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次世代電力システムにおける系統用蓄電池の動向

海外事例から学ぶ活用のポイント

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2023.10.30

エネルギー・サステナビリティ事業本部中村俊哉

安藤希美

藤田 恵

環境・エネルギートピックス
脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するための「GX実現に向けた基本方針」が2023年2月に閣議決定された。この中で「系統整備・調整⼒の確保」が再エネ主力電源化を実現するための柱と位置づけられた。電力の安定供給のために余剰電力の蓄電や放電を行う系統⽤蓄電池を含む定置⽤蓄電池についても導⼊加速を⽬指すこととなった。海外には、日本より先行して系統用蓄電池の導入が進んでいる国が存在する。これらの事例を踏まえ、日本で系統用蓄電池を導入するポイントを紹介する。

英国 再エネ大量導入でますます重要に

再エネ大量導入への対応として先進的な電力市場設計を進めているのが英国だ。周波数品質が低下していることを受けて、より早い応答が可能な調整力の確保が求められる中、蓄電池を含む分散型エネルギーリソース(DER)の系統利用を促すために抜本的な改革が行われた。それによって2023年には需給調整市場の多くの商品が刷新された。加えて2021年からは卸電力取引市場・バランシングサービス※1・バランシングメカニズム※2といった複数の市場に対して、同じ時間帯に複数のサービスを提供する「同時入札」が認められた。これにより、収益をスタッキング(積み重ね)できるようになり、市場取引で収益を得るマーチャント型のビジネスがしやすくなった。

以上のような背景から、2020年度末の累積で約1GWだった蓄電池の導入量は、2022年度末には2倍近くの1.93GWまで増加した。
図1 各市場商品に対する同時入札の可否
各市場商品に対する同時入札の可否
出所:Modo Energy資料を基に三菱総合研究所作成

英国では「即応性」や「提供能力」に注目

英国の送電システムでは、再エネ導入によって起こる系統の混雑を回避すべく、必要な都度、発電機の出力制御や系統増強などの対応を行ってきた。しかし、大規模な風力発電が英国北部を中心にさらに増加する中で、出力制御と引き換えに、不足する供給力を他のエリアの電源で補う再給電のためのコストがかさんでいる。特にこのコストは、発電事業者がさまざまな市場から得られる収入額や損失額との見合いのもとで提示する価格に基づいて決まるため上昇傾向があり、低減に向けた取り組みの重要性が高まっている。

この問題に柔軟に対応可能な技術として蓄電池が注目されている。混雑発生時に蓄電池が系統に対して即座に充電を行うことで、停電を発生させずに系統を維持することが可能なためである。英国では、必要な都度、蓄電池の能力を調達するのではなく、24時間365日いつでも対応してもらえるようにあらかじめ1~6年といった長期にわたる相対契約を結んでいる。このため、蓄電池としては、他の市場には入札できない代わりに安定的な収入が約束される特長があり、Pathfinderと呼ばれるプロジェクトで契約を行っている。
図2 英国におけるPathfinderプロジェクト
英国におけるPathfinderプロジェクト
出所:National Grid ESO資料を基に三菱総合研究所作成
現状、英国では1~2時間率の系統用蓄電池が主流であるが、カーボンニュートラルの実現に向けてはより長周期の系統用蓄電池を増加させる必要があるとして、政策面での検討が進んでいる。その中ではCap and Floor制度と呼ばれる、最低限の年間収入を保証する制度も検討されている。日本においても長期脱炭素オークションのもと、1日1回以上3時間以上の運転継続が可能な蓄電池に対しては固定費の回収を保証する仕組みの検討が進んでいる。

豪州 配電設備スリム化のために積極的に活用

豪州の配電事業者(Distribution Network Service Providers; DNSP)であるWestern Powerは2016年から、33kV以下の配電線上にコミュニティ共用蓄電池(系統用蓄電池)を設置・運用することでピークシフトを行い、自社の配電設備の潮流改善を行う実証を行ってきた。

この蓄電池の基本的な運用方法は、日中の卸電力価格が安い時間に充電した電力を、夕方以降の卸電力価格が高い時間に需要家へ供給するというものである。実証において、Western Powerは小売事業者と提携し、契約する需要家に対し、夕方以降は一定程度の電力をコミュニティ共用蓄電池から買電したものとみなして需要家の電気料金を割り引く仕組みを提供した。契約した需要家はサブスクリプションとして、1日あたりの定額料金を支払う。

