地方創生を加速するICT:第4回:データを活用した住民健康増進サービスの充実

タグから探す

2016.3.29

社会ICT事業本部小峰えりか

デジタルトランスフォーメーション
医療費の増大というわが国の抱える重要課題の解決に向け、民間および各地域の自治体において健康増進のための取り組みが広まりつつある。今後、健康増進に関する取り組みを有効に行い、かつ定着させる上で課題となるのが、個人の健康に関わる情報の収集・管理である。例えば、健診結果は、ライフステージによって実施主体が異なることや紙媒体であることから、時系列での管理・分析が困難となっている。幼少期は乳幼児健診、学齢期は学校健診、社会人になれば職場の定期健診、40歳以上になると健康保険組合の特定健診を受けることがそれぞれ法律で定められている。健診の実施主体は、職場の定期健診は会社、特定健診は健保組合や共済組合、また、自営業の人向けの特定健診は国民健康保険が行うというように、職業・所属などの就業形態で健診の実施主体は変わり、健診結果は本人に渡されるとともに各実施主体で保管されている。そのため、健診結果をすべて持っているのは本人だけなのである。健診結果は個人の健康に関わる重要な情報であるが、これらをすべて手元で保管し、すぐ見られる状態にしている人は多くはないのではないだろうか。

一方、センサー技術の発展、スマートフォンの普及は、体重、歩数、血圧などの一部の健康に関する情報の取得・管理環境を急速に改善しつつある。自分自身の健康情報を管理するPHR(Personal Health Record)を提供する民間サービスも普及しはじめた。体重、血圧、睡眠、基礎体温、食事などの健康に関わる情報を一元管理するサービスも数多く登場している。健康に関する情報は誰かに管理をしてもらうのではなく、自らが管理できるような環境が整ってきたのである。継続的かつ一元的に健康に関する情報を管理することで、どのように自分の生活習慣・運動習慣、そして体が変化してきたか、本人が知る機会が増え、個人の健康に対する関心の向上が期待される。

自治体でも、民間のPHRサービスを活用した健康ポイント事業、電子母子健康手帳、電子お薬手帳などの取り組みが始まっている。

電子母子健康手帳のアプリの事例を挙げる。電子母子健康手帳を利用することで、これまで保護者が紙の手帳に記録していた子どもの健康情報や予防接種履歴が電子的に登録され、紛失時の対策ができる。また、自治体としても、電子母子健康手帳経由で子どもの年齢などに応じた自治体情報を直接届けることができるほか、情報の登録の有無からネグレクト※1などを発見できる可能性もある。現在、各地で行われている電子母子健康手帳の取り組みは実証段階であるが、今後は実用化・商用化の段階に入る。全国各地に展開されることで、母子健康手帳の情報を子どもに引き継ぎ、子どもが利用できる仕組みも広がることが期待できる。

これまで分断されていた個人の健康に関わる情報がつながれば、個人は健康管理への関心が高まり、自治体は特定地域の健康課題に応じた健康教室の開催や管理栄養士・保健師の派遣、課題解決のためのコミュニティ形成やNPO支援などデータ分析による的確な健康増進施策の立案が可能となる。個人の意識が変わり、自治体も積極的に施策を推進することで、医療費の抑制も期待できる。自治体としては、住民の民間PHRサービスを利用した健康情報管理を支援しつつ、個人情報保護に配慮した上でのデータ活用の枠組み作りを進めていくことが重要だ。
図

※1:児童虐待の一種。厚生労働省の定義によると「家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かないなど」。

連載一覧

関連するナレッジ・コラム