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モビリティから他産業へ波及するMaaS革命

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2019.6.27

MaaS事業戦略チーム岩崎亜希

宮下ゆかり

平井 翔

高田真吾

経営戦略とイノベーション
一般的に、MaaS(Mobility as a Service)の進展でモビリティはより効率化すると考えられている。早晩、鉄道、バス、タクシー、航空機といった複数の移動サービスの最適な組み合わせを検索・予約・決済できるプラットフォームが誕生することだろう。
MaaS革命は、モビリティのあり方として自動車産業などにサービス産業への変革を迫っている。次なる段階は、モビリティとその他の産業との連携がサービスの高度化において不可欠となってくる。例えば旅行産業・業界では、観光地の宿泊予約と同時にアクセス方法をレコメンドする、経路途中にある観光施設がクーポンを提供する、などが普通のことになるだろう。また小売業界では、個人の好みにあった商品を移動販売車が提案、販売するほか、小売店までの無料送迎サービスを提供する、などが考えられよう。このようにモビリティを起点にあらゆる産業が一つのエコシステムとして連携することこそ、MaaSの本質だ。その連携のなかで、新しいサービスが生成されていくことになる。ここにおいて、MaaSの概念も、「複数モビリティの統合」から「他産業とモビリティの共創」へと変わる。

MaaSをマネタイズするビジネスモデル

もっとも現状では、MaaSプラットフォーマーが利益を得る仕組みが確立されてはいない。そこで本稿では、MaaSプラットフォーマーの視点から、「MaaSをマネタイズする」ビジネスモデルについて整理する。
MaaSのマネタイズには、複数モビリティの統合・サービス化、つまり、複数モビリティにおける検索・予約・決済の統合がなされた後、①モビリティとコンテンツ(小売、観光、エンタメ、飲食など)の融合による高付加価値化、②コンテンツ事業者を巻き込むBtoBのビジネスモデルづくり、というプロセスが不可欠だ。
まず、複数モビリティの統合・サービス化におけるマネタイズとは何か。これまではユーザー自身が目的に応じてモビリティを組み合わせ、合計1,000円の移動料金を支払っていたとしよう。モビリティを統合・サービス化することで、ユーザーはスマホ上からワンストップで、リアルタイムに、ドアツードアの移動手段を検索・予約・決済できるようになる。この利便性を付加価値とみなしたユーザーはMaaSプラットフォーマーに対し、1,000円プラスアルファの料金を支払うことになる。そしてモビリティ側は、MaaSプラットフォーマーに送客手数料を支払う。これがMaaSの基本形だ。ただし、モビリティ統合の利便性のみでは、支払い意思額の増加分は限定的である。

そこで、小売、観光、エンタメ、飲食などのコンテンツを融合するとどうなるか。それが、①モビリティとコンテンツの融合による高付加価値化であり、そのマネタイズである。ある舞台のチケットを手に入れようと検索したら現地までのモビリティが、あるいは目的地を検索したらその経路や現地周辺にあるレストランが、果ては1日まるごとの観光ルートまでが次々レコメンドされるといった、「モビリティ×コンテンツ」の相乗効果による新しい顧客体験を生み出せるだろう。旅行中、乗り換え時の待ち時間が1時間発生した場合に、その待ち時間を有効活用できる観光地めぐりのコンテンツ、といった提案もあり得るかもしれない。
こうしたサービスが実装された場合、ユーザーがMaaSプラットフォーマーに支払う料金も上乗せされていくに違いない。またモビリティ側からの手数料に加えて、コンテンツ側からの手数料も得られる。各種コンテンツへの送客手数料と広告料である。これが、②コンテンツ事業者を巻き込むBtoBのビジネスモデルづくりの一つのかたちだ。
図1 MaaSプラットフォーマーのビジネスモデル
図1 MaaSプラットフォーマーのビジネスモデル
出所:三菱総合研究所
これは、コンテンツ側にとっては、参画しないことのデメリットを想起させるビジネスモデルとも言える。モビリティを起点に小売や観光などの生活サービスが統合され、一つのエコシステムが成立すれば、ユーザーの行動変容を促さないではいられない。「エコシステム内に囲われていない生活サービスを利用しなくなる」可能性が生じるのだ。例えば、自動運転車による無料送迎サービスがある小売店と、送迎サービスのない小売店では、前者が優先的に選ばれるケースが多いはずである。エコシステムに参画していない事業者には、少なからず淘汰圧が働く。

MaaSが形成する巨大市場

いずれにせよ、MaaSの進展で巨大な市場が形成されるのは、疑いようのないことだ。現在、日本における交通関連の支出は3.6兆円、自動車関連の支出は11.3兆円である。しかし「移動を必須とするサービスの支出」は25.9兆円、そしてMaaSの浸透により顕在化するであろう「移動を伴う可能性のあるサービスの関連支出」になると、市場規模は61兆円超まで拡大する。
運転を含め、さまざまな作業から解放された利用者の移動中の「時間」を、新たな市場と捉えることもできるだろう。国土交通省「都市交通調査・都市計画調査 全国都市交通特性調査」(平成27年)によれば、徒歩、自転車、鉄道、自動車・バイク、その他を含む国内の総移動時間は合計462億時間にのぼる。このうち特に自動車・バイク移動に関しては、1人当たり1日30分程度が見込める。バスや電車の移動時間も同様に、バスは15億時間/年、鉄道は147億時間/年という移動時間が、コンテンツ消費時間に充当できる可能性がある。現状、移動時間の多くはスマートフォンを眺めることに使われているであろうが、「車内空間でしか体験できない魅力的なコンテンツ」が提供されれば、膨大な時間が非モビリティ事業者に向けて解放される。あらためてこの市場のポテンシャルを実感できるはずだ。
図2 モビリティサービスの収益原資
図2 モビリティサービスの収益原資

図左 出所総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数のポイント(平成29年1月1日現在)」、総務省「家計調査」 より三菱総合研究所作成

図右 出所国土交通省 「都市交通調査・都市計画調査 全国都市交通特性調査(平成27年)」より三菱総合研究所作成

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