コラム

3Xによる行動変容の未来2030最先端技術

V-Tec/メタバースの活用に向けて 第4回:裸眼で体験するメタバース

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2023.10.13

先進技術センター大山みづほ

3Xによる行動変容の未来2030
メタバースにアクセスする場合、ヘッドマウントディスプレー(VR-HMD)を装着している姿をイメージされる方が多いかと思います。しかしながら、メタバースには裸眼で視聴できるコンテンツも多く存在しています。錯覚を利用した広告ビジョンや、二次元でありながら没入感のあるスペースなど、知らず知らずのうちに身近に接しているのが裸眼系メタバースです。

身近でストレスフリーな裸眼系技術

例えば街角には、壁面でありながら立体的に見える看板やデジタルサイネージがあります。建造物などに映像を投影するプロジェクションマッピングも、多く見かけるようになりました。このように、ヘッドマウントディスプレーを装着せず、また、スマホやPCでの視聴とも異なるメタバース体験も存在します。

本コラムでは、ヘッドマウントディスプレーを装着しない、非装着型(軽量のグラス装着型も含む)ディスプレー技術を「裸眼系技術」と呼称し、技術の概要と今後の展望についてご紹介します。

なお、本コラムにおける「メタバース」はバーチャル空間のみを指すのではなく、広範な産業領域への活用を期待し「広義のメタバース※1」を指しています。
図1 「裸眼系技術」とVR-HMD装着との比較
「裸眼系技術」とVR-HMD装着との比較
出所:三菱総合研究所
裸眼系技術の特徴を図1に整理しました。没入型コンテンツ※2と比較して、裸眼系技術では装着が不要であるため、ストレスフリーで長時間視聴できます。また、個人の装備が要らないので、技術によっては1つのディスプレーで大人数での視聴が可能です。このように、長時間・大人数で視聴可能である点は、裸眼系技術の大きな特長です。

立体表示にとどまらない裸眼系技術

図2にまとめたように、裸眼系技術の視聴タイプは三次元と二次元に大別できます。
図2 「裸眼系技術」の視聴タイプ
「裸眼系技術」の視聴タイプ
出所:三菱総合研究所
三次元の場合は、空間に立体画像を表示します(空間再生)。例えばショーや展示で見かけるホログラフィーの場合には、スモークなどを用いて任意の位置から立体映像を視認できます。一方レンティキュラーレンズ(かまぼこ状のシート形レンズ)の場合は、左右の目の位置を検知し、左目と右目で異なる映像をリアルタイムに生成し立体視をしているため、視点は固定されます。医療現場での教育、製品の仕様確認などに用いられています。

二次元では、平面に平面画像が表示されます。平面でありながら没入感を得られる完全二次元再生や、錯視を利用して立体として錯覚させる疑似空間再生などがあります。

完全二次元再生では、大型スクリーンが多く用いられ、自然の風景や人を投影します。風景に香りや音を加えて自然の中に出掛けたような感覚を得られたり、人を実物大に映すことで同じ会議室内にいるかのように議論を行ったりすることができます。これらは立体に見えるわけではありませんが、三次元と比べると比較的オーソドックスな機器を用いて没入感のあるバーチャル体験をすることが可能です。

疑似空間再生では、L字型のLEDパネルを用い、二面に平面画像を投影しているにもかかわらず、特定の位置から見ると目の錯覚で立体表示に見えます。錯視の利用により、特殊な再生装置などを用いずに立体視が可能で、街角の広告ビジョンなどで使われています。

従来の視聴型コンテンツからの転換に期待

裸眼系技術の現在の用途を図3にまとめました。ビジネス、エンタメ・スポーツ、芸術・広告、セキュリティなど用途は多岐にわたります。
図3 「裸眼系技術」の用途
「裸眼系技術」の用途
出所:三菱総合研究所
①ビジネス:製品の仕様確認の他、多くはオンライン会議で用いられています。大型スクリーンを用いたハイブリッド会議システムや、Googleが取り組んでいる裸眼立体視テレコミュニケーション※3などがあります。立体視をする場合にはレンティキュラーレンズなどが用いられており、大人数が対象ではなく、一対一のやりとりが中心です。

②エンタメ・スポーツ:実物と投影映像の融合が多く見られます。エンタメでは、演者の一部がバーチャルであるショーや、実際にその場にいる演者に映像表現を融合させるケースなどがあります。スポーツでは、実際の試合会場とは別の遠隔会場に作ったコートに、試合映像をリアルタイムに三次元投影するなどの例※4があります。受信側はチャットやボタンなどで簡単にリアクションをする場合もありますが、多くの場合は鑑賞するのみです。

③芸術・広告:芸術ではエンタメに近い利用や、歴史的建造物・美術品の再現などに用いられています。受信側は鑑賞するのみ、情報を受け取るだけの場合がほとんどです。

④セキュリティ:特定の位置からだけ表示が視認できる技術を生かし、暗証番号や個人情報入力など他者から情報が見られないようなディスプレーにも用いられています。

このように、さまざまな用途がありますが、いずれも発信側の情報量が圧倒的に多いことが見てとれます。現状では従来の視聴型コンテンツの延長にとどまっているともいえます。今後の技術進展に伴い、受信側も応答するインタラクティブなコミュニケーションが増えることが期待できます。発信者と受信者間の情報量が増す、あるいは受信者同士のつながりが生じるなど、情報共有空間としての価値が高まるでしょう。

裸眼系技術は今後どこに向かうのか

最後に、裸眼系技術の今後の展望について整理します。直近では、大人数・長時間視聴向きという現在の特長を生かして、エンタメ・スポーツ・芸術を中心に展開すると考えられます。

実際の周辺環境を確認しながらバーチャルな体験ができるため、同じ空間にいる観客の反応など表情やジェスチャーなどの非言語情報も含めたコンテンツ体験が可能です。臨場感など体験価値が向上すると同時に、けがをしやすい状況、例えば運動時や作業時などの安全性の確保にも貢献できます。今後の技術進展により、コンテンツ作製などがより容易・安価になればさらに裸眼系技術が普及していくことが期待されます。

中長期的には、ビジネスにも可能性が広がると考えられます。

「PCカメラで表情を読み取り、その表情をアバターで再現してバーチャル会議を活性化する」「提案段階で試作品を3D化して複数人での同時レビューが可能となる」——など、よりリアルでインタラクティブなコミュニケーションへ変容することが期待されます。

メタバースは、時間的・空間的な制約により従来ならば直接できなかった体験も可能にする技術です。裸眼系技術と、ヘッドマウントディスプレーを装着する没入型コンテンツとの今後の関係については多面的な見方が可能ですが、いずれにせよ裸眼系技術は今後の展開が楽しみな技術の一つであるといえます。

※1:広義のメタバース:バーチャル空間を対象とする原義のメタバース、そのサブセットであるパーソナルバース、およびリアルとバーチャルの融合空間を対象とするリアルバース
2030年代、メタバースの産業利用が社会課題を解決(ニュースリリース 2022.11.22)

※2:V-Tec/メタバースの活用に向けて 第1回:アクセス方法で変わるメタバース体験(3Xによる行動変容の未来2030 2023.6.16)

※3:Project Starline expands testing through an early access program
https://blog.google/technology/research/project-starline-expands-testing/(閲覧日:2023年8月25日)

※4:NTT技術ジャーナル「バドミントン競技×超高臨場感通信技術 Kirari!」
https://journal.ntt.co.jp/article/15548(閲覧日:2023年9月19日)

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