MaaS新時代を切り開くモビリティの多様化

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2019.5.13

MaaS事業戦略チーム高田真吾

平井 翔

経営戦略とイノベーション

三菱総研の考えるMaaSとは

三菱総合研究所は「Mobility Service Vision 2030」として、2030年代におけるモビリティ社会像を描いた。キーワードは三点ある。一点目は「つながる」。自動運転車、空飛ぶ車(エアタクシー)、鉄道など、あらゆるモビリティがシームレスに繋がり、検索・予約・決済までを一貫して行えるサービスが登場するだろう。二点目は「パーソナライズ」。そこでは個人の目的や嗜好にあわせた移動手段やサービスが提案される。三点目は「付加価値向上」。単なる移動手段に終わらず、例えば鉄道車両内でエクササイズを楽しむなど、個人の目的に応じた場やエンターテインメントを提供する空間が誕生する。

このようなMaaS新時代が到来するためには、バスやタクシーなど既存のモビリティを組み合わせるだけでなく、モビリティ自体が変化していく必要がある。以降、すでに表れ始めている変化の兆しを三つ紹介したい。

事例1:オンデマンド相乗り交通の拡大

第一に、オンデマンド相乗り交通である。現在、京丹後市に導入されている「ささえあい交通」はアプリを通じたドア to ドアの配車サービスだが、ドライバーは地元住民、車両は彼らの自家用車である。つまりバスやタクシーなど事業用自動車に使われている緑色のナンバープレート車両(緑ナンバー)ではなく、白いナンバープレートを付けた一般的な車両(白ナンバー)だ。過疎地ではこのような白ナンバーの車両を活用し、タクシーやバスなど公共交通機関の不足を補う形で、交通の利便性を向上させようとしている。

オンデマンド相乗り交通の活用は、過疎地に限った話ではない。横浜で実証実験が行われたNTTドコモと未来シェアによる「AI運行バス」は記憶に新しい。あらかじめ定められた31カ所の乗降ポイント内であれば、好きなポイント間を自由に移動できるというサービスであった。2019年3月にはトヨタ自動車とソフトバンクの共同出資会社MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)も横浜市でオンデマンドバスの実証実験を行っている。従来、モビリティの製造に注力していた自動車メーカーが、モビリティを用いたサービス提供まで事業の幅を広げようとしている。

バス事業者がオンデマンドの相乗りサービスを提供する場合、効率的なルート設計によるコスト削減につながるだけでなく、走行ルートが定められた従来型のバスより乗降ポイントの自由度が高まることから、比較的割高な運賃での運用が見込まれ、収益性の向上が期待される。タクシー事業者においても、実証実験が頻繁に行われている相乗りタクシーを提供することで、効率的な乗客の輸送と割安な料金設定によるユーザーの利用促進が見込まれる。このような相乗りサービスの提供範囲は今後拡大していくだろう。
図1 オンデマンド相乗り交通の位置づけ
図1 オンデマンド相乗り交通の位置づけ
出所:三菱総合研究所

事例2:都市部における無償型ライドシェアの可能性

第二に、無償型ライドシェアである。例えば、広告視聴の代わりに無償でタクシーを利用できるサービス「nommoc」。2018年には日清食品の即席カップ麺「どん兵衛」とコラボした0円タクシーも話題となった。

新たな事例として「CREW」を取り上げたい。かかる費用はシステム利用料とガソリン代の実費のみ。ドライバーに対しては運賃ではなく、任意の「謝礼」のみを支払う。

「CREW」の事例において、ドライバー確保の観点から重要になるのが、ドライバーとユーザーによる相互評価システムである。極端に謝礼が少ないユーザーは評価が低くなる可能性があり、ドライバーが少なからず謝礼を受け取れるような配慮がなされている。日本では、ライドシェアは違法行為にあたるとされ市場は成立していないが、「CREW」は運賃が生じていないため、現時点で法的に問題ないと国土交通省が見解を示している※1

こうしたライドシェアとタクシーがすみ分けることで、人手不足や高齢化に悩むタクシー業界側にもメリットが生じると考える。例えば、タクシーの需要が少ない時間帯のみライドシェアを許可する。あるいは訪日外国人など観光客を乗せる場合のみ許可をする。もう一歩踏み込み、語学力や地域に関する知識などに長けた観光ボランティアが「観光客専用ライドシェア」のドライバーを兼ねるといったことも考えられる。こうした一定の条件のもと、ライドシェアとタクシーが協調することで、タクシー業界の課題解決とユーザーの利便性向上の両立を図れるのではないか。
図2 無償型ライドシェアのサービス事例
図2 無償型ライドシェアのサービス事例
出所:各社ホームページおよび各種報道記事に基づき三菱総合研究所作成

事例3:超小型モビリティ・低速自動配車サービスの出現

第三に、超小型モビリティの低速自動配車サービスである。近い将来に目を向けると、時速30km以下の低速自動運転車を用いたサービスの登場が考えられる。例えば、スマホで車両を呼び出すと自動運転車がゆっくりとドライバーのもとへ向かい、車両到着後はドライバー自身が通常の速度で運転するサービスが実現できるのではないか。2020年には、これらを支える技術の実用化が見込まれている。このようなサービスが登場することで自動運転技術が世の中に浸透していくだろう。
図3 低速自動配車サービスイメージ
図3 低速自動配車サービスイメージ
出所:三菱総合研究所
カーシェア事業者は、低速自動配車サービスを提供することで大きなメリットを享受できる。カーシェアの拠点まで15分以上歩くことを許容できる人は3割にとどまるというアンケート結果が出ている※2。現状、カーシェア事業で利益を上げるには、カーシェアの拠点周辺に一定密度以上のユーザーが集中している必要があり、商圏は東名阪など大都市周辺に限られている。しかし、車両自身が移動できれば、各カーシェア拠点を利用するユーザーが増えることで従来型のカーシェアでは採算が見込めなかった地域にも商圏が広がる。乗用車の低速運転は道路をふさぎ、走行を妨げると考えられるが、1~2人乗りの超小型モビリティであれば道路の端を低速走行している姿は想像できる。

今回紹介した事例は、NTTドコモや日清食品など、多くの非モビリティプレーヤーを巻き込みながら展開されている。また、先に紹介したモネ・テクノロジーズは2019年3月、モビリティイノベーションの実現に向け「MONETコンソーシアム」を設立。コカ・コーラ ボトラーズジャパンやセコム、吉野家ホールディングスなど非モビリティ企業を多く含む、88社が参加している。彼らもまた、MaaS新時代の到来に大きな期待を寄せているのだ。

MaaSマネタイズへのカギをにぎる産業連携

このように着実にビジネスチャンスへの期待が高まるなか、いかにして収益モデル(マネタイズ)を確立するか、といった課題は残存している。 これに対し、三菱総合研究所では、下記のコラムでも、観光や健康、エンタメ、飲食など他産業と組み合わせた「目的型MaaS」の可能性に言及しているので、参考にしていただきたい。

これからもモビリティの多様化は進み、私たちの移動手段の幅は広がるだろう。モビリティは、従来のモビリティの枠を超え、あらゆる産業と連携しながらビジネスチャンスを拡大させていくことになる。

※1:国土交通省「道路運送法における許可又は登録を要しない運送の態様について」(平成30年3月30日国自旅第338号)

※2:財団法人東京都道路整備保全公社「カーシェアリングにおける駐車場活用方策に関する研究 報告書」(平成22年2月)