コラム

MRIトレンドレビュー人材

プラチナ人材 第3回:「長期的視点」からみたプラチナキャリア

定年制度改革と働き手のモチベーション

タグから探す

2024.2.9

事業基盤部門統括室 未来共創グループ藤本敦也

亀井則夫

人材

POINT

  • 長期的視点を持つ人材を育成するための打ち手の1つとして定年制度改革があげられる。
  • 60歳を定年とする企業はこの3年間で6ポイント減少、定年延長が進んでいるものの、今後検討している企業は減少傾向となっており、定年延長はトレンドではない。
  • また定年後は「継続雇用制による雇用上限の引き上げ」を実施している企業が多いが、この制度では働き手のモチベーションが大きく損なわれている。
  • 働き手が自律的に行動するプラチナキャリア実践をベースにした定年延長/廃止が望ましい。
第3回はプラチナキャリアの3つの特徴のうち「長期的視点」について、定年制度における課題と対応を企業および働き手の視点から論じていきたい。

定年制度の実態 60歳定年は2020~2023年で6ポイント減少

定年制度について企業はどのような施策をとっているか東洋経済新報社が実施している東洋経済CSRデータ※1より整理してみたい。

まず役職定年について。役職定年については2020~2023年にかけて、回答企業のうち、それぞれ42%、41%、42%、40%が導入していると回答しており、この4年間で大きな変化は見られない。また正社員の定年制度についても2020~2023年にかけて99%が「導入している」と回答しており、こちらもほとんどの企業で導入されており、推移に変化はない(図1)。
図1 定年制度の導入の有無
定年制度の導入の有無
出所:東洋経済CSRデータをもとに三菱総合研究所作成
次に具体的な正社員定年年齢について整理したものが図2である。60歳定年としている企業が2020年では86%だったのに対して、2023では77%となっており、この4年間で割合が9ポイント減少している。この数年において、企業は定年年齢の延長に動いていることがわかる。
図2 定年年齢の推移
定年年齢の推移
出所:東洋経済CSRデータをもとに三菱総合研究所作成
一方、企業が実施している「定年後の就業機会確保」の方策をみると(図3)、回答企業の64%が「継続雇用制による雇用上限の引き上げ」を実施している。この制度はいわゆる「定年後再雇用」であり、雇用形態を正社員→嘱託/契約社員に職位を変えて継続雇用する企業が多いことがうかがえる。
図3 定年後の就業機会確保方策(2023年)
定年後の就業機会確保方策(2023年)
出所:東洋経済CSRデータをもとに三菱総合研究所作成

働き手は定年をどう見ているのか

こうした定年制度について、働き手はどのように感じているのだろうか。

三菱総合研究所が毎年6月に実施している大規模生活者調査「生活者市場予測システム:mif※2」の回答者のうち、現在仕事をしている人を対象として、特徴的な点を整理した。

まず「希望引退年齢」について2023年データでみると、現在働いている人のうち63%が65歳以上を希望している。60代で働いている人に限定すると、70歳以上を希望している人が67%にも上り、長期間働くことを希望している人は多数派であることがわかる。

また前述のように、定年後企業は「継続雇用制による雇用上限の引き上げ」で対応、すなわち嘱託/契約社員として雇用の場を提供しているケースが多い中、雇用形態別(正社員/団体職員と嘱託/契約社員)に働き方に対して「今後どうしたい」意向をもっているか集計した結果が図4となる。

「強みを活かせる仕事をする」に対しては、正社員/団体職員で63%、嘱託/契約社員で62%となっており、雇用形態間で大差はなく、こうした意向を強く持っていることがわかる。その一方で、「会社に対して忠誠心を持って仕事をする」に対しては、正社員/団体職員で37%なのに対し「嘱託/契約社員」では30%と7ポイント小さく、また「お金を得る手段として割り切り仕事をする」については正社員/団体職員では41%なのに対して、嘱託/契約社員では52%と11ポイントも高くなっている。
図4 60代雇用形態別「働き方」の今後の意向(全就業者)
60代雇用形態別「働き方」の今後の意向(全就業者)
出所:mif調査データをもとに三菱総合研究所作成
同じ項目について従業員500名以上の大企業勤務者のみで集計した結果が図5である。従業員全体の場合と傾向は変わらない。

