まず、極端なケースを考えてみたい。VUCAの逆、すなわち、急速な市場変化・技術変化(Volatility:変動性)がなく、大規模な自然災害・感染症などの不確実な事象(Uncertainty:不確実性)が発生することもなく、ビジネスのグローバル化などに伴う複雑な問題(Complexity:複雑性)がなく、価値観の多様化や対立軸の不透明化などによる曖昧性(Ambiguity:曖昧性)が存在しない状況での「リーダーシップ」とは何であるかを問うてみる。ビジネスを取り巻く環境は常に変化し、長期的に見れば複雑さの度合いは増しつつあるので、この想定は全く現実的ではない。
しかし仮にこのような状況が存在するとしたら、「リーダーシップ力」は不要で、「マネジメント力」さえあればよい、と筆者は考える。予見でき、変化することのない一直線のキャリアラダー(はしごを一歩ずつ順番に登るようなキャリアアップ)を、ひたすら登っていくための「自己管理力」としてのマネジメント力である。
裏を返せば、VUCAの時代だからこそリーダーシップ力が必要ともいえる。
ところで、マネジメントとリーダーシップは似て非なるものである。前者は「成果を上げるための手段や手法を定め、管理すること」であり、後者は「ビジョンを明確にして、その実現を導くこと」である。言い方を変えれば、マネジメントでは「問いを解く力」を、リーダーシップには「問いを立てる力」が求められる。
近年、オンラインを活用したビジネスパーソン向け学習支援サービスが充実してきているが、プログラムの内容はプレゼンテーション、ロジカルシンキング、交渉、コミュニケーションといった、ポータブルスキルの獲得を主眼としたものが多い。これらのスキルは主に顕在化しているビジネス課題に対処するための「問いを解く」技法であり、「問いを立てる力」を育むことに対応したコンテンツはまだ少ないように思われる※2。