事業立地として定義すべき要素は、主に「対象市場・顧客」「提供価値」「製品・サービス」「マネタイズ方法」「活用するアセット」であり、これらは従来の事業検討のあり方と何ら変わらない。データを活用した新規事業では、とりわけ「取得データがもたらす差別化価値」が重要となる。自社が顧客から取得したデータを基に顧客理解を深め、提供する製品・サービスを顧客の特性や体験に合わせて設計することで提供価値が向上し、競合他社との差別化を図れる。深い顧客理解のためにはデータ活用が必須であり、今やデータ活用を前提としなければ他社との競争には勝ち残れない時代になっている。
顧客データ自体は、製品・サービスの開発・改良のために古くから活用されてきた。しかし、それらはデータにより自社製品・サービスに適合する顧客セグメントを特定したり、需要の所在やサイクルを把握したりするなど、決まった製品・サービスをいかに効果的・効率的に展開するかという観点で活用されてきた。
今や、あらゆるマスマーケット、ニッチマーケットが各業界で開拓され、製品・サービスの性能・品質が頭打ちとなり、各社の提供水準が画一化している。顧客の顕在ニーズに対して機能や価格を競い合う従来のアプローチでは、自社の優位性や差別化された価値を生み出すことはますます難しくなっている。
顧客のニーズが多様化し、顧客自身も何が理想なのかを分かっていない中で、顧客の理想体験を発見するのは一筋縄ではいかない。これからの新規事業では、自社が何をやりたいかではなく、データを活用して顧客の理想体験を発見することで顧客の潜在ニーズに応えることが重要である。
そのためにはまず「顧客の理想体験を発見するデータの特定」を行った上で、「大量データの取得による精度の向上」および「複数データの組み合わせによる異なる視点の付与」という2つの方向性により、顧客への提供価値を高める仕組みを構築することが必要である。
この改善サイクルの仕組みを事業モデルに組み込んで初めて、顧客の理想体験に対する事業者の認識がアップデートされ、サイクルを回すほど提供価値が高まるようになり、製品・サービスの差別化が進むのである。