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プラチナ人材 第1回:これからの日本が目指すべきキャリア像

プラチナキャリアの具現化を目指して

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2024.2.5

事業基盤部門統括室 未来共創グループ藤本敦也

亀井則夫

人材

POINT

  • 変化の中で常に輝き続ける「プラチナキャリア」を当社が定義。
  • 長期的視点、自律的学び、社会課題解決が特徴。
  • 人的資本経営の文脈からも今後の日本社会に不可欠。

企業の持続的成長のために

プラチナキャリアとは、2018年に当社主催の「未来共創イノベーションネットワーク:INCF(現・未来共創イニシアティブ:ICF)」内で、「日本の働き手である社会人が目指すべきキャリア像」として打ち出したコンセプトである。

背景には、昨今の市場環境激変を受けた、事業構造の変化に対応した人材獲得ニーズの高まりがある。2020年に経済産業省が公開した「人材版伊藤レポート」を皮切りに、人的資本経営への意識が高まり、当社が事務局として関わっている人的資本経営コンソーシアムにも、2023年9月12日時点で合計549法人、有識者1人が加入している。

一方、事業構造の変化に対応した人材獲得の必要性は感じているものの、実際に成果を出している企業は多くない。当社が以前実施したアンケート※1でも、「自社の事業構造転換に対応した施策が実行されているか(採用、配置、リストラなど)」との質問に「とてもあてはまる」「あてはまる」と回答した割合は合計で約17%にとどまっている。

プラチナキャリア人材は、環境変化やそれに伴う事業構造変化の中でも常に輝き続ける存在であり、人的資本経営を実践する中でもとりわけ重要である。こうした人材の確保・育成に関する現状や有効な打ち手について、5年間にわたり蓄積してきたわれわれの知見やデータ、そして事例をもとに解説を行う。

まず、プラチアキャリアを形成する3つの特徴と、その必要性について述べる。

特徴1 長期的視点:単に長く働くのではなく、年齢によらず活躍し続けるキャリア

少子高齢化が進み生産年齢人口が減少する中、今後の日本経済にはシニア層の活躍が不可欠である。従来は年齢が高くなるとともに“あがり”となるキャリアを歩むケースが多かったが、人生100年時代を迎えたことで、単に「会社にしがみつきながら長く働き続ける」のではなく、「年齢によらず自律的に活躍し続けていく」という意識をもってキャリアを積んでいく人材が求められるようになっている。

特徴2 自律的学び:自ら能動的に学び、経験を積んでいくキャリア

昨今のAIの進展は目覚ましいものがあり、今まで培ってきた知識やノウハウがAIに取って代わられてしまう、ということも十分考えられる。長期的に活躍し続けていくためには、自身の今までのキャリアを踏まえて、社会に必要とされていることを能動的に学び、必要なスキルを身につけていく姿勢が必要不可欠である。

特徴3 社会課題解決:ビジネスで社会課題解決を目指す意識を持ったキャリア

SDGsによって注目されるようになったが、国内のみならず、グローバルでもさまざまな社会課題が顕在化している。企業には、こうした課題をビジネスを通じて持続的に解決する仕組みの構築が求められている。その実現には、常に社会課題やその解決に目を向け、自ら取り組む人材が必要である。
昨今では、企業や年齢の枠を超えて複数の企業で活躍する人材が増えている。プラチナキャリアを具現化すれば、さまざまな場所で求められる自律性の高い人材としても評価されるであろう。

5回のアワードを開催

ICFでは、上記の理念を社会に浸透させることを念頭に、社員のプラチナキャリア形成を支援する企業を選定・表彰するアワードを2019年に開始し、2023年には5回目※2を実施した。プラチナキャリアは上述のとおり3つの特徴を重視している。具現化に必要な要素はその時々の時代背景やそれを受けた働き手の意識により変化することから、評価ポイントも各回で変わっている。アワードの過去の受賞企業と主な評価ポイントは次の通りである。
表1 過去のプラチナキャリア・アワード受賞企業と主な評価ポイント
過去のプラチナキャリア・アワード受賞企業と主な評価ポイント
出所:三菱総合研究所作成

