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知財とビジネスマネタイズ:第3回:開放特許からの収益最大化のためのライセンス戦略

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2016.8.2

金融イノベーション事業本部松浦泰宏

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • 大企業特許の中小企業への移転が活発だが、必ずしも大きな収益を生み出す活動になっていない。
  • 事業化にあたっての中小企業の資金不足と、対象特許の技術レベルの低さが原因。
  • 事業化の可能性のある特許群のライセンスと資金などの提供により、有効な収益化が可能。 
近年、大企業の開放特許を中小企業にライセンスする、いわゆる「川崎モデル」が注目されている。川崎モデルは、熱意ある優秀なコーディネータの努力もあって、これまで下請け的立場であった中小企業に、自社製品を持つ効果、研究開発に取り組む意義を気づかせる点で効果的であり、参加企業数、成約数、取り組む自治体の数は増加している。開放特許を提供する大企業の中には、開放特許のみならず、中小企業の事業化のために、自社の製造・試験設備の使用を許可したり、技術に詳しい人材を派遣したりといった支援まで行っている企業もあり、中小企業にとってはメリットの大きい取り組みとなっている。しかし、開放特許を利用した中小企業の事業は成功しても小規模にとどまる例が多く、特許技術を提供している大企業が得られるライセンス収入は微々たるものである。この結果、大企業にとっては自社の大きな利益につながる活動にはならないため、CSR活動の一環としての取り組みにとどまっている。

中小企業の事業が大きく成功しない要因の一つに、中小企業では事業推進に必要な資金が不足していることが挙げられるが、原因はそれだけではない。大企業は、中小企業が自社のライバルになることを恐れ、技術的重要性が低い特許に限定して開放していることが多いようである。このため、中小企業側で大きく成長するような事業を、そもそも組み立てられないという事情がある。このような状況では、大企業側も大きなリターンは期待できない。

大企業が、技術的重要性が高い特許群を開放していくことで、中小企業の事業が一定規模以上の事業へと成長する可能性が高まる。また、技術的重要性が高い特許の事業化には、まとまった資金が必要となることが多いため、大企業が特許だけでなく資金も提供(投資)することで、成功確率の向上に貢献できる。さらに大企業の販売ネットワークを活用した中小企業への顧客の紹介、大企業の持つブランドの中小企業への供与など等は中小企業の信用力を高め、事業の成功確率を高めるだろう。当然これらの活動は大企業にとってリスクとなるが、リスクを取って活動することでそれに見合ったリターンも期待できる。

大企業が積極的なライセンス戦略を採れば、中小企業の事業成功に伴うライセンス収入の拡大はもちろんのこと、配当収入も期待でき、ライバル化の脅威も低減される。新潟の米菓メーカーである岩塚製菓は、煎餅の製造技術の供与をきっかけに出資を行った中国旺旺が、後に時価総額1兆円を超える世界最大の菓子メーカーに成長した。そのことから、岩塚製菓は持ち株比率5%ながら10億円を超える配当収入を毎年享受することとなり、営業利益数億円の同社にとって出資により大きなリターンを得た顕著な例といえる。

このように特許・技術と共に出資するなど、中小企業が成長したのちには自社グループに取り込むことも視野にいれて取り組むことで、中小企業の事業成長に応じた収入の確保が可能となる。大企業にとっては、自社事業への活用が難しい保有特許であっても、技術的重要性が高い休眠特許を活用して新たな収益源が生まれ大きな収入が得られれば、新規事業の一つの形とみなすことができる。

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