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3Xによる行動変容の未来2030テクノロジー経済・社会・技術

V-Tec/メタバースの活用に向けて 第1回:アクセス方法で変わるメタバース体験

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2023.6.16

先進技術センター中村裕彦

3Xによる行動変容の未来2030
ヘッドマウントディスプレイを使用してメタバースを経験するのとPCやスマホなどを使用するのとではメタバースに対する印象が変わります。
今回、アクセス方法の違い、並びにリアル空間との連動性の2軸でメタバースの特徴を4つに類型化しました。
4類型それぞれのメタバースの特徴を十分に理解し、目的に応じたメタバース体験を提供することが望まれます。

アクセス方法によりメタバース体験の質が変化

現在、メタバースを体験する方法には大別して2種類があります。一つは、スマートフォンやPCなどの画面上で視聴する方法(視聴型アクセス)で、もう一つはヘッドマウントディスプレイ(VR-HMD)で体験する方法(没入型アクセス)です。

視聴型アクセスと没入型アクセスでは、ユーザーのメタバース体験の質が変わります。没入型アクセス用に作られたメタバースに視聴型デバイスでアクセスしても、その価値を実感することはできませんし、視聴型アクセスに適したメタバースに没入型でアクセスしても、価値を実感することはできません。

当社は2022年12月に国内の1万人を対象としたメタバースアンケートを実施しました※1が、これによれば、メタバースを体験したことがあるのは全回答者の5%であり、そのうち視聴型アクセスでメタバースを体験しているのは8割、VR-HMDを使ってメタバースにアクセスしているのが2割でした。つまり大多数のユーザーは、没入型メタバースの魅力を知らないことになりますし、視聴型としての魅力を実感できていない可能性もあります。

今回、視聴型と没入型のメタバースの違いを検討しました。

視聴型は「人形劇」的、没入型は「舞台演劇」的

メタバースは3Dバーチャル空間という場にオブジェクトとエージェントを配置することにより作られます※2

アクセス方法の違いにより、オブジェクトやエージェントの見え方がどのように変化するかを比較し、図1にまとめました。なお、ここでは、視聴型と没入型の3Dバーチャル空間に加え、バーチャルオフィスなどで馴染みのある2D表現も比較対象にしています。
図1 視聴型/没入型アクセスによるオブジェクト/エージェントの見え方の比較
視聴型/没入型アクセスによるオブジェクト/エージェントの見え方の比較
出所:三菱総合研究所
オブジェクト関連: 2D表現の場合、オブジェクトの外形や位置関係などは象徴化(抽象化)して表現し、配置しなければなりません。一方、メタバースでは、リアルな物体の場合と同様の外形、位置関係を保ったままで配置することが可能です。

なお、視聴型ではバーチャル空間が表示されるのは視野の一部ですので、ユーザーの身体感覚と独立に視野の拡大や縮小が可能ですが、没入型アクセスの場合は全視野がバーチャル空間になりますので、自身の身体感覚と同期します。


エージェント関連: 自身とアバターとの関係性、身体動作ともに、2D表現と視聴型3D空間に大差はありませんが、没入型ではより直接的なものになります。感情表現という点では、2D表現が抽象的(ピクトグラム的)であるのに対し、視聴型ではエモート(感情表現)機能により、ある程度の喜怒哀楽が表現できます。没入型の場合、リアルな感情表現との類似性がより高まります。
 
われわれがモノを認識する際には該当する情報を脳内で再構成する必要があります。これに必要な変換は2D表現では2段階(3D化+スケール変換)、視聴型3D空間では1段階(スケール変換)となります。没入型3D空間では変換不要ですので、リアルな環境とのシームレスな融合が可能です。

エージェントへの自己投影のイメージで言えば、2D表現がボードゲーム的であるのに対し、視聴型3D空間では人形劇的、没入型3D空間では舞台演劇の演技者的であると言えます。

広義のメタバースにおける視聴と没入

広義のメタバースにはバーチャルのみからなる狭義のメタバースと、リアルまたはバーチャル融合のリアルバースがあります※3※4

横軸にバーチャル空間のタイプ、縦軸にアクセス方法をとることにより、広義のメタバースを4つにタイプ分けすることができます。図2にタイプ分けした結果を示します。
図2 バーチャル空間のタイプとアクセス方法によるメタバースのタイプ分け
バーチャル空間のタイプとアクセス方法によるメタバースのタイプ分け
出所:三菱総合研究所
没入型メタバース(左上):ユーザーの受け取る視聴覚情報はバーチャルな情報のみです。自身の外見も含め、全視野がバーチャル画像に置換されます。このため、自己受容感覚も変化します。

視聴型メタバース(左下):3D表示されたオブジェクトもエージェントもディスプレイなどの1つのフレーム内に表示されます。ユーザーは外部の独立した視点から3Dバーチャル空間を眺めることになります。

視聴型リアルバース(右下):バーチャルなオブジェクトやエージェントを特定のフレーム内部に表示し、リアルな実際のオブジェクトやエージェントを連携させるような場合です。

没入型リアルバース(右上):リアルな環境とバーチャルな環境がシームレスに融合し、同一スケールで同一視野に共存します。

メタバースの特性により有効な活用法は変わる

学習・教育、観光、アミューズメントを例に、メタバースの特性ごとにどのような体験の提供が有効かを整理しました。図3にまとめます。

例えば学習の場合、座学的なオンライン学習や講義の聴講などには視聴型メタバースが適しています。画面内の空間をリアルな空間と切り離して自在に拡大・縮小することもできるため、さまざまな視点からものを見たり、相対的な位置関係を俯瞰したりすることができます。

遠隔地に点在するユーザーを集めたグループワークや、視覚・聴覚を主として用いる体験型学習などには没入型メタバースが適しています。

現場でのリアルな学習の支援ツールとしては、特定のモニター内に情報を俯瞰的に表示できる視聴型リアルバースの利用が向いています。遠隔から作業指示をする、操作手順を実機の操作盤に重ねて動的に表示するなどの応用が考えられます。

視聴覚以外の身体感覚も含めて学習するような場合や希少なリソースを使うタイプの学習には没入型リアルバースが適しています。
図3 メタバースのタイプごとに有効な体験イメージ(学習・教育、観光、アミューズメント)
メタバースのタイプごとに有効な体験イメージ(学習・教育、観光、アミューズメント)
出所:三菱総合研究所
このように、一口にメタバースといっても、アクセス方法やバーチャル空間のタイプによりそれぞれ適した使い方があります。それぞれの特性を十分に理解し、価値を実感できる体験を提供しなければなりません。

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