人的資本経営との関連

プラチナキャリアの概要を説明したところで、あらためて人的資本経営との関連を述べる。人的資本経営については、下記に示す3つの視点と5つの共通要素を踏まえて人材戦略を実践し、その情報をステークホルダーへ開示していくことが重要であるとされる。
表2 人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素(「人材版伊藤レポート」より)
人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素(「人材版伊藤レポート」より)
出所:三菱総合研究所作成
そして「人的資本経営コンソーシアム好事例集※3」に掲載された事例には、プラチナキャリア具現化に向けて実施している施策と方向性が近いものが多い。例えば、第5回アワードで最優秀賞を受賞したNECネッツエスアイ株式会社は、下記のような点が評価されており、これらは人的資本経営にもつながる取り組みであろう。
  • 経営戦略上の注力分野としてDX関連リスキリングに取り組み、導入半年で受講率40%まで到達している
  • 個々人の強化ポイントによりパーソナライズ化された学習メニューで、人事評価項目と連動させて学べる環境を整備している
  • 学んだスキルを社員同士で教え合い、学び合う場を設けて、リスキリングに対するモチベーションを高めている
  • 的確にキャリアを活かす人事ローテーションを会社が判断し、適材適所の配置を実現している
  • リスキリングの成果を発表する場として「新規事業ピッチコンテスト【出る杭】」を実施。発表に基づき複数の実証実験を開始している
このような取り組みを通じて、多くのプラチナキャリア人材が輩出されていくことにより、人的資本経営の実践も進んでいくことが期待される。

当コラムについて

以上、プラチナキャリアの必要性と同アワードの実績、人的資本経営との関連について述べてきた。

そして、本コラムも含めて全5回で、プラチナキャリアの3つの特徴である長期的視点、自律的学び、社会課題解決の分野で企業が取り組んでいる主な施策の実施状況、またそれを受けて働き手の意識がどのように変化しているか、具体的なデータ※4を用いて示していく予定である。

経営戦略や人材戦略に携わる多くの方の参考になれば幸いである。

第6回アワードで重視する4項目

第6回プラチナキャリア・アワードは、1月29日に募集を開始した。 今回は下記のテーマと4つの重点評価項目に沿って審査を実施する予定である。

テーマ:会社の経営理念と進むべき方向を社員と共有し、その実現に必要な人材育成・確保に向けた環境を提供し、社員一人ひとりの自律的なキャリア形成を支援しているか
  • 環境変化の下、会社の経営理念、戦略さらには求める人材像を社員と共有しているか。
  • 戦略上の観点から必要となる人事施策・制度を検討、実施しているか。
  • キャリア自律支援に対する姿勢をどのように社員に示しているか。
  • 上記施策・制度は社員からの共感を得て、浸透しているか。
応募は下記のサイトで受け付ける。本コラムを読まれてプラチナキャリアや人的資本経営へのご関心が高まった方は、是非ご一読いただきたい。

※1:人的資本経営 第1回:意義と実現に向けたポイント(MRIトレンドレビュー 2023.4.7)

※2:第5回は下記体制で実施した。
主催・企画:三菱総合研究所未来共創イニシアティブ
企画:三菱UFJ信託銀行
後援:厚生労働省、東京証券取引所
協力:東洋経済新報社 参考情報協力:転職会議

※3:「人的資本経営コンソーシアム好事例集」経済産業省人的資本コンソーシアム発行、2023年10月
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/goodpractice2023.pdf(閲覧日:2024年1月26日)

※4:アワードの一次評価で利用している東洋経済新報社実施の東洋経済「CSR調査」、および当社が実施している 生活者市場予測システム(mif) の就業者に関するデータを利用

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