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VUCAの時代 あなたは生き抜けるか?人材

第2回:あなたのキャリア、会社任せで良いですか?

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2023.3.1

キャリア・イノベーション本部奥村隆一

VUCAの時代 あなたは生き抜けるか?
「ジョブ型雇用」という言葉をご存じだろうか。端的に言えば、業務内容や責任の範囲、必要なスキル、勤務時間や勤務地などを明確に定めたうえで雇用契約を結ぶ仕組みである。欧米、というより日本以外の国において、ごく一般的な雇用の仕組みと言われている。

逆に人の採用を先行させて仕事を割り当てる「メンバーシップ型雇用」が一般的だった日本でも、近年では一部の大手企業を中心にジョブ型ないしジョブ型に近い雇用の仕組みが取り入れられるようになってきている。そのため、今後、あなたの勤める会社がジョブ型を導入する可能性は十分にある。

ジョブ型への流れが既定路線だとしても、社員の立場からすれば、雇用の仕組みが変わることに不安はある。そこで、本コラムでは、この変化の波にうまく乗るための3つのポイントについて考えてみたい。

キャリア自律の意識を持つ

第1のポイントは、キャリア自律の意識を持つことである。生産部門から営業部門へ異動したり、若いころにエンジニアとして活躍していたがシニアになって事務職になったりということは、日本の大企業ではよくあることだが、欧米を含む他の国々では異例である。転居を伴う転勤も日本企業ほど一般的には生じない※1。特定の職種や職務を特定の場所で遂行するという条件で会社に雇用されているのであって、それが変われば原則、再契約となる。

これに対し、日本的雇用システムは、極論すれば職務や勤務地、勤務時間に関する個人の決定権を会社に預ける仕組みといえる。しかしその見返りに、大過なく業務をこなせば定年までは取りあえず面倒を見てくれるだろう、という安心感を得られた。

一方、ジョブ型への移行は「転職や起業が当たり前となる状況」を生み出す。自由にキャリアを築ける分、自発的な能力向上が求められ、責任とリスクを背負うことも自覚しなければならない。

キャリア観の転換をスムーズに進めるためのキーワードは「キャリア・セルフリライアンス」である。日本語では一般に「キャリア自律」と訳されている。この言葉は、「めまぐるしく変化する環境の中で、自らのキャリア構築と継続的学習に積極的に取り組む、生涯にわたるコミットメント」※2を意味する。自らキャリアを創造していこうとする強い意志と実行力を前提とする概念である。欧米ではよく知られた言葉ではあるが、日本では、まったくといってよいほど普及していない。筆者は、ここに私たち日本のビジネスパーソンの特性が表れていると考えている。日本人になじみがない概念だから浸透しにくいのである。

キャリアの語源は「荷馬車が通る道」である。日本人の場合は、さしずめ「電車が走るレール」に近い。「輝かしいキャリア」と言えば、一流大学を出て、一流企業で定年まで勤めあげる、というもの。1本の人生のレールに乗り、始発駅から終着駅まで一直線に伸びていくイメージである。そこには「自分で独自に築き上げるキャリア」のイメージは薄い。

一方、ジョブ型雇用システムやキャリア・セルフリライアンスに基づくキャリアは、「車の走る道路」であろう。ハンドルを操作し、自ら自分の行く道を進む。ところどころに分岐点が出てくるが、どんな時でも自分の責任で、自分で決める。従来型の日本のビジネスパーソンのそれとはまったく異なるキャリアイメージである。ジョブ型の波は、私たちにキャリア観の転換を迫っているのである。

生涯を通じたリスキリング

第2のポイントは生涯を通じたリスキリング(学び直し)である。ジョブ型へのシフトはキャリア観の転換にとどまらない。自発的な能力向上の取り組み、すなわち「自己学習」がこれまでよりも強く求められるようになる。

これまでの日本の企業では、新人や若手社員は現場の上司や先輩と同一の仕事を行いながら、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)によって職務遂行能力を向上させてきた。一人前に仕事ができるようになったころには、会社が行うローテーション人事によって、新たな部署に配属され、また新たなOJTを通して能力が引き上げられていく。会社は多様な部署で多様な業務経験を与えながら、マネジャー層やリーダー層となる人材を絞り込んでいく。仕事は給料を得る行為であるとともに能力を開発する機会でもある。長期雇用を前提に、会社が社員の長期的な能力開発を担ってきた。これが日本的雇用システムと言われる「メンバーシップ型雇用」におけるキャリア形成の特徴である。

だが、ビジネスパーソンの意識は確実に変化してきている。東京商工会議所が毎年実施している新入社員を対象とした調査によると、「今の会社でいつまで働きたいか」との問いに対し、半数近くが「特に考えていない」と回答している(2022年度44.7%)が、それを除くと「定年まで」は10年前に比べて12.4ポイント減少(2012年度36.2%→2022年度23.8%)し、「チャンスがあれば転職」「将来は独立」と回答した割合の合計は7.2ポイント増加(2012年度18.3%→2022年度25.5%)となった※3。「一つの会社で完結しないキャリア」を前提とした場合、自分の望むキャリアを実現するためのリスキリングの重要性は高まる。

ジョブ型雇用システムの下では、社員のキャリアは自分でデザインする必要があるから、スキルアップも「企業任せ」というわけにはいかない。日本のビジネスパーソンは自己学習をどの程度行っているのだろうか。パーソル総合研究所が2019年にアジア太平洋地域14カ国・地域を対象に実施した調査※4によると、読書、研修参加、資格取得の勉強、eラーニング、大学進学、勉強会主催など、ほとんどの学習活動においてで最下位であった。しかし、上述の通り、ジョブ型へのシフトを見据えれば、自発的かつ継続的な学び直しが大切と言える。