こうしてみると、長期間働くことを望んではいるものの、定年となり嘱託/契約社員となると、働き手のモチベーションが下がっていることがうかがえる。
図5 60代雇用形態別「働き方」の今後の意向(従業員500名以上の大企業勤務者)
60代雇用形態別「働き方」の今後の意向(従業員500名以上の大企業勤務者)
出所:mif調査データをもとに三菱総合研究所作成

定年年齢延長にはまだ二の足を踏んでいる企業

さらに東洋経済CSRデータによると、現在定年制度があると回答した企業のうち、「定年年齢引き上げ」を検討している企業の割合は2020年で20%だったのに対して、2021年で17%、2022年で15%、2023年11%と減少傾向となっている(図6)。前述のとおり、定年年齢を60歳としている企業は減少しており、定年年齢延長は進んではいるものの、まだ大きなトレンドにはなっていないようである。

企業としても、シニアになるにつれて活躍の場が限られる一方で高額の人件費負担だけが残ることを危惧して、なかなか定年延長に踏み切れないのではないだろうか。
図6 「定年延長を検討している」比率
「定年延長を検討している」比率
出所:東洋経済CSRデータをもとに三菱総合研究所作成

働き手も「長期的視点」のもと自身のキャリアをという意識を明確に

少子高齢化の進展とともに若年労働力の不足が深刻化する中、シニア層に大いに活躍してもらうことは企業の持続的成長に欠かせないはずだ。それにもかかわらず、定年制度によりシニア層のモチベーションは低下しており、シニア層活躍には、定年制度の見直し(延長や廃止)が必須であろう。年齢に関わらず個々人の能力やパフォーマンスで処遇が決まる雇用形態が望ましい。

では定年制度の見直しには何が必要だろうか。

それは、まず働き手自身がプラチナキャリアを実践することではないだろうか。プラチナキャリアの特徴である長期的視点、すなわち「単に長く働くのではなく、年齢によらず自律的に活躍し続けていく意識をもったキャリア」像の実践である。具体的には、年齢を問わず、今までのキャリアを踏まえ「強みとなることを」を活かしながら、「今できること、数年後何ができるようになりたいか」を意識して、必要に応じてリスキリングを行い、自己のスキルを高めていくことである。

プラチナキャリアを実践する働き手が増えれば、企業としても懸念なく定年制度の改定を実現できると思われる。そのためには、働き手自身が変わること必要であるが、企業も働き手が変わるのを待つだけでなく、こうした意識を持つような自律性を高めていく施策が一層必要となろう。

第6回プラチナキャリア・アワードの募集がスタート

前回のコラムでもご紹介した第6回プラチナキャリア・アワードであるが、1月29日より応募を開始した。今回は下記のテーマと4つの重点評価項目に沿って審査を実施する予定である。

テーマ:会社の経営理念と進むべき方向を社員と共有し、その実現に必要な人材育成・確保に向けた環境を提供し、社員一人ひとりの自律的なキャリア形成を支援しているか
  • 環境変化の下、会社の経営理念、戦略さらには求める人材像を社員と共有しているか。
  • 戦略上の観点から必要となる人事施策・制度を検討、実施しているか。
  • キャリア自律支援に対する姿勢をどのように社員に示しているか。
  • 上記施策・制度は社員からの共感を得て、浸透しているか。
応募申し込みは下記であり、ご関心のある方は是非ご一読いただきたい。

※1:東洋経済 第19回CSR調査(2023年)。2023年6月26日公開、2024年2月5日最終更新(閲覧日:2024年2月7日)

※2:mif:生活者市場予測システム(三菱総合研究所)

著者紹介

連載一覧

関連するナレッジ・コラム