コラム

3Xによる行動変容の未来2030経済・社会・技術

メタバースの概要と展望 第1回:メタバースの基本要素と7つの応用型

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2022.4.15

先進技術センター中村裕彦

3Xによる行動変容の未来2030

POINT

  • メタバースとは、「バーチャル空間のうち、複数のエージェント(アバター)と操作可能なオブジェクトからなる共有空間」。ただし、最近定義が拡大している。
  • 情報処理・情報通信資源の制約がメタバースの多様化をもたらす。
  • メタバースは7つの応用型に類型化され、多様性を維持しながら発展する。
三菱総合研究所では、バーチャル・テクノロジー(V-tec)をリアルとデジタルが融合する未来社会の基盤技術として位置づけ、社会へのインパクトや将来展望に関する研究を進めています。この研究成果の一部を、計3回のコラム「メタバースの概要と展望」で紹介します。

第1回の今回は、「メタバースの基本要素と7つの応用型」として、メタバースの基本構成要素と、基本要素から導かれる7つの応用型の概要について紹介します。

なお、第2回はメタバース経済への期待と課題、第3回は広義のメタバースとしてのリアルバースの可能性について紹介する予定です。

コロナ禍で注目を集めるメタバース

最近、メタバースという単語が世間をにぎわせています。コロナ禍でテレワークが進む中、インターネット上の仮想空間でアバターが会議するシーンを目にした方もいるのではないでしょうか。

メタバース的な概念はかなり古くから存在しており、少なくとも1980年代初頭には、コンピューター内部の情報世界という概念が広く世間に広がっていました。これは、1982年公開の映画「トロン」を見れば明らかです。

単語としてのメタバースが初めて使われたのは、1992年に刊行されたSF小説「スノウ・クラッシュ」が最初だといわれています。以後、ゲーム・アミューズメント業界を中心にメタバースという単語が一般的に使われるようになりました。

2000年代初頭には、「セカンドライフ」などの先駆的な商業サービスが始まりました。これら、先駆的なメタバースのいくつかは現在もサービスを継続していますが、当初期待されたほどの盛り上がりを見せることはありませんでした。当時の計算機性能や通信性能などが不足していて、メタバースの利用価値を十分に示すことができなかったためです。

近年、技術の進展により、このようなハードウエアの問題は大幅に緩和されています。クラウドとデータ通信インフラの整備により、メタバースを構築・運用するコストは大きく低下し、メタバースを高い没入感で楽しむためのVRデバイスなども比較的安価に出回るようになりました。このような状況を背景に、大規模なイベントをメタバース的空間で開催する事例※1が増え、認知度が高まりました。

META(旧Facebook)やMicrosoftなどのメガプラットフォーマーが、オンラインコラボレーションツールとしてメタバースサービスをアナウンスしたこと※2※3も、極めて大きなインパクトがありました。これにより、メタバースがビジネスにも活用できる可能性が世間に広く認知され、注目が一気に高まりました。

メタバースとNFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を組み合わせ、投機対象として活用する動きも見られます。このこともメタバースが注目される一因となっています※4

メタバースが注目を集めるにつれ、その定義も拡大しています。ポケモンGOで著名なNianticが提唱するリアルワールドメタバースは、リアルとバーチャルが融合した空間という意味でメタバースという言葉を使っています。ちなみに、この空間は、当社がV-tecの応用先として提唱した3バース(リアルバース、パーソナルバース、メタバース)のうち、リアルバースに相当します(図1)※5※6。つまり、V-tecの応用領域がメタバース(広義)という関係です。
図1 バーチャル・テクノロジーの応用領域とメタバース
図1 バーチャル・テクノロジーの応用領域とメタバース
出所:三菱総合研究所
産業利用や社会への浸透を考える際には、広義のメタバース(リアルバース)への応用を考えることが極めて重要です。一方、メタバースの概要を把握するためには、元々の意味でのメタバースに立ち返った方がわかりやすいと考えられます。

