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EV普及が電力の安定供給を救う 第1回:充電コネクター・通信規格

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2023.9.12

サステナビリティ本部荒井綾希子

小林アンナ

辻克哉

環境・エネルギートピックス
将来の脱炭素化の切り札としてEVの普及拡大が期待される。搭載する蓄電池の充放電機能が日本での電力の安定供給を救うかもしれない。発電量に波がある再生可能エネルギーの需給を調整する切り札になりえる可能性も秘めている。しかし実際には充電コネクターの規格問題、そして意外なことに充放電時の通信機能など改善の余地がある。当シリーズではEVと電力にまつわる現状と課題を整理しつつ、日本の向かうべき方向性を示したい。

EVの蓄電池が電力供給の安全装置に

2050年のカーボンニュートラル実現を国が掲げる中、運輸分野の脱炭素化に向けて内燃機関車からEVに移行していく「電動化」。カーボンニュートラル実現に向けた昨今の動きは、読者もご存じのことだろう。ただし、電動化による脱炭素化には「電力そのものの脱炭素化」も不可欠であることは忘れがちだ。せっかくEVが普及しても、電力供給に化石燃料を大量消費するようでは本末転倒ではないだろうか。

国が太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの導入を加速させたい背景にはこうした事情も深く関わっている。しかし、再生可能エネルギーは天候などによって出力が大きく変動する。総供給電力に占める再エネ比率が上昇するのに連れて、需給調整(電力の需要と供給を一致させること)が難しくなる。つまり再生可能エネルギーの導入を拡大させる上では、需給を調整できる設備とセットで導入することが不可欠となる。調整力を持つ設備としては、例えば火力発電や揚水発電、蓄電池があるが、EVも蓄電池を搭載している車両であり、調整力としての役割が期待されている。

このようにEVは脱炭素化、電力系統の安定化双方に貢献できるテクノロジーである。しかし本格的な普及に向けては、ユーザビリティやコスト、通信方式の標準化という面で課題がある。これらの課題を解決し、①ユーザーの利便性の確保、②EVならではの価値(上記の調整力の例も、その1つである)の発揮という将来像の実現を目指す上で、本コラムでは特に、充電コネクターおよび通信に関して重要となる論点について取り上げる。

ユーザーの利便性確保・充電コネクターの課題

EVと充電器を接続するコネクターの規格は、大きく分けて「CHAdeMO」「CCS」「NACS」「GB/T」「ChaoJi」の5つがある(図1)。このうちCHAdeMOは日本発の規格であり、国内で最も多く普及している。EV導入初期には欧米でもCHAdeMO規格の充電コネクターを搭載した車両・充電器の普及が進められた。
図1 各充電コネクターの例
各充電コネクターの例
出所:EDF、Teslaなどの各社サイトより三菱総合研究所作成
その一方で、欧州ではCCSが標準規格として採用され、各国でCCS仕様のコネクターを採用した充電インフラの設置を進めている。その他、米国ではTeslaのEVが備えている充電コネクターの規格であるNACSを、FordやGMなどの米自動車メーカー各社が採用する見込みである。米国の自動車技術協会(SAE)も標準化に動いたことで、NACSがデファクトスタンダードになりつつある。

このように各地域で戦略的に規格の標準化が進められていく中で、日本でも充電コネクターの規格として、CHAdeMOの普及推進を継続するのか、それとも他地域の規格を採用するのかといった、標準化や性能改善の検討について、関係各社で意識を合わせて進めていく必要がある。

各規格にはそれぞれ強みがある。例えばCHAdeMOは車両から家庭や建物、電力系統などへ放電する「V2X」が既に実現できる規格であるため放電機能に強みがある。一方のCCSは普通・急速充電の両方に対応しており出力が大きい。NACSはケーブルが細く取り回しが容易である。といった特徴がある。

このように各規格には一長一短がある。かといって複数種類の規格を車両や充電器に実装すればコストが上がる。コネクター問題が結果的にユーザーのEV購入の足かせになることが懸念される。このため、どの規格を採用していくのかについてはユーザーの利便性、メーカーの開発コスト、国としての産業戦略などの要素を勘案しつつ、コネクターの改善方法や採用する規格の考え方を、ステークホルダー間で検討していく必要がある(図2・論点①)。
図2 EVの系統接続に関する構成図
EVの系統接続に関する構成図
出所:三菱総合研究所

EVならではの価値実現

前述の通りEVはモビリティとしての価値以外に電力系統の安定化、災害対策などのさまざまな社会的な課題に対して貢献できる可能性を持っている。

例えば、再生可能エネルギーの発電量が余剰になっている時間帯にEVを充電することで、需給調整および再生可能エネルギーの出力抑制回避の双方に対応できる。再生可能エネルギー由来の電力を蓄える車両は、走行時のCO2排出量はゼロとみなせる※2ため、運輸部門の脱炭素化にも貢献していると言える。さらに発電が不足するタイミングに放電することで需給逼迫を緩和することができる。

このようにEVの有効活用で需給双方のコントロールによる電力インフラへの貢献が可能である。EVというテクノロジーならではの価値実現方法といえるだろう。しかし、再生可能エネルギーの発電量が多い時間帯や需給逼迫時、アグリゲーター・CPO※3から指令を受けたEVユーザーが、自らが手動で充放電を制御することは現実的ではない。EVならではの価値を実現するには、充電器やEVを束ねて制御する事業者であるアグリゲーターやCPOなどが遠隔で制御(充電・非充電、放電などの指示を出すこと)する機能が必要となる。

現状を見る限り普通充電器には通信機能が搭載されていないケースも多い。通信機能がなければ、当然のことながらアグリゲーターやCPOが充電タイミングなどを制御することも不可能だ。仮に通信機能が搭載されていても、充電器とアグリゲーター・CPO間の通信プロトコルが標準化されていないという課題もある。統一したプロトコルで制御できる車両が普及することで、効率的に遠隔制御がしやすくなることが重要である(図2・論点②)。

このようにEVならではの価値を十分に発揮にするには、充電器の通信機能の搭載と制御のための通信プロトコルを標準化することが重要となる。また制御の際、EVの接続状態や充電残量などの情報が必要となる。データの連携もまた、非常に重要な普及上の要件と言える※4

経済産業省ではEVの普及と電力インフラへの統合を目指し、EVグリッドワーキンググループ※5を設置している。ワーキンググループではさまざまな課題が議論されているが、本コラムで取り上げている標準化も課題の1つとして提起されている。当社はワーキンググループの事務局の支援を通じて、ここで紹介した課題などの解決に向けた支援を実施していく。

※1:J1772(Type1)、Mennekes(Type2)は普通充電器の規格のこと。

※2:電気を作る際もCO2は排出される。この電気を動力に変換して走るEVも間接的にCO2を排出していることになる。一方で、再生可能エネルギーを作る際はCO2排出がゼロであるため、このエネルギーで走行するEVは、走行時のCO2排出量がゼロと言える。

※3:チャージングポイントオペレーターの略語であり、充電ステーションを設置し、電力インフラへ接続し、充電の管理を実施する運用者のこと。

※4:電気自動車普及に向けた普通充電時のデータ連携の必要性(環境・エネルギートピックス 2021.9.17)

※5:EVグリッドワーキンググループの詳細は次の通り。
経済産業省から「EVと電力システムの統合等に関する調査」を受託(ニュースリリース 2023.7.3)

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