「リスキリング(Re-skilling)」という言葉が流行っている。2022年10月3日の臨時国会の所信表明演説の中で岸田首相がこの語を用いたことで、話題として取り上げられる機会も増えた。そもそもは、「2030年までに10億人のリスキルを実現する」こと(いわゆる「リスキリング革命」)が提唱された2020年のダボス会議がきっかけであろう。リスキリングとは「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」を意味する※1。
スキル獲得を通じた人的資本形成の重要性は論をまたない。ただし、この概念は「学び直し」の一側面を強調し、もう一側面を軽視してしまう恐れがあることに留意が必要である。詳細は後述するが、学習という行為にはインプットに加えてアウトプットが重要である。そこでまずは、社会人の学びにとって「他者」がいかなる意味を持つのかについて考えてみたい。
はじめに、皆さんに次の質問をしたい。
「学習とは、新たな知識やスキルなどを『内化』する(=自分の中に取り込む)、個人的な活動である。」これはいかなる状況でも、正しいだろうか。
多くの人が「イエス」と答えるのではないかと思う。ところが、おそらく社会人類学者のジーン・レイヴと教育理論家のエティエンヌ・ウェンガーは「ノー」と答えるだろう※2。
彼らは学習を個人の「活動」ではなく、個人と組織との間に生じる「相互作用」と捉えている。この場合、知識を「インプット」するという観点はあまり重視されない。むしろ、インプットした知識を組織内に伝える、業務で活用するといった「アウトプット」を通じて、学んだ知識が深化、組織に定着することで実践的な知識になる、と考える※3。
組織内の他者との交流、相互作用といったプロセスを通じて、自分も他者も成長し、その結果として所属している組織自体も変容するのが「学習」である——という発想は、一般的な学習観とは全く異なるものである。これは、一般的な学習概念と区別するため「状況学習」と呼ばれている。
スキル獲得を通じた人的資本形成の重要性は論をまたない。ただし、この概念は「学び直し」の一側面を強調し、もう一側面を軽視してしまう恐れがあることに留意が必要である。詳細は後述するが、学習という行為にはインプットに加えてアウトプットが重要である。そこでまずは、社会人の学びにとって「他者」がいかなる意味を持つのかについて考えてみたい。
はじめに、皆さんに次の質問をしたい。
「学習とは、新たな知識やスキルなどを『内化』する(=自分の中に取り込む)、個人的な活動である。」これはいかなる状況でも、正しいだろうか。
多くの人が「イエス」と答えるのではないかと思う。ところが、おそらく社会人類学者のジーン・レイヴと教育理論家のエティエンヌ・ウェンガーは「ノー」と答えるだろう※2。
彼らは学習を個人の「活動」ではなく、個人と組織との間に生じる「相互作用」と捉えている。この場合、知識を「インプット」するという観点はあまり重視されない。むしろ、インプットした知識を組織内に伝える、業務で活用するといった「アウトプット」を通じて、学んだ知識が深化、組織に定着することで実践的な知識になる、と考える※3。
組織内の他者との交流、相互作用といったプロセスを通じて、自分も他者も成長し、その結果として所属している組織自体も変容するのが「学習」である——という発想は、一般的な学習観とは全く異なるものである。これは、一般的な学習概念と区別するため「状況学習」と呼ばれている。