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経営戦略とイノベーション経営コンサルティング

データが導くこれからの新規事業 第1回:データを活用した新規事業検討の全体像

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2022.10.12

経営イノベーション本部秦 知人

経営戦略とイノベーション
近年、オンライン・リアル双方で顧客との接点を持つOMO※1の概念に象徴されるように、社会や日常生活のあらゆる場がデジタル空間に繋がり、人々の行動やその過程がデータとして蓄積されつつある。このようなデータをいかに活用していくかが、これからの社会、そして企業の事業活動において重要性を増していくことは言うまでもない。

今後はいかなる業界・業種でも例外なく、データを通じて顧客の心理や行動をリアルタイムに近い形で把握できるようになるだろう。そのような世界では、データをうまく活用して顧客一人ひとりに合った製品・サービスを提供し、継続的に事業の価値を高めていくことが、事業の競争の前提となる。

ただ、このような事業への転換の必要性は認識していても、どうすればよいか分からないケースも多いのではないか。一般的な新規事業開発の文脈ではデザイン思考、アジャイル開発などさまざまな手法が開発されている。しかし、「データを活用した事業」に特化した手法にはいまだ共通に認知されたものはなく、各社の担当者が手探りで模索している状態ではないだろうか。

本連載では、新規事業の検討プロセスに沿って、「データを活用した事業」の開発のためのポイントなどをとりまとめる。読者の新規事業検討、ひいては日本企業全体のイノベーションの一助となれば幸いである。

データを活用した事業とは

本連載においてキーワードとなる「データを活用した事業」とは、例えば以下のような特徴を持つ事業である。

  • 自社の事業やサービスで収集したデータなど、他社が持ちえないデータを活用することで優位性を獲得している
  • このようなデータを継続的に収集するための仕組み(データ提供者へのインセンティブ)が備わっている
  • データを分析して、商品・サービスを継続的にアップデートあるいはパーソナライズする仕組みが備わっている
  • データが増えるほど事業の価値が高まる構造となっている
  • 以上の要素が戦略的にデザインされており、商品・サービスだけでなくビジネスモデル自体も継続的に見直されている

具体的なイメージを考えるには、D2C※2型の事業・サービスの例を見ると分かりやすい。

例えば米国で眼鏡の設計・販売を手掛ける企業Warby Parkerは、当初はオンラインでの眼鏡販売に特化していた。5種類の眼鏡を無料で顧客に送付し、気に入ったものを手元に残してそれ以外は返却してもらうサービスを通じて、顧客の眼鏡の好みに関するデータを蓄積している。また、顧客に眼鏡を試着した自撮り画像をSNSにアップすることを促すことで、友人からの評判なども公開情報として収集し、眼鏡のデザイン改良に活用した。

その後、リアル店舗を出店した際には、オンライン販売で得られた顧客データを活用することで、他の対面販売の事業者が苦境に陥る中、ひとり成功を収めている。さらに、リアル店舗の販売状況をデータとして吸い上げることで、オンライン事業も含めた商品企画やマーケティングにも活かしている※3

同社の成功はデータ活用だけによるものではないが、事業を通じて収集された、他社が持ちえないようなデータがビジネスモデルに自然に組み込まれ、効果的に活用されていることは特筆に値する。

このように、データから得られるフィードバックを踏まえて継続的にサービスの魅力を高めるとともに、ビジネスモデル自体が時とともに変化していることが、「データを活用した事業」の特徴の一つである。

「データを活用した事業」の検討ステップと本連載の構成

本連載では、このような「データを活用した事業」の特徴と検討上のポイントなどを、当社が考える新規事業の検討ステップ(図1)に沿って詳細に論じる。
図1 新規事業の検討ステップ
図1 新規事業の検討ステップ
出所:三菱総合研究所
各ステップの概要と連載コラムの関係は以下の通りである。

事業リリース前に検討

①事業目的(第2回)
事業を通じて実現したい目的と長期的構想を定め、そこに至るロードマップを定めることで、事業が変わりゆく中でもよって立つべき軸を定める。

②事業立地(第3回)
対象市場、顧客、提供価値など、事業は「何をするのか」を定める。

事業リリース前と後に検討

③サービス提供方法(第4回)
マーケティング、オペレーション、システムなど、事業を「どのようにするのか」を定める。

事業リリース後に検討

④サービス改善(第5回)
事業のKPIや管理プロセスを定め、どのように事業をアップデート・改善していくかを定める。

⑤次の事業への展開(第6回)
保有するデータを活用して、次の新規事業を立案・検討する。
①から④は新規事業開発で想定される一般的なプロセスである。ただし「データ」に着目すると、いくつか留意すべきポイントが見えてくるはずだ。本連載第2回から第5回では、そのポイントを解き明かしていく。

加えて、第6回では既存事業で保有しているデータを活用し、次の新規事業を検討する方法(⑤)にも触れたい。

※1:OMO(Online Merges with Offline):オンラインとオフラインの世界が融合するかのように、ネット・リアル双方のチャネルで顧客との接点を持つというマーケティングの概念。

※2:D2C(Direct to Consumer):メーカーが卸売業やECなどを介さず、主としてオンライン経由で消費者に直接商品を提供するビジネスの形態。

※3:DEVTRIBE, "How Big Data Helped Warby Parker Go From Online to Brick and Mortar"
https://www.devtribe.com/blog/2018/4/3/how-big-data-helped-warby-parker-go-from-online-to-brick-and-mortar(閲覧日:2022年2月25日)

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