コラム

VUCAの時代 あなたは生き抜けるか?人材

第3回:自律型人材になるには?

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2023.3.6

キャリア・イノベーション本部奥村隆一

VUCAの時代 あなたは生き抜けるか?

「自律型人材」とジョブ型雇用

前回に続き、ジョブ型の話である。ジョブ型雇用では、業務内容や責任の範囲、必要なスキルなどを明確に定めるため、保有しているスキルの専門性が求められる傾向にある。そのため、自らの意思で考え能動的に業務を遂行できる、いわゆる「自律型人材」が活躍しやすいと一般的に言われている。しかし、こと日本では、むしろジョブ型雇用の下では自律型人材は育ちにくいのでは、と筆者は危惧している。活躍しやすいのに育ちにくい。この不整合の解消が本コラムのテーマである。

「指示待ち人間」ではなく、自ら判断し、業務を主体的に遂行する人材が社会に求められているのは今に始まったことではない。しかし、市場環境が不透明で変化の激しい今日、ますます社員の主体性や自律性は重要性を帯びている。もはや、あらゆる社員にデフォルトで求められる資質と言えるかもしれない。ワークライフバランスの維持やイノベーションの進展※1が求められる昨今、ジョブ型雇用と対照的な雇用形態であるメンバーシップ型雇用の見直しは急務であり、ジョブ型雇用システムの導入に対する企業の期待は高い。しかし、ジョブ型の普及により、自律型人材が育ちにくくなってしまうとしたら、これは由々しき事態である。

本コラムでは筆者がこのように考える理由を説明するとともに、それでも、われわれビジネスパーソンが自律型人材として成長していくために意識しておきたいポイントについて考えてみたい。今回の論点は2つ。なぜ、ジョブ型雇用は自律型人材が育ちにくい仕組みと筆者が捉えているのか、また、仮にそうした場合、私たちが自律型人材になるためにはどうしたらよいか、である。

ジョブ型の本質は「科学的管理法」にある

1点目について考えるにあたり、最初に「ジョブ型」とは何であったかを確認しよう。ジョブ型雇用とは、明確なジョブディスクリプション(職務記述書)のもとに雇用されるシステムのことである。業務内容や責任の範囲、必要なスキル以外にも勤務時間や勤務場所などを明確に定めた上で雇用契約を結ぶ。

ジョブ型雇用システムは、産業革命を契機に欧米で長い時間をかけて確立された仕組みである。元々は「ブルーカラー」のマネジメントを最適化するために、科学的管理法を理論的ベースとして開発された。その適用範囲を産業構造の転換に合わせ、ホワイトカラーにまで広げてきたのである。

知的労働が付加価値の多くを創出する現代になっても、同じ雇用システムを保ち続ければひずみが起きて当然である。人を「固定的かつ部分的なタスクをこなす資源(リソース)」と捉えて管理する組織からは、社員の自発性や主体性も、視野の広いアイデアも生まれにくい。実際、欧米のジョブ型雇用も課題を抱えており、1980年代にはジョブディスクリプションをベースとした職務定義の役割は終わったとする識者もいると言う※2。また、実際にジョブ型と言われるフランス、米国、オランダ、ドイツなどの国々におけるホワイトカラーのジョブディスクリプションを確認してみると、必ずしもタスクの詳細を記述しているわけではないことがうかがえる※3。ことホワイトカラーに絞れば、職務領域や就業場所は本人の同意なく変えられないという点に違いはありつつも、それ以外は職務内容を厳密に規定しない日本のメンバーシップ型に近い面がある。

ジョブ型やメンバーシップ型の名付け親である労働政策研究・研修機構の労働政策研究所長・濱口桂一郎氏によると、日本で一般的なメンバーシップ型雇用の「メンバー」とは「会社の一員」の意であり、それを直訳した「メンバー・オブ・カンパニー」は「株主」を意味するそうである※4

つまり、日本の企業における社員は、賃金を与えられる見返りに、切り分けられたタスクの一部をこなす「雇用者」というより、株主のように会社全体を意識しながら、その成長と発展を支える「構成員」というニュアンスが強い。その意味では、主体的、自律的に動く上でメンバーシップ型の方が、親和性が高いと言えるかもしれない。

それでも、冒頭で触れた通り、日本の労働者の働き方や企業の成長の観点で、メンバーシップ型雇用システム一辺倒からの脱却が今、求められている。中でも、ジョブ型への転換、あるいは既存システムへのジョブ型の要素の取り込みが有望とされている。ならば、私たちビジネスパーソンとしては、ジョブ型シフトの下で自律人材に成長する手だてを何としても探りたい。ではどうするか?

