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シリーズ「空港」第1回:空港運営の持続的な成長に向けて

空港運営事業者主導の新たな空港像

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2023.7.11

スマート・リージョン本部室園幸志

POINT

  • 人口減少下でのインバウンド回復・持続的成長と空港脱炭素化。
  • 空港運営事業者主導のDX・GX推進と業務領域再編の必要性。
  • 新たな空港像と地域にもたらす可能性。
長いコロナ禍と、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめとする国際情勢の緊迫。国内では少子高齢化をはじめとして新型コロナ前から積みあがる社会課題解決の道筋を、引き続き手探りで模索し続ける必要がある。日本にとって国際社会とのゲートウェイ、そして国内交通の要所でもある空港の運営にも「変革」が迫っている。コラム「空港シリーズ」では、日本の空港業界が置かれている現状を解説し、状況の打開策について提言する。

航空・空港は社会環境に順応する

コロナ禍からの回復途上にある現在、街はにぎわいを取り戻しつつあり、旅行産業も一時期の苦境を脱しつつある。ビジネス面も含め海外・国内各地域との玄関である空港も、以前の状況をほうふつとさせるほど活況を呈している。しかし、コロナ禍で航空・空港業界から人材の流出が相次いだ。コロナが収束し回復する需要に対しての戻りが悪い。このことに起因して空港での諸手続きの混雑も露呈※1している。

さらに今後は、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた対応を厳しく求められる。コロナ前の2019年実績(訪日外国人旅行者数3,188万人など)への回復に努めると同時に、他産業同様に航空・空港周辺で排出される温室効果ガスの削減への対応も必要となるのだ。

「航空機の離着陸拠点」と「人・モノ交流拠点」の2つ役割を担っている空港は、取り巻く環境の変化にあわせた持続的な成長が求められる。

この環境の変化の一つが、民活空港運営法※2に基づく民間による滑走路とターミナルビルの一体運営だ。既に、国・地方自治体管理空港あわせて19空港※3が、民間企業により運営されている。日本の多くの空港は、滑走路は国や自治体、ターミナルビルは、第3セクターを含む民間企業による上下分離で運営・管理。さらに空港業務といわれる離着陸に必要な業務は、航空会社および空港業務ハンドリング会社(以降、ハンドリング会社)に委ねるというすみわけがなされてきた。

上下一体での経営による効率化に加えて、民間ならではの発想で、航空利用者以外の人も楽しめるショッピングモールの併設等を取り入れることで、空港の「時間価値」と「空間価値」を高める新たな空港像の構築が期待されている。

インバウンド需要と脱炭素に備えよ

空港を支える「人」に着目したい。空港業務に係る人材は、コロナ前と比較して約20%減少※4している。その上、2030年には日本の生産年齢人口が2020年比約7%減少※5するという構造的課題を抱えている。こうした厳しい制約の中、次に示す対応が求められている。
  • インバウンド需要の回復・増加への的確な対応※6
  • 2030年に、2013年比で空港から排出される温室効果ガスを46%以上削減※7
訪日外国人旅客数の回復・増加の実現に的確に対応するには、「航空便数の増加」や「新規の航空会社の受け入れ実現」が必要である。空港の離着陸能力そのものの拡大も大切だが、航空会社の増便・新規就航を可能とする空港業務の体制、すなわち空港を支える人がいなければ元も子もない(図)。
図 航空需要に対する供給力不足で発生した事案
航空需要に対する供給力不足で発生した事案
出所:三菱総合研究所
ポイントは、「空港業務に係る人材確保」と「効率的な業務体制」の確立である。

国土交通省もコロナ前からグランドハンドリングアクションプラン※8を発出し、応需能力を高めるための各種施策を推進しているが、「人材確保」「業務に係る資機材の手配」「運用」については、空港全体で設計されているのではなく、各ハンドリング会社が担うため、効率的な体制とは言い難い。

人材・人手不足などの課題を抱える中、インバウンドの回復と持続的な空港運営を両立させるためには、空港運営事業者を中心に新たな発想を導入する必要がある。とりわけ重視されるべきは、「持続的な成長につなげる効率的な業務体制の確立」であり、必然的に業務そのものや役割分担の変革が求められる。

DX・GXで空港運営が変わる

従来通りハンドリング会社が、2030年に向けて人材確保と脱炭素化の対応を担うとなると、多額な費用を各社が負担するだけでなく、需要拡大スピードと体制整備の時間的乖離による「応需不成立」も発生しかねない。このことは、各社のコロナ禍からの経営回復だけでなく、日本経済の成長にも影響を及ぼしかねない。

人材不足に代表される航空・空港業界が抱える課題解決に向けては、空港業務の先進化・自動化による効率化など、DXの推進が必要である。DX推進は、効率化だけでなく業務の可視化、データに基づく予防的な対応による安全性や利便性向上にも寄与する。

GX推進による環境面での取り組みでは、空港脱炭素(再エネ設備やEV※9等の導入促進など)、航空運航脱炭素(SAF※10の導入促進など)への対応が必要となる。いずれも、空港全体の持続的な成長に資するための事項として、空港運営事業者が航空会社やハンドリング会社などの関係者と協調的な検討と展開を主導し、全体最適を追求することが求められよう。

具体的には次に示す1.~3.などの対策を考えていきたい。
  1. 人口減少下では、国内のハンドリング各社が消耗しあうような「競争」ではなく、各空港においてインバウンドの回復・持続的成長による全体の需要拡大に向けた「協調」の視点を空港内の関係者が共有すること。
  2. 空港運営事業者が、協調領域(DX・GXに資するインフラ・共通仕様資機材・運用ルール整備)とハンドリング会社間の競争領域(共用のインフラ・資機材によるサービス)の再編・協議を主導すること。
  3. 空港運営事業者が、DX・GXに資する設備・資機材を導入する際の公的支援や運用コストの一部利用者負担を含む制度の導入等を通じ、取り組みの促進を図ること。 
DXとGXを協調的に推進した先行事例としては、香港空港がある。空港内車両のEV化やシェアリングを空港運営事業者が主導し、空港全体として高効率な運営と社会的課題の両立を実現※11している。

空港の新たな可能性

空港にはさまざまな国や地域から来港者を迎えるゲートウェイ機能と後背地の地域をつなぐ拠点機能がある。空港全体のDX化により、空港内の流動の把握、空港内外の移動経路などのデータを把握できる。空港内流動に基づく各施設の再配置による利便性と増収の両立に加え、データに基づくマーケティングによる地域経済への効果も期待できる。

空港敷地を活用した再生可能エネルギー供給力の拡充により、「次世代の航空燃料と目されるSAFの地産地消」「周辺地域への供給」「地域と一体となった国内外への訴求」による企業誘致なども可能となる。また災害時におけるライフライン、エネルギー供給拠点となることで、周辺地域の空港への一層の理解と共生にも寄与する。