さらに同実証では、需要ピーク時にコミュニティ共用蓄電池から放電することで電気料金を低減した。これにより当該エリアのピーク需要が低減し、配電用変電所の変圧器の容量を50MWから40MWへ削減できる事が確認され、この蓄電池に配電設備をスリム化する効果があることを証明した。

同実証を受け、豪州の規制当局は配電事業者による蓄電池運用の効果を確認した。2020年には配電事業者による蓄電池保有・運用、ならびに費用の一部を託送料金で回収することを認める法改正案が作成された。このように海外では、送配電事業者による系統用蓄電池の設置・運用について仕組みや制度が整備されている。
図3 コミュニティ共有蓄電池のイメージ
コミュニティ共有蓄電池のイメージ
出所:三菱総合研究所

価格低下やファイナンスリスクなどが課題

英国においては、蓄電池の導入量が増加することによって市場参加者が増えた。特に蓄電池の優位性を生かすことができる需給調整市場の商品の一部※3は既に市場が飽和しており、今後価格が低下するリスクがある。このように、初期段階では大きな収入を得られる商品であっても、競合が増えれば価格は低下していくことが想定される。そのため、1つの商品の収益に依存することなく、複数市場へのサービス提供を考慮した入札戦略を立てて蓄電池運用を行うことが必要である。

また、蓄電池は使用するにつれてバッテリーの最大容量(充放電可能な容量の上限)が減少し、劣化するという特性を持つ。そのため、長期にわたり投資回収を行う系統用蓄電池においては、あらかじめ劣化を考慮して将来の収入見通しや更新時期を想定する必要がある。

加えて、マーチャント型のビジネスモデルは市場価格変動の影響が大きいことから、ハイリスク・ハイリターンな事業環境である。安定的な収入を得られる既存の電力関連ビジネス(固定価格買取制度を活用した発電事業など)とは異なり、金融機関などから融資を得るためのハードルも高いという課題もある。

蓄電池の運用においては、蓄電池の基本的な監視・充放電制御機能に加え、収益性を確保するためのシステム上での各市場との連携や、収益性評価などの機能が求められる。国内で電池サプライチェーンを維持・強化できない場合、海外からの輸入に依存することになり、価格が高騰する可能性があることにも留意が必要である。

市場成熟を見据え最適運用に向けた準備を

蓄電池事業の国内展開においては、制度や市場状況をよく理解した上で、地点別の将来的な収益性評価を実施することが必要となる。

当社は、これまで紹介してきたような国外の先行事例を踏まえ、日本での系統用蓄電池活用に向けて必要なソリューション開発に取り組んでいる。具体的には、供給区域別の電力需給シミュレーションモデルを活用し、卸電力価格、需給調整市場価格など電力取引市場価格の将来見通しを通じた蓄電池事業の戦略策定支援を行っている。また、蓄電池事業の運用における収益の最大化を支援するために以下のようなサービスを開発した。

MERSOL(MRI Energy Resource Solution)

蓄電池の最適運用パターンや運用収支見込みのシミュレーションを行うWebサービス。本サービスでは、実際に導入された蓄電池向けに日々の最適な実運用計画も提供していく予定である。

MPX(MRI Power Price Index)

卸電力市場に影響をおよぼすさまざまなファンダメンタルデータと、電力取引やリスクマネジメントの指標となる電力フォワードカーブを専用WEBサイト上で提供するサービス。
当社は、今後もさまざまな形でお客さまの電力ビジネスを支援し、再エネ主力電源化を支える系統用蓄電池の促進を後押ししていきたい。

※1:日本で言うところの需給調整市場。同時入札が認められるのは、バランシングサービスのうち、周波数応答(Frequency Response)の商品のDynamic Containment、Dynamic Moderation、Dynamic Regulationである。それぞれの説明は図1に記載。

※2:日本で言うところのゲートクローズ後の余力活用(電源Ⅱ)のこと。

※3:1秒以内応動、15分の持続時間が求められる商品であるDynamic Containmentは既に市場が飽和していると言われている。

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