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「CCUS」がカーボンニュートラル達成の切り札となるためには

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2021.10.4

サステナビリティ本部野本哲也

環境・エネルギートピックス

カーボンニュートラル達成に向けたCCUSへの期待

世界的なカーボンニュートラルの急進を受けて、将来の技術と見なされていた「二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS:Carbon Capture Utilization and Storage)」についても、できる限り早期での社会実装が期待され始めた。CCUSは、排出されたCO2を分離・回収して、地中深くに圧入し、固定化・貯留する技術である「二酸化炭素回収・貯留(CCS)※1」と、回収したCO2を原料として、化成品や燃料製造へ再利用する技術である「二酸化炭素回収・有効利用(CCU)※2」の総称である。

CCUSへの期待の背景には、2020年から運用が開始されたパリ協定を受けて、各国がカーボンニュートラル目標を掲げていく中で、全ての産業・業種における削減対策が厳しく求められるようになってきている点にある。このうちCCSは、これまで削減が困難とされていた産業セクター(産業プロセス由来の排出や高温の熱を必要とするセメント・鉄鋼・化学など)や、電力供給安定化のために今後も必要とされる負荷追従型の火力発電所において、重要な削減対策として、世界の産業界がにわかに傾注している。CCUについても、回収されたCO2を資源として捉えることで、従来型の化石燃料由来の原料や燃料を代替する排出削減効果について、注目されている。

ただし、CCUSについては、前述した期待の反面、CO2回収から輸送、利用・貯留に要する総投入エネルギーや設備導入コスト、さらには各プロセスでのCO2漏えいリスクや長期貯留の実現性等の観点からさまざまな意見が存在する。

その一方で、実装に向けた技術開発や制度整備が各国で進み、特に排出源に隣接する適地など好条件プロジェクトから段階的に事業化構想が進んでいる。

ここでは、立ち上がりつつあるCCUS市場の特性や、適正な市場確立に向けた条件等を考察する。

CCUS事業領域の拡大

CCUSの一つの手法である「原油増進回収法(EOR)※3」は、米国を中心として1970年代から取り組みが進んでおり、現在の商業化に至っている。

一方で、原油回収を目的とせず、CO2の地下貯留を目的としたCCSや、CO2を原料として活用するCCUは、構想・実証段階の事業が大部分である。バリューチェーンのはじまりとなるCO2の分離・回収分野ではアミン吸収液などを活用した要素技術が成熟してきており、さらなるコスト低下が期待されている。

また、CO2の輸送や貯留のバリューチェーンを統合し、さまざまな事業者が共有するハブのように機能させることで、事業の経済性向上やリスク低減を図る構想も進展しており、2020年代後半からの本格稼働が計画されている。

CCUについては、代替物が高付加価値で代替が進みやすい製品(例:バイオジェット燃料)や、原料となる水素の低コスト化が前提となる製品(例:合成燃料)などで商業化の見込み時期が異なる。また、2040年以降の長期的な展望においては、全世界のカーボンニュートラル達成に必要不可欠な炭素除去につながるネガティブエミッション技術(大気中に存在する過去に排出したCO2も回収 ・除去する技術)について、CCS技術と他要素技術を組み合わせた「CCS付きバイオマス発電(BECCS)※4」や「大気中のCO2を直接回収して貯留する技術(DACCS)※5」と呼ばれる事業の社会実装も期待されている。

CCUSを実現する事業環境整備の必要性

CCUSの事業化には、CO2排出削減への価値が顕在化し、事業の収入源が確保される必要がある。世界的なカーボンニュートラルの達成に向けた活動は急進してきているが、市場に任せただけではさらなる進展は難しく、官民や国家間での協力により事業環境の整備がけん引されるべきである。

北米や欧州、オーストラリアなどのCCUS先進国では、石油メジャーなどの上流開発企業や産業セクターによる技術開発や事業化構想と、政府による公的資金の投入や政策的なアプローチとが協調するかたちで取り組みが進められてきている。今後市場形成が期待される日本やASEAN諸国においても、民が主導的に事業化を構想し、官がその実現を後押しする役割を担うべきである。

CCUSの社会実装には、図に示したような事業環境要件を整備していく必要がある。
図 CCUS分野における事業化の要件
図 CCUS分野における事業化の要件
出所:三菱総合研究所
CCUSの市場導入ポテンシャルは、中長期的なエネルギー供給や温室効果ガスの排出見通し、削減困難な部門の排出見通しと削減対策メニュー、CCUで利用される水素インフラの整備計画と実装タイミングなどを分析していくことで精緻化され、これが民間企業の市場参入判断の基礎となる。

次に、CCUSを事業として成立させるために、CO2の取り扱いや法的責任などの法的枠組みの整備が必要となる。特に、貯留事業は長期的に使用される大規模インフラであり、CO2の漏えいリスクなどを勘案した事業開発が求められるため、その公共受容と社会的合意を得るための仕組みづくりも重要である。

一方、CCUSのビジネスモデルは、開発コストの官民負担の考え方や政策的なカーボンプライシングで炭素削減価値の水準が明示されることで確立される。CO2の回収・輸送・貯留の各事業を1社が統合的に運用する以外にも、産業工場のクラスター化によるCO2回収事業、火力発電所や水素製造プラントに付帯するCO2回収事業、ハブ化による一体的な輸送・貯留事業などのさまざまなモデルが現在までに考案されている。

最後に、CCUSの普及展開のためには、民間ファイナンスが必要不可欠であり、民間資金を誘引するようなリスク抑制策、インセンティブ策を複合的に組み合わせたアプローチが求められる。特に、民間資金の誘引となるような大規模な公的資金の投入の他、CCUS特有の事業リスクの対応策として、債務保証や保険適用を可能とさせる技術的評価や認証のスキームづくりを官民一体となって整備していくべきである。

当社では、各国のCCUSに関する事業化要件の動向を定点観測しており、かつキープレイヤーとのネットワーク構築を進めている。日本国内や今後市場形成が見込まれるASEAN地域の事業環境整備に貢献していきたい。

※1:Carbon Capture and Storageの略。発電所や産業工場などから排出されたCO2を分離・回収して、地中深くに圧入し、固定化・貯留する技術。化石燃料を燃焼利用する分を貯留することで削減効果となる。

※2:Carbon Capture and Utilizationの略。CO2を資源として捉え、大気放出前のCO2を分離・回収し、鉱物化によりコンクリート、人工光合成などにより化学品、メタネーションなどにより燃料へ再利用する技術。カーボンリサイクルと呼称されることもある。

※3:Enhanced Oil Recoveryの略。CO2を油田に圧入し、原油回収率を向上させる手法。天然ガス田の場合は、EGR(Enhanced Gas Recovery)と呼称されることもある。

※4:Bioenergy with Carbon Capture and Storageの略。CO2排出量が正味でゼロであるバイオマスの燃焼で排出されたCO2を回収し、地球に圧入・貯留することで、CO2排出量をマイナスとする技術。なお、バイオマス資源は、成長過程で吸収したCO2と、そのバイオマス資源由来の燃料を燃焼した際に排出するCO2は同量と考えることができる。

※5:Direct Air Capture and Carbon Capture Storageの略。直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)とCCSを組み合わせたシステムで、大気中からCO2を直接回収し、地中に圧入・貯留することで、CO2の排出量をマイナスとする技術。

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