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知財とビジネスマネタイズ:第1回:連載のねらい

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2016.1.20

金融イノベーション事業本部鈴木健二郎

デジタルトランスフォーメーション
前連載『ビジネスの勝ち方と知財戦略』では、知財を活用したビジネスの「勝ちパターン」の事例を通じて、競争優位を生み出すメカニズムと、これを持続させるメカニズムについて考察した。ビジネスで「勝ちパターン」を形成するためには、知財を組み込む方法と同様に、知財からお金を引き出す方法、すなわち「マネタイズ」の側面が重要となる。

一言にマネタイズと言っても、その手法はさまざまだ。自社で利用して事業収益を得る「知財活用」は、最も本来的なマネタイズのあり方である。また、「知財価値の向上」を通じて、バランスシートの無形固定資産額を厚くすることも、間接的なマネタイズといえる。

本連載では、より直接的または即効性のある資金化の手法として、「知財ライセンシング」「知財譲渡」「知財ファイナンス」の3つを取り上げる。このうち、もっとも分かりやすいのは、「知財ライセンシング」である。前連載でも触れたが、自社独自の技術力(特許など)やブランド力(商標権)を、ライセンスにより他社に使用させ、その対価として使用料を徴求して収益を得る方法である。特にブランドのライセンシングは、認知度の向上につながるため、販促費を掛けるのでなく、むしろお金をもらいながら宣伝ができるという効果も期待できる。本業にも顧客を呼び込む仕組みが完成すれば、自社ブランドを利用する他社と自社製品を利用してくれる顧客の双方からのマネタイズが実現される。一方、特許による技術ライセンシングの場合、当該技術がなければ製品が作れないほどライセンシーにとって必須性の高い技術であれば、ライセンス料の交渉力が高まり、マネタイズの成果が大きくなる。

次に分かりやすいのは、「知財譲渡」である。ライセンシングが知財を保有しながら他社に使わせるのに対して、譲渡は所有権ごと売り渡してしまう点が特徴だ。M&Aの一形態として近年注目を集めており、特に対象が特許である場合は、「技術M&A」などと呼ばれることもある。買い手のニーズが特定の技術にフォーカスされており、売り手が保有する人材や生産ラインなどは不要である場合、技術M&Aは当該技術の特許だけを切り出して取得できるため、買い手にとって極めて都合がよい。売り手側も、例えばベンチャー・中小企業のように特定の研究開発成果のみがあり、事業体制は未整備である場合でも、特許部分だけで買値がつくのであれば、マネタイズが実現しやすいことになる。昨今話題の「下町ロケット」で描かれている特許買収劇にも、このマネタイズのエッセンスがある。

「知財ファイナンス」という、知財を背景資産とした資金調達についても触れておこう。知財に担保設定して融資を引き出す手法がもっとも分かりやすいが、譲渡担保権の法的効力が不安定であったり、倒産時の担保権実行における担保物売却の事例が少なかったりなどの理由から、現時点では多くない。そのため、保有知財を単なる担保としてではなく、与信判断の中で企業の技術力を評価するための材料として利用する金融機関や、知財が生み出すキャッシュフローに着目して投資判断を行う機関投資家が出現しつつある。先述の「技術M&A」における買い手側のバックファイナンスとして、買収対象の知財の価値を評価して、買収資金を支援する金融機関もある。企業は、知財の稼ぐ力を積極的に可視化してアピールすることで、マネタイズの選択肢を広げられる。

本連載では、こうした取り組みが活性化している現状を踏まえ、ビジネスで勝つための知財によるマネタイズの手法を、事例を基に解説する。この連載が、知財を保有する企業の経営企画部門や財務部門の方々にとって、知財による収益力向上のヒントになれば幸いである。 
知財によるマネタイズの主な手法
  • 知財活用:知財を自社で利用し、事業収益を獲得する。
  • 知財の価値向上:保有知財の価値を高め、無形固定資産を増額する。
  • 知財ライセンシング:知財を保有しながら、他社に貸与して使用料を獲得する。
  • 知財譲渡:知財を他社に譲渡し、代金として資金を獲得する。
  • 知財ファイナンス:知財を背景資産として、融資や投資を引き出す。

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