協力」という記載が該当すると整理している。
国家安全保障会議「国家安全保障戦略」, p.29(2022年12月16日)より引用

※5:OSAの実施方針には、「OSAの実施に際しては、国家安全保障局、外務省、防衛省等が連携する」、「政府が有するその他の国際協力枠組みとの連携を図る」といったことが定められているものの、具体的な連携の在り方は公表されていない。防衛省の戦略を定めた国家防衛戦略においても、OSAについての記述はなく、既存の枠組みとの関係性は不明である。
また、ODAなどの政策指針を定めた「開発協力大綱」の改定版が2023年6月9日に閣議決定されたが、OSAに係る記述は存在していない。

※6:類似の事例として、木場、安富(2016年)は能力構築支援活動とODAとの政策調整過程について詳述している。木場らは、能力構築支援の開始に当たって防衛省、外務省および当時の政権与党との間で具体的な合意がなかったこと、実施段階においては外務・防衛両省の課長級による会議が設置されたものの、「ODAとの戦略的統合活用や外務省との情報共有のためのメカニズムは不十分」であったことを指摘している。
木場紗綾、安富淳「防衛省・自衛隊による能力構築支援の課題 : 「パシフィック・パートナーシップ」における米軍の経験から学ぶ」,国際協力論集 24 (1), 103-123, 2016-07

※7:例えば、木場、安富(2016年)により、能力構築支援における「自衛隊は支援対象国に対し、施設を作って供与することはもちろん、中古の機材を供与することもできない」といった課題が指摘されているほか、西田(2022年)は「防衛省・自衛隊には他国との安全保障協力における新規装備品の供与枠組みが存在しない」と述べている。OSAの創設により、上記で指摘されているような軍事目的での物品・財産の供与なども可能になると思われる。
西田一平太「「開発協力大綱」の改定が示す日本の課題—ODAと安全保障」(笹川平和財団、2022年6月27日)
https://www.spf.org/iina/articles/nishida_05.html(閲覧日:2023年6月23日)

※8:図中に示したような複数制度による連携した支援は前例がないわけではない。例えば、2021年にはODAを通じてフィリピン軍に供与された人命救助器材の取り扱い方法などを防衛省の能力構築支援の枠組みを通じて教育・研修するといったことが行われている。
ただし、人命救助器材はあくまで、開発協力大綱に照らして非軍事目的に使用されるものと確認された上で供与されている。OSAの創設により軍事分野でのそのような連携も可能になるものと思われる。
参照;
防衛省「フィリピン陸軍に対する人道支援・災害救援分野の能力構築支援について」(2021年11月12日)
https://www.mod.go.jp/j/press/news/2021/11/12b.pdf(閲覧日:2023年6月23日)
産経新聞「自衛隊装備、ODAで初供与 来年度 比軍に人命救助器材」(2019年9月23日)
https://www.sankei.com/article/20190923-6QOSFTLQWNMCPL7NFJ5ZNDBCKQ/(閲覧日:2023年6月23日)

※9:なお、「民生目的、災害救助等非軍事目的の開発協力に相手国の軍又は軍籍を有する者が関係する場合」には、「実質的意義に着目し、個別具体的に検討」とすることとなっており、諸外国の軍が関わっていたとしても一律で軍事目的とはならない点に留意されたい。
外務省「開発協力大綱」, p.12(2023年6月9日)より引用

※10:国立国会図書館 調査及び立法考査局「日本の諸外国に対する海上法執行能力構築支援—巡視船艇及び自衛隊の装備品等の供与を中心に—」(2020年4月20日)
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11486061_po_083104.pdf?contentNo=1(閲覧日:2023年6月23日)

※11:ただし、稲場(2022)は、他国では国境警備隊の能力強化等が開発援助委員会(DAC)基準でODAに該当しないと整理された事例があることから、沿岸警備隊の支援が非軍事原則においては「極めてグレー」と整理している。
稲場雅紀「開発協力大綱の改定に関する 有識者懇談会 第3回 稲場提出資料」(2022年10月21日)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/100414505.pdf(閲覧日:2023年6月23日)

※12:外務省「円借款の供与に関する日本国政府とフィリピン共和国政府との間の交換公文」(平成26年外務省告示第133号)pp.610-612を参照

※13:第190回国会 参議院 政府開発援助等に関する特別委員会 第6号(平成28年5月20日)において、岸田外務大臣(当時)は①巡視船の供与に際しては軍事転用されないために相手国政府との間で目的外使用または第三者の移転を行わないことを文書で同意している、②供与後もモニタリング等を通じて適切な使用を担保するための取り組みを続けていると答弁している。

※14:参照;
外務省「開発協力適正会議 第68回会議録」(2023年4月25日)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/100513007.pdf(閲覧日:2023年6月23日)
独立行政法人国際協力機構 「企画競争説明 ラオス国ビエンチャン国際空港整備計画準備調査(QCBS)」(2023年5月31日)
https://www2.jica.go.jp/ja/announce/pdf/20230531_235148_1_01.pdf(閲覧日:2023年6月23日)

※15:ただし、OSAにおいても野放図に支援を行えるわけではなく、「政府安全保障能力強化支援の実施方針」においては、「国際紛争との直接の関連が想定しがたく、OSAの目的の達成にとって意義のある分野に限定して協力を実施」することとされているほか、支援の適正性を確保するために「評価・モニタリングの実施とその結果についての情報開示」、「供与後の目的外使用や第三者移転に係る適正管理」および「国際連合憲章の目的及び原則との適合性」の確保を行っていくこととされている。
なお、適正利用の担保に当たっては、長期的な支援の歴史のあるODAや、各国の防衛関連組織とのネットワークを有する防衛省との情報共有が重要になるものと思われる。
国家安全保障会議「政府安全保障能力強化支援の実施方針」(2023年4月5日)より引用