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ビッグデータの今:第4回:三菱総研が提供する“HRTech”

人財採用を人工知能でサポート

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2016.9.2

先進データ経営事業本部吉川桃世

MRIトレンドレビュー

人事領域の課題を解決する“HRTech”に注目が集まる

HR(Human Resources)領域とは、人財を経営資源の一つとして捉える領域のことであり、具体的には人事制度、人財育成・採用などの企業活動を意味する。企業に欠かせない「人財」という領域の課題は、どの企業も直面する可能性があるだろう。

そんな中、HR領域の課題を人工知能やクラウドなどの新しい技術で解決する“HRTech”に注目が集まっている。図1はベンチャーキャピタルのデータベースを提供するCB InsightsがまとめたHRTechサービスを提供している企業のリストである。これを見るだけでも、多数のベンチャー企業が採用や労務管理などの多様なサービスを展開していることがわかる。

例えば、Namelyは多額の資金を調達して近年急成長をしている企業の1社である。Namelyは給与支払いや福利厚生に関するシステムを提供してHR業務を効率化する。このサービスの特徴的な点は、従来のHR業務を効率化するだけではなく、データ分析に基づいて社員のモチベーションや帰属意識を向上させるツールとしても使えるという部分である。

日本企業でも実際にHRTechを導入している事例が増加している。全日空やカルチャーコンビニエンスクラブ(CCC)は、従業員情報を一元管理できるサイダスドットコムを導入した※1。これにより人材の評価・育成の効率化に加え、人材の最適配置・育成も可能になる。この他にも洋服のAOKIやバイク販売のバイク王&カンパニーは、採用・人事・勤怠・労務関連のデータを横断的に管理できるジンジャー※2を活用している。こちらも既存業務の効率化だけではなく、勤怠実績のデータを分析することで勤務意欲の低下や離職を未然に防ぐという効果にも期待が寄せられる。

このように、HRTechは既存のHR業務の効率化のみならず、新たな付加価値を享受できるサービスとして着目されている。個人と組織のパフォーマンスを最大化するために、既存のHR業務の負荷をどれだけ削減できるか。さらには、限られた人財をどのように採用・育成し、最適な部署に配置をしていくか。日本でも浸透し始めたHRTechは、成長性の高い分野の一つだろう。
図1 HRTechサービスの提供企業リスト

図1 HRTechサービスの提供企業リスト

出所:CB INSIGHTSウェブサイト“125 Startups Transforming Human Resources Across Recruiting, Benefits, Payroll, And More”(2016年3月29日)から引用
https://www.cbinsights.com/blog/hr-tech-market-map-company-list/

三菱総研も人工知能で採用プロセスの効率化を支援する

HR業務のなかでも、人財採用は特に労力のかかる重要な業務と言えるだろう。応募書類の提出、適性検査の受検、複数回にわたる面接は、応募者と企業の両者の時間を消費する。特に、日本では新卒採用が中心となっており、経団連も採用活動の指針として選考活動の解禁日を設定しているため、採用活動は一時期に集中する傾向が強い。 そこで三菱総研では、人工知能を用いて人財採用を効率化させる支援をしている。具体的には、応募者の基礎属性情報や採用活動履歴、試験結果などに加え、志望動機などの文章情報を人工知能で分析し、人物像や個性を「見える化」する。つまり、今まで採用担当者が出願書類の一つ一つに目を通して判断していた大量の文章情報を人工知能が代わりに読み込み、採用時の優先度を提案してくれるのである。このサービスを活用すれば、人事部や採用担当者の負荷を軽減することができるとともに、読み落とし・読み飛ばしがなくなるという網羅性や、期限ぎりぎりに提出された書類でも速やかに判定できるという迅速性も得られる。また、採用優先度や人物像をスコアリング(数値化)するため、面接に進ませる一定の基準を見つけたり、採用者全体の人物像を俯瞰(ふかん)することで採用計画に偏りがないかを確認したりすることもできる。

応募者の情報をデータ化して一括で分析してしまうことに抵抗感を持つ方もいるだろう。しかしこのように、採用過程における単純作業や、従来は個人の判断に委ねていた部分に人工知能を活用することで、今までよりも応募者の人柄を見極める時間を取ることができる。効率化というのは、必ずしも時間や作業が短縮できるというだけの意味ではない。人柄や適性能力の確認という採用過程の核となる部分に注力することで、応募者としっかりと向き合って採用活動全体の質を向上できる。
図2 採用プロセスの効率化支援

図2 採用プロセスの効率化支援

HRTechで従業員と企業の双方にメリットのあるサービス展開が可能に

今回は採用に関するソリューションをご紹介したが、人工知能を用いたHRTechはこの他にも研修・育成や配属最適化などの場面でも活用できるだろう。図3に示すように、例えば従業員の就業履歴や研修受講結果などのデータを分析することで、特性や能力の見える化、ストレスやモチベーションの把握もできるだろう。従業員の特性に応じた育成プログラムやキャリアプランの設計をすることも可能となる。さらには、その見える化した従業員の特性を考慮し、どの部署にどのようなスキルを持つ人財を配置すべきかという最適化を図るということも考えられる。
図3 HRTechの活用例

図3 HRTechの活用例
これらのサービスは、企業だけにメリットのあるものではない。従業員も、より具体的に自身の成長の方向性を見据えたり、適性に合った職種・業種の仕事に就いたりすることができるようになる。従業員に働きやすい環境と適切な業務を提供し、企業としてのパフォーマンスを最大化させる。両立は非現実的に見えるかもしれないが、テクノロジーをうまく使えば実現していくことは可能なのだ。三菱総研は今後もHRTechを活用したサービスを提供し、働き方を見直し、改善するための支援を実施していく。

※1:サイダス社提供事例
http://www.cydas.com/products/casestudies/

※2:ネオキャリア社提供事例
https://hcm-jinjer.com/results/

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