今回は、原義のメタバース(赤枠)に焦点を当て、その概要と将来展望を紹介します。以後、特別に断らない限り、メタバースという単語を原義のメタバースの意味で用います。

メタバースを構成する3つの基本要素

当社はメタバースを、「バーチャル空間のうち、複数のエージェント(アバター)と操作可能なオブジェクト(アバター以外の構造物)を含む共有空間」としています。言い換えますと、メタバースを作り上げる基本要素には「バーチャル空間」「オブジェクト」「エージェント」の3つがあることになります。

メタバースを構築し、維持するためには、サーバーやネットワークなどの情報処理・情報通信インフラと、これらを動かすためのエネルギーが必要です。構築・運用に無限の予算は投入できませんし、そもそも現在の情報処理・情報通信インフラには、巨大なメタバースをストレスなく動かすような能力はありませんので、利用目的に応じて、オブジェクトの精緻化や内部構造の再現を優先するか、エージェントの機能や表現力を優先するか、メリハリをつけて開発を進める必要があります。

バーチャル空間における時間の取り扱い方も利用目的に応じて変わります。バーチャル世界での生活やイベント参加、他者とのコミュニケーションには、空間内の時間の進み方が一定である必要があります。一方バーチャル空間を、未来予測など、さまざまなシミュレーションや訓練の場として使用する場合、時間の巻き戻しや特定の時間帯のスキップ、時間の加速・減速などの操作ができる方が便利です。これらの関係を図2に示します。
図2 メタバースを構成する3つの基本要素
図2 メタバースを構成する3つの基本要素
出所:三菱総合研究所
なお、メタバースの構築にあたって最もやってはいけないことは、操作に対する時間応答性を損なうことです(視覚と聴覚の間のずれや操作に対する画面応答の遅れなど)。

映像と音声のずれがストレスになることはよく知られています※7。またオンラインゲームでは、操作に対する画面上のリアクションの遅延が快適性に大きくかかわってくることも周知の事実です※8。メタバースには、シビアな応答性は必ずしも求められませんが、それでも、最悪100ms程度以下に抑えないと、体験そのものが不快なものになってしまいます。

必要以上にバーチャル空間のサイズを拡大したり、オブジェクト(構造物等)やエージェント(アバター)を高精細・高機能なものにせず、その時点で利用可能な情報処理・通信インフラや、ユーザーが使用するデバイスの機能に合わせて、適切な情報量の範囲でメタバースを構築する必要があります。
 
これらの制約は、必ずしもメタバースの発展を阻害するだけではなく、多様化の原動力にもなります。

メタバースの7つの応用型

メタバースの基本要素を2軸に取り、その応用型をマップ上に表現しました(図3)。上下軸は3Dバーチャル空間の時間の取り扱い方に着目した軸です。下側は、予測や訓練の場として、可変時間もしくは時間の概念が含まれないバーチャル空間であることを意味し、上側は実際の物理時間と同様に、一定の速度で流れる固定的な時間を用いるバーチャル空間であることを意味します。

左右軸は、オブジェクトとエージェントの精緻化や表現力に関する相対的な重視度に着目した軸です。例えばオブジェクト重視型ではハンドリングする製品などが主役であり、エージェント(アバター)の表現力は、それほど重視されません。逆に、エージェント重視型では、アバターがどのような表現力を持つかが重視されます。
図3 メタバースの7つの応用型
図3 メタバースの7つの応用型
出所:三菱総合研究所
このマップ上で、メタバースの応用型を7つに類型化することができます。技術的な発展の経緯から見ると、①②は産業利用が既に大きく進展している3D CADの延長線上のメタバース応用型、③④はオンラインコミュニケーションツールの延長線上のメタバース応用型、⑤⑥⑦は大規模オンラインゲームの延長線上のメタバース応用型とみなすことができます。

応用目的により、それぞれのメタバースの特徴は異なります。例えば、①の場合、オブジェクト(ここでは設計情報)は精緻である必要がありますが、アバターは基本的に不要で、各人の視点などがわかる矢印型程度のエージェント機能があれば事足ります。一方、④の場合は、自然な本人の表情やジェスチャーを表現できるような精緻なアバターが求められます(表1)。
表1 メタバースの応用型7類型の概要
表1 メタバースの応用型7類型の概要
*BIM:Building Information Modeling CIM:Construction Information Modeling/Management

出所:三菱総合研究所

メタバースは多様化しながら発展する

現在、多くの企業がメタバースへの参入を表明しています。各社の競争は激化することが予測されますが、将来的には、少数の巨大企業に集約されるようになるでしょうか。それとも多様な企業により多様なサービスが提供される期間が長く続くでしょうか。

当社は、後者の可能性が高いと考えています。そのように考える大きな理由は、メタバースの応用型ごとに、重視すべき機能が異なる点にあります(表2)。
表2 7つの応用型の典型的な応用例と重視すべき機能
表2 7つの応用型の典型的な応用例と重視すべき機能
出所:三菱総合研究所
例えば、ワークプレイス型メタバースは、対面に近いオンラインコミュニケーション・コラボレーションの実現を目的としており、究極的には、本人の表情変化やジェスチャーまで正確に再現できるリアリティを持ったアバターの登場が望まれます。一方、バーチャルライフ型は、緩やかな匿名性や現実からの解放が魅力になり、アバターの外見の多彩さや自由度が強みになる場合が多いと考えられます。

イベント型の場合は、観衆としての同時参加アバターを増やすため、アバターの機能を制限して軽量化しつつ、イベントに同時に参加している感覚を維持する必要があります。

原理的には、これらすべての応用型に対応可能な1つの大規模汎用型メタバースを構築することも考えられますが、計算資源などリソース面のシビアな制約が続く限り、汎用化は得策ではありません。実際には、これら応用型のうちどれか1つに特化するか、あるいは2つ3つの応用型に対応できるメタバースを製品化することが現実的です。結果として、数多くの特徴的なメタバースが製品化され、それぞれ一定の市場を得ることができると考えられます。計算機能の推移、情報通信インフラの整備計画、さらにはユーザーが保有するデバイスの普及率予測から見て、リソース面の制約が10年程度で解消されるとは考えにくいため、多様で個性的な製品が共存する状態も長期間継続するでしょう。

メタバースは、少数のメガプラットフォーマーが寡占する時代から、さまざまな企業が多様な活動を行う多様性の時代を導く可能性を秘めているといえます。しかし、そのためには、想定されるさまざまな障害を解消し、メタバース経済圏を構築しなければなりません。第2回はこの話題について概観します。

※1:トラヴィス・スコットによりオンラインゲームFortnight内で2020年4月に行ったバーチャルコンサートには1,200万人を超える同時接続者が参加したとの記事がある。
出所:CNN“Travis Scott's virtual concert on Fortnite set a record”
https://edition.cnn.com/2020/04/24/entertainment/travis-scott-fortnite-concert/index.html(閲覧日:2022年3月10日)

※2:META「Horizon Wookrooms」
https://www.oculus.com/workrooms/?locale=ja_JP(閲覧日:2022年3月10日)

※3:Microsoft「Mesh for Microsoft Teams が目指す、『メタバース』空間でのより楽しく、よりパーソナルなコラボレーション」
https://news.microsoft.com/ja-jp/2021/11/04/211104-mesh-for-microsoft-teams/(閲覧日:2022年3月10日)

※4:The SandBox
https://www.sandbox.game/jp/(閲覧日:2022年3月10日)

※5:MRIコラム「バーチャル・テクノロジーがドライブする行動変容編 第1回:2030年代のCXを担う基盤技術」(2021.9.9)

※6:MRIニュースリリース「三菱総合研究所、2030年代のCX(コミュニケーション・トランスフォーメーション)に関する研究成果を発表」(2021.10.29)

※7:VTVジャパン株式会社「テレビ会議の教科書:5.4音声と映像の相互作用に関わる人間要因」
https://vcbook.vtv.co.jp/pages/viewpage.action?pageId=1310792(閲覧日:2022年3月15日)

※8:ヒカペンネット「オンランゲームのPing値の目安は?快適なネトゲに必要なPing値を公開」
https://hikapen.net/online-game/ping-criterion/(閲覧日:2022年3月15日)