コラム第1回「メタバースの基本要素と7つの応用型」では、メタバースの7つの応用型を示しました。これら7つの応用型のそれぞれで、個人の収益化機会はどのようになると考えられるでしょうか。
いずれの応用型でも、クリエイターとして収益を得る機会はあると期待されます。製品設計・レビューの場合、人流・動線シミュレーションやワークプレイスなどでは新たなオブジェクトやエージェントを運営側以外の個人が作り出すニーズはそれほど多くないと考えられますが、それ以外の応用型においては、クリエイターの活躍する余地は極めて大きなものがあります。制作したオブジェクトやエージェントなどを商品として提供するための簡易な仕組みが整備されれば、クリエイターエコノミーは自然に拡大すると思われます。
サービスプロバイダーも、多くの応用型での収益機会が存在すると考えられます。クリエイターとしてのスキルが十分ではなくても、会議のファシリテーション、イベントの司会や会場案内、展示会の販売員、メタバース内ゲームの指導員など、さまざまな潜在的な活躍の機会があります。現在はそれほど大きなニーズがあるわけではありませんが、メタバースが発展し、多くの人がメタバースにアクセスするようになればなるほど、サービスプロバイダーとしての収益機会も増えると期待されます。サービスプロバイダーは、他者とのコミュニケーション能力が価値の源泉となりますので、現実世界と同様、クリエイターとしての特殊なスキルを持たない多くの方にとってメジャーな収益化機会になると考えられます。
オルガナイザーを個人の収益化手段とすることができるメタバースの応用型は、ワークプレイス、イベント、展示会・マーケットプレイス、バーチャルライフになります。一般的なイベントは人的・資金的なリソースが巨大であり、個人としてオルガナイズすることは困難ですが、メタバース内イベントの場合、リソースが比較的小規模でも実施することができます。さまざまなオンラインツールやスマートコントラクトなどを活用することで、個人ベースでも多様な人材を集積し、成果を出すことが可能になると期待されます。
投資目的でインベスターとしてメタバースを利用することも1つの個人の収益化手段です。最近、メタバース内の土地やオブジェクトをNFT化することで希少性を高め、イベント用土地などをレンタルすることや、オブジェクトを転売するような例が多数報告されています。ただし、NFTに対する制度的枠組みが十分に整備されていないこと、昨今のNFTブームに乗り、どう考えてもバブルとしか言いようのない価格での取引が行われている事例が散見されることなど、現在のマーケットには課題が山積しているように思えます。適切な制度的枠組みが構築され、関連市場が早期に成熟することが望まれます。なお、インベスターは、Web3系メタバースに限定されているものではありません。実際、Second Lifeなどでは、購入した土地や家屋を賃貸して収入を得ている例もあります。
プレーヤーとして個人がメタバースで収益化する事例(P2E)は、バーチャルライフ型メタバースに分類される領域に集中しており、すでに1つの収入源として活用されている例があります。例えばベトナム発のNFTゲームであるAxie Infinityの場合、DAUが約250万人規模で、その約半数が低所得国のフィリピン人だといわれています
※7。このゲームをプレイすることでゲーム内トークンを得たり、アクシーというゲーム内エージェントを育成することができます。前者は直接仮想通貨取引所で取引できますし、後者はマーケットプレイスで販売することができます。低所得国の人にとっては十分な収入になっているようです。
これらの関係を表2に整理します。この表から、個人の収益化機会の提供という点で、バーチャルライフ型メタバースが大きなポテンシャルを持っていることがわかります。
加えて、バーチャルライフ型メタバースのみ、システム内に独立したトークンを持つ必然性があります。これは、他のリアルな経済圏とは独立した新たな経済圏を構築し得るポテンシャルを持っていることを意味します。
例えば、スペースコロニー、月、火星の生活環境を模擬したメタバースや、太平洋に浮かぶ孤島をイメージしたメタバース内で多くのアバターが活動している状態をイメージしてみると、独立した経済圏というイメージがつかみやすいと思います。
これらのメタバース内で行われるさまざまな経済活動の多くは、リアルな世界のさまざまな制約から切り離すことができますので、環境問題や資源制約がボトルネックにならない新たな経済圏として成長することができます。