国の競争力を決める要因は多岐にわたる。IMD「世界競争力年鑑」は、63カ国・地域を対象に国の競争力に関連する統計やアンケート調査などを幅広く収集し、これらを元に競争力総合指標を作成している。
具体的には、「経済状況」「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」の四分野からなる大分類と、各分野につき五つ、計20個の小分類を設ける(表2)。そして、この20の各小分類項目につき、関連する統計やアンケート調査が10から20個ずつ配分される。なお、統計データは、当社も日本のデータ収集の支援を行っているが、政府統計が中心である。またアンケート調査は世界各国の企業経営者層に、自国の競争力を評価してもらうものであり、2018年版の回答者数の合計は6,371であった。
表
表2 IMD「世界競争力年鑑」の大分類項目と小分類項目
大分類 |
経済状況 |
政府効率性 |
ビジネス効率性 |
インフラ |
小分類 |
国内経済
国際貿易
国際投資
雇用
物価 |
財政
租税政策
制度的枠組み
ビジネス法制
社会的枠組み |
生産性・効率性
労働市場
金融
経営プラクティス
取り組み・価値観 |
基礎インフラ
技術インフラ
科学インフラ
健康・環境
教育 |
出所:IMD World Competitiveness Yearbook より三菱総合研究所作成
2018年版では各国につき340個の指標が収集された※3。このうち、背景データを除く各258指標につき標準偏差を加味したスコアが計算される。それらを合算した競争力指標に基づき、各分類(大分類、小分類、および全体(総合))の競争力順位が定まる。なお、各項目のウェイトは統計データを1とすると、アンケートデータは0.5程度であるが、統計データ内、アンケートデータ内で重みづけはしない。
このように作成されるIMDの競争力総合指標およびそれに基づく競争力総合順位は、幅広い観点から「企業が競争力を発揮できる土壌」の整備度を測ることができる。例えば、中国(総合順位13位)やマレーシア(同22位)は起業やデジタル化対応などの進展によるビジネス効率性が優れており、台湾(同17位)は税制や財政面からなる効率性などの競争力が高いことから、日本よりも総合順位が高い。
企業が競争力を発揮できるのであれば、結果として、生産性も高くなると推察される。競争力総合順位は生産性とどのように関連しているのであろうか。その点は第2回で確認する。その上で、現状における日本の競争力の強みと弱みを分野別に分析し、生産性向上のヒントを探っていきたい。
※1ただし、IMD「世界競争力年鑑」の時系列の総合順位比較を行う際は、総合順位を構成する採用指標が毎年若干の入れ替えがある点に留意すべきである。この点については囲み(IMD「世界競争力年鑑」における競争力総合順位をみる際の留意点)参照。
※2日本の競争力の構成および構成要素の各国比較は第2回、第3回で取り扱う。
※3340指標の内訳は、統計データが143指標、アンケートデータが115指標、背景データが82指標である。一方、類似指標であるWEFのGCIは、国の生産力や収益力を決定する要素が国際競争力を規定するとみなし、コーネル大などによるGIIはイノベーションに必要なインプット(人材、研究力等)とアウトプットにつき評価する指標である(表3参照)。
表3 各種競争力指標の比較(参考)
作成者 |
IMD |
WEF |
Cornell Univ.
INSEAD, WIPO |
指標名 |
World Competitiveness Yearbook |
Global Competitiveness Index |
Global Innovation Index |
国数 |
63 |
137 |
127 |
指標数 |
258 |
116 |
80 |
日本の
総合順位 |
25
(63位中) |
9
(137位中) |
14
(127位中) |
日本の
大分類順位 |
経済状況 15
政府効率性 41
ビジネス効率性 36
インフラ 15 |
基礎的な要件 17
効率性向上要因 10
イノベーション 6 |
制度 13
人的資本と研究 14
インフラ 9
市場洗練度 12
ビジネス洗練度 11
知識・技術の産出 12
創造的産出 36 |
出所:IMD, WEF, Cornell Univ.資料などより三菱総合研究所作成