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「ビジネス×対話鑑賞」の効能 第1回:アートがビジネスの役に立つ

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2022.5.26

経営イノベーション本部橋本由紀

北本里紗

「ビジネス×対話鑑賞」の効能

注目を集める「感性的思考」

「アートがビジネスの役に立つ」と聞いたら、どんなことを想像しますか? 製品や広告などデザインといったアウトプットとしての活用が思いつきやすいのではないでしょうか。もちろんそういった側面もありますが、「思考・発想・リーダーシップに革新をもたらす」と聞いたら、信じてもらえるでしょうか。

変化の激しい時代において、論理的思考力だけではなく観察力・直観力・共感力といった感性的思考力の重要性が近年指摘されています。学校教育に関しては、文部科学省がSTEAM教育※1の導入を推奨し、問題発見力や主体性を引き出すことを説いています。また、ビジネスの領域では山口周氏※2や末永幸歩氏のアート思考を主題とする著書がビジネス書のジャンルでヒットし、海外に目を向ければビジネススクールでアート×ビジネスの思考法が展開されるなど、ビジネスパーソンの間でも感性的思考が注目されていることがうかがえます。
図1 帯からも人気の様子がうかがえる
図1 帯からも人気の様子がうかがえる
出所:(左)末永幸歩『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社、2020年)
(右)ニール・ヒンディ『世界のビジネスリーダーがいまアートから学んでいること』(クロスメディア・パブリッシング社、2018年)
こうした注目の背景には、「これまでのような『分析』『論理』『理性』に軸足をおいた経営、いわば『サイエンス重視の意思決定』では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない」※3 実状や、分析・論理・理性といった思考回路はやがてAIに取って代わられる領域であることへの危機感があります。予測不能な社会で意思決定をする上で、人間ならではの観察・直観(ひらめき)・共感を論理的思考と組み合わせることで生まれる可能性に期待が集まっているのです。

その一方で、多くのビジネスパーソンは感性的思考を鍛える機会を得られずに今日まで過ごしてきました。この傾向は、年代が上がれば上がるほど顕著です。なぜならば、美術や図工、音楽といった教科では、描き方・奏で方といった「技法」や、有名な作品やアーティストといった「知識」を教わることが中心であり、1つの作品をどのように味わうか、すなわち感性的思考をどう鍛えるかといった教育は、教科書上でも教員の指導内容でも長い間取り上げられてこなかったからです。教育体系上、感性的思考を鍛える機会がなく、その有用性を体感してこなかったことが、感性的思考をビジネスに役立てるという発想が浸透しない障壁となっています。なお、2008年になると学習指導要領で「鑑賞」分野に注力する旨がうたわれ、鑑賞教育は教員養成課程や教科書で取り扱われるようになりました。したがってビジネスの場面で感性的思考が浸透するのは、時間の問題といえそうです。

対話鑑賞の応用可能性

こうした状況において、ビジネスの場面に感性的思考を取り入れる手法として、レゴ®※4や即興演劇、座禅、ワーケーションといったさまざまな手法が開発されてきました。その中で、アート作品を観ながら参加者同士が対話を繰り返す「対話鑑賞」は、「観る力」「考える力・感じる力」「言葉にする力」「聴く力」といったビジネスの現場で即座に活かせるスキルを鍛え、直観力を引き出すとされ、ビジネスへの応用開発がスタートアップを中心に進められています。
図2 対話鑑賞の効能
図2 対話鑑賞の効能
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出所:三菱総合研究所
加えて対話鑑賞は、①手法が確立されている、②五感の中でも使い慣れた感覚である「視覚」によっている、③短時間でも実施可能である、④対面でもリモートでも実施可能である、といった観点から、コロナ禍におけるリモート環境下でも提供され続けました。三菱総合研究所では、ビジネスに対話鑑賞を取り入れる手法に従前から着目し、東京国立近代美術館とともに検討をしてきました。

対話鑑賞にはさまざまな特徴があり、その特徴とプログラム構成の工夫、参加者の感性的思考の習熟度合いを組み合わせることで、ビジネス上のさまざまな課題解決に応用できると考えられます。例えば、対話鑑賞の持つ「対話を広げる・深める・新たな気付きを促す」といった特徴は、「組織風土改善」「ダイバーシティ意識の醸成」「新規プロジェクトにおけるチームビルディング」を支援できるでしょう。また、アート作品の持つ「想像力を豊かにする」といった特徴を活かすことで、「キャリア形成の支援」「経営・現場双方によるビジョン策定」にもその効力を発揮できるでしょう。さらに、参加者が感性的思考に習熟することで、理屈ではない、その人ならではの問題意識を発掘できるようになり、「高い当事者意識による新規事業開発」「内発的リーダーシップの醸成」に寄与することでしょう。

今回のコラムでは、対話鑑賞をビジネスに応用する上でのプロセスや効能を、上記シーンを題材にシリーズで紹介します。第2~3回は、「新規プロジェクト開始に伴うマインドセット醸成」です。対話鑑賞の世界をぜひご体感ください。(次回へ続く)
図3 「新規プロジェクト開始に伴うマインドセット醸成」をもたらす対話鑑賞に用いた作品(どのように用いられるかは次回掲載)
図3 「新規プロジェクト開始に伴うマインドセット醸成」をもたらす対話鑑賞に用いた作品(どのように用いられるかは次回掲載)
出所:古賀春江《海》 1929年 油彩・キャンバス 東京国立近代美術館

※1:Science(科学)/Technology(技術)/Engineering(工学)/Art(文化・芸術)/Mathematics(数学)の頭文字を取ったもの。従来のIT人材育成のためのSTEM教育に、「芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等」を含めた広い範囲でArtを取り込んでいるのが特徴。

※2:山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社、2017年)

※3:山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社、2017年、P.14)

※4:世界的に有名なプラスチック製の組み立てブロック玩具。レゴ®を用いたワークショップの手法としてLEGO®SERIOUS PLAY®が知られる。

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