「自分軸」の明確化を

第3のポイントは、「自分軸」の明確化である。SOMPOホールディングスは人的資本経営の一環として現在、グループ企業の全社員約7万4,000人に対して、働きがいや従業員エンゲージメントを高める「MYパーパス」関連施策を実施している。同社の「MYパーパス」とは、「自らを突き動かすようなパッションや想い」のこと。社員それぞれが持っている、やりがい、やる気、使命感の源泉となる要素であり、これを社員本人が自らを掘り下げて特定し、言語化したものを指すという※5

その際に活用しているのが「Will-Can-Mustフレームワーク」である。「やりたいこと(Will)」「できること(Can)」「求められていること(Must)」を考え、この3つが重なった部分(重なりの多い部分)を中心に考えていくと、自分に適したキャリア・プランを描くことができる。

この3つが重なる部分を考えるのは大切であることに間違いはない。しかし、日本のビジネスパーソンはこのフレームワークをうまく活用できていないと思うことがしばしばある。それはリクルートワークス研究所の調査からうかがえる。以下3つのいずれかに当てはまる、ないし、どちらともいえないと回答した人が全体の約8割を占める結果となった※6

 「自分の能力や専門知識の市場価値が分からない」
 「自分にあった仕事の見つけ方が分からない」
 「自分が人生やキャリアでどうしていきたいか分からない」

ここで注目したいのは、3つめの「自分が人生やキャリアでどうしていきたいか分からない」である。会社や社会から求められていること(Must)は外からやってくるし、自分の強みやできること(Can)は過去の経験や周囲の意見などからある程度、明らかにすることが可能だ。ところが、自分の職業人生を通してやりたいこと(Will)は内面から自然に湧き上がってくるものであり、誰に聞いても教えてはくれない。

Will、Can、Must の重なるところを探す以前に、そもそもWillが不明であるためにこのフレームワークをうまく使いこなせていない可能性はないだろうか。自分のどのようなところを大切にしたいのか、どういう人間でありたいのか、言い換えれば自分なりの「価値軸」を自覚し、明確にしない限り、キャリア自律 は始まらない。会社や社会が求めるスキルや人材像は常に変化する。ジョブ型社会の変化の波を乗りこなすには、まず、キャリア形成の羅針盤となる「ぶれない軸」を持つことが大前提と考える。

「個人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される」とする「計画的偶発性理論」というものがある。とはいえ、無計画であってはならないと筆者は考えている。キャリア上の分岐点でどの道を選択するかを決定するには判断基準が必要だからだ。セレンディピティ(偶発的な出来事)を、自身の望むキャリア実現のチャンスとして活かせるかどうかは、判断のための自分なりの「価値軸」をしっかりと持つことにかかっている。

価値軸にはどのようなパターンがあるのかを明らかにするため、当社が2021年7月に「就業者1万人調査」を行った結果、17の因子が抽出された(表)。たいていのビジネスパーソンは必ずどれかに該当するはずだ。例えば、パスファインダーに該当する人は「構想実現力」の獲得を通じて、自分が望む未来を切り拓きやすくなる。また、その実現には、日常の業務や生活の中で「失敗から学ぶ」「よりよい成果を導くため、打ち手を柔軟に切り替える」「責任感を持つ」などを意識することが効果的である。

今後のキャリアを考えるに際し、あなたがどのような価値軸を大切にしているのか、どういう自分でありたいのか、を見つめ直し、明確化するための参考になれば幸いである。

表 キャリアに関する価値軸の体系(概要)
キャリアに関する価値軸の体系(概要)
注1:日本に住む20~59歳の就業者1万人を対象にインターネットアンケート方式で調査を実施。
注2:「構成割合」:最も強い因子をその人のメインの「価値軸」とした時の割合。例えば20歳以上60歳未満の就業者の12%は、メインの「価値軸」が「パスファインダー(未来を切り拓く人)」であることを意味する。
注3:「心がけること」:当該軸に対応する人の多くが取っている行動特性や強みを参考に作成した。
注4:「職業例」:該当する価値軸を重視している就業者が実際に就いている職業の例。当該軸の因子を多く保有する人(ただし、年収が上位4分の1に限定)が就いている傾向の高い職業を統計的に抽出した。

出所:三菱総合研究所「1万人就業者調査」(2021年7月)

※1:最近では、ようやく転居を伴う転勤に制限が加わるなど、正社員の無限定性は弱まる傾向にある。

※2:花田光世「キャリア・リソース・ラボラトリーの活動と今後の展開」、CRL REPORT No.2 March 2004

※3:「2022年度 新入社員意識調査」(東京商工会議所、2022年5月26日)
https://www.tokyo-cci.or.jp/file.jsp?id=1029600(閲覧日:2022年8月29日)

※4:「APAC就業実態・成長意識調査(2019年)」(パーソル総合研究所、2019年8月27日)より当社加工。アジア太平洋地域の14カ国・地域(中国、韓国、台湾、香港、日本、タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、インド、オーストラリア、ニュージーランド)および都市が調査対象。
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/Mwbr>apac_2019.html(閲覧日:2022年8月1日)

※5:高下義弘「なぜ、社員一人ひとりの『情熱の源泉』を探るのか—『MYパーパス』に取り組むSOMPOの狙い」(日経BP Human Capital Online、2022年2月21日)
https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00005/021400015/(閲覧日:2022年8月29日)

※6:大嶋寧子「8割が『キャリアの迷子』日本人。しんどい時代の乗り越え方を2つの国から学ぶ」(メディアジーン、2021年5月11日)
https://www.businessinsider.jp/post-234354(閲覧日:2022年8月29日)

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