「自身の業務へのジョブ・クラフティングの適用」が解決策の一つになりうると筆者は考える。

ジョブ・クラフティングを活用して「自律型人材」へ

ジョブ・クラフティングとは、米イェール大学経営大学院のエイミー・レズネスキー教授とミシガン大学のジェーン・E・ダットン名誉教授によって、2001年に提唱された概念であり、「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」と定義されている※5。簡単に言えば、自らの仕事の意味や意義を捉えなおしたり、仕事の内容・範囲・進め方・他者との関わり方・役割分担などに主体的に変更を加える行為といえる。

図表1に示す通り、ジョブ・クラフティングを日々の仕事に取り入れることにより、モチベーションの向上と職場における心理的ストレス反応の低下を通じて、仕事のパフォーマンスを有意に高めることが実証研究から導かれている※6
図表1 ジョブ・クラフティングと仕事の要求度—資源モデルの関係
ジョブ・クラフティングと仕事の要求度ー資源モデルの関係
注:+は正、-は負の影響を意味している。主に仕事のパフォーマンスに正の影響を及ぼす構成概念を青色、負の影響を及ぼす構成概念を赤色で示した。

出所:Bakker, A. B., & Demerouti, E. (2018)を基に三菱総合研究所作成
ジョブ・クラフティングという概念とよく比較されるのが「ジョブ・デザイン」である。社員の働きがいを高めるよう仕事を再定義する、という点で似てはいるが、マネジャーまたは組織が設計した客観的課業(タスク)が、従業員にどう解釈されるかに焦点が当てられており、基本的に従業員は「受動的な存在」とみなされている点でジョブ・クラフティングと大きく異なる。

ジョブ・クラフティングの場合は、主役は「社員自身」である。内容の詳細は別の機会に譲るとして、ここではポイントのみ述べるとしよう。実はジョブ・クラフティングという経営概念は常に進化・変化し続けている。20年前には3つの次元で説明されたが、近年では4次元モデルなども提起されている※7。ここでは、4次元モデルについて簡単に紹介したい。4つの次元(認知、スキル、関係性、タスク)の変更を行うものであり、下表がその例である。
図表2 4次元モデルのジョブ・クラフティング
4次元モデルのジョブ・クラフティング
出所:各種論文を参考に三菱総合研究所作成
ジョブ型の場合、メンバーシップ型と比べて遂行すべきタスクが決まっている程度が高いため、「4」の一部は実践が難しいかもしれないが、少なくとも1~3に関しては自分自身でコントロールは十分可能である。特に「認知的クラフティング」によるマインドセットが、自律型人材としての活躍には重要な点である※8

どうせやらねばならない仕事なら、できるだけ前向きに行えたほうがよいのは間違いない。仕事の中身、位置づけ、やり方、他者との関係にちょっとした自分流の工夫を加えるだけで、現在の手持ちの仕事は違った見え方をするのだと思う。そうなればしめたもの。私たちは自律型人材への道を一歩踏み出したことになる。VUCAの時代を「危機」ではなく、「チャンス」として捉えられるようになるための鍵は、ここにある。

次回は、自律型人材になるために大切な「自律的な学び」のポイントについて考えてみたい。

※1:メンバーシップ型雇用システムは長時間労働を助長するとの指摘がある。また、メンバーシップ型雇用システムは企業内の「知」を磨き、高度化する「持続的イノベーション」に強みを持つ反面、「破壊的イノベーション」を企業組織内で起こす上では有効に機能しにくいと考えられる。

※2:Yahoo!ニュース(2021年1月25日)「雇用のカリスマに聞く「ジョブ型雇用」の真実【海老原嗣生×倉重公太朗】第2回」
https://news.yahoo.co.jp/byline/kurashigekotaro/20210125-00219264(閲覧日:2022年8月1日)

※3:厚生労働省(2014年)「諸外国の働き方に関する実態調査報告書」

※4:濱口桂一郎(2013年8月)『若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす』(中央公論新社)

※5:Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). “Crafting a job: Revisioning employees as active crafters of their work”. Academy of Management Review, 26(2)

※6:Bakker, A. B., & Demerouti, E. (2018). “Multiple levels in job demands-resources theory: implications for employee well-being and performance”. In E. Diener, S. Oishi, & L. Tay (Eds.), Handbook of well-being Noba Scholar.

※7:Bindl, U. K., Unsworth, K. L., Gibson, C. B., & Stride, C. B. “2019 Job crafting revisited:Implications of an extended framework for active changes at work”. Journal of Applied Psychology

※8:当社が掲げる「FLAPサイクル」(三菱総研の造語)とは、個人が自分の適性や職業の要件を知り(Find)、スキルアップに必要な知識を学び(Learn)、目指す方向へと行動し(Act)、新たなステージで活躍する(Perform)という一連のサイクルを指す。個々人のキャリア形成を全体として把握するモデルである。このうち「Find」を本サイクルの起点として位置付けている。「知る」という認知的行為により、個人の仕事に関する捉え方、物事や社会の見方、価値観などのマインドセットの変革が促される。

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