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FIP制度における不確実性と定量評価の重要性:前編

プロファイルリスクの事例

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2022.11.24

サステナビリティ本部石田裕之

環境・エネルギートピックス

FIP制度の不確実性への理解促進がさらなる再エネ拡大に向けて重要

2022年4月にFeed-in Premium(FIP)制度がスタートした。再生可能エネルギー(再エネ)の市場統合とさらなる普及拡大の両立を目指す制度である。Feed-in Tariff(FIT)制度では再エネ発電事業者は固定価格での電力買い取りが保証されていたが、FIP制度の下では市場統合に伴う新たな不確実性が発生することになる。

図1に再エネ発電事業における収入構造の概観を示す。発電収入は基本的に「発電量×単価」で構成され、FIT制度では単価が固定価格であった。そのため出力抑制など発電量の変動が主な不確実要素であったが、FIP制度では各単価要素の価値を自ら市場や相対で取引する必要がある。すなわち、それぞれの単価要素についての収益機会やリスクを把握した上での事業判断が求められることになる。

従来に比べて再エネ発電事業の難易度が上がるため、こうした不確実性にうまく対応できなければ事業や融資の判断が難しくなり、日本全体として再エネ導入の停滞につながりかねない。温室効果ガス削減目標の達成に向けたさらなる再エネ導入拡大の要請に対して、不確実性に対処するための情報や分析・評価が一層重要になっている。

本コラムではFIP制度に伴う不確実性の中でも「プロファイルリスク」と呼ばれるリスクについて、その概要と定量評価例を紹介したい。プロファイルリスクは発電設備の発電パターン(プロファイル)、kWh価値単価、およびFIP制度で得られるプレミアム単価の3要素が絡むことで発生する不確実性である。また、後編では定量評価の応用として、モンテカルロシミュレーションを用いたプロファイルリスクの確率的評価手法を例示する。
図1 FIP制度移行に伴う収入構造の変化とプロファイルリスクとの関係
FIP制度移行に伴う収入構造の変化とプロファイルリスクとの関係
出所:三菱総合研究所

プロファイルリスクによって基準価格水準から収入が乖離する可能性

図2に示すようにFIP制度のプレミアム単価は、基準価格と参照価格の差分を基礎としつつ、非化石価値相当額とバランシングコストで調整される。基準価格はFIT制度における調達価格に相当し、入札などによって決定される。参照価格は卸電力市場価格を基に算出されるが、変動再エネ(太陽光発電、風力発電)の場合にはエリアごとの発電特性を踏まえた加重平均として決定される。

ここで、参照価格は「エリア平均」の発電パターン(プロファイル)に基づいて算出される。つまり、プレミアム単価はエリア平均プロファイルを前提にした場合に、kWh価値などと合わせた年間収入としておおむね基準価格相当の収入が期待できる設計となっている。従って個別発電設備(個別設備)のプロファイルがエリア平均と異なる場合には、収入水準の乖離(かいり)が発生する可能性がある。本コラムでは、「エリア平均プロファイルを前提にした収入に対して、個別設備プロファイルで得られる収入の変化※1」をプロファイルリスクと呼ぶ。
図2 プレミアム単価とエリア平均プロファイルの関係(変動再エネの場合)
プレミアム単価とエリア平均プロファイルの関係(変動再エネの場合)
出所:三菱総合研究所
プロファイルリスクが発生する構造を具体的に例示するため、図3のように仮想的に4コマの時間帯における卸市場価格、エリア平均プロファイル、個別設備プロファイルを想定する。この時、エリア平均プロファイルを前提にした合計収入単価(1)は10円/kWhとなり基準価格と一致する。他方、個別設備プロファイルで得られる合計収入単価(2)は9円/kWhであり、エリア平均プロファイルを前提にした収入に対して1円/kWh低くなる。この計算例は構造の理解のしやすさを重視して大胆に細部を捨象している点に留意が必要であるが、これがプロファイルリスクの発生メカニズムのイメージである。

この仮想的な想定ではプロファイルリスクの影響が1円/kWhであったが、実際の事業・融資判断では現実的に発生し得る乖離水準を把握することが重要となる。個別設備プロファイルは地点によって変化するため一般化が難しく、利用可能な公表データにも限界があるが、以降では一定の想定を置いた上で過去実績データを活用したプロファイルリスクの試算例を示したい。
図3 プロファイルリスク発生メカニズムのイメージ
プロファイルリスク発生メカニズムのイメージ
出所:三菱総合研究所

プロファイルリスクは年間収入に数%程度の影響を与える可能性

図4には、ある特定年度(当年度)のプロファイルリスクを定量化するために必要な前提データおよび計算フローの概要を示す。本コラムでは過去実績データに基づく試算例として、2020年度北海道エリアにおける風力発電を想定したプロファイルリスクの定量化を試みる。一般に個別設備プロファイルデータは公表情報として取得が困難なため、ここでは個別設備プロファイルとして東北エリア平均プロファイルを用いる。
図4 当年度のプロファイルリスク定量化に必要な前提データと計算フロー概要
当年度のプロファイルリスク定量化に必要な前提データと計算フロー概要
出所:三菱総合研究所
北海道と東北は地理的に隣接したエリアであり、両者のエリア平均プロファイルには一定の相関関係が期待されるため、エリア平均プロファイルと個別設備プロファイルの乖離を表現する公表データとして一定の妥当性があると考えた。両者の2020年度のプロファイルを確認すると、図5のとおり相関係数0.69を示しており、他方で時間帯によっては両者の乖離も確認される。
図5 エリア平均プロファイルと個別設備プロファイルの比較(1時間データ)
エリア平均プロファイルと個別設備プロファイルの比較(1時間データ)
出所:北海道電力ネットワーク「北海道エリアの需給実績」、東北電力ネットワーク「エリアの需給実績」より三菱総合研究所作成
図4の計算フローに基づいてエリア平均プロファイルを前提にした収入と個別設備プロファイルで得られる年間収入をそれぞれ計算すると、個別設備では合計収入が1.9%減少する結果となった※2(図6)。内訳としては卸市場収入が1.6%減、プレミアムが2.6%減である。
図6 2020年度の北海道エリア風力発電におけるプロファイルリスクの試算結果
2020年度の北海道エリア風力発電におけるプロファイルリスクの試算結果
出所:JEPX「取引情報」、北海道電力ネットワーク「北海道エリアの需給実績」、東北電力ネットワーク「エリアの需給実績」より三菱総合研究所作成
本試算は個別設備プロファイルとして東北エリアの平均を仮定した試算ではあるが、一定条件下ではプロファイルリスクとして年間数%程度の収入変動が発生する可能性が示唆された。こうしたリスクの定量化が、事業計画策定や融資の際に重要な判断材料の一つとなるだろう。将来的に出力抑制や卸市場価格0.01円/kWhの発生頻度が高くなる場合には、プロファイル乖離がより大きな影響を与える可能性もある。

なお、本試算は2020年度の単一年度断面データに基づいた結果であるが、エリア平均プロファイルと個別設備プロファイルの関係は時系列的に変化し得る。一般に発電事業は数十年の事業期間となることを考えた場合、単一年度断面のみならず、時系列的な不確実性を加味したより総合的な評価が望まれる。後編「モンテカルロシミュレーションによるFIPプロファイルリスクの確率的評価方法例」では、応用分析として確率的な評価方法例を紹介したい。

※1:年間設備利用率(発電量)は同一としてプロファイルの違いに起因する変化。

※2:プロファイルリスク自体にはダウンサイドだけでなくアップサイドの不確実性も同様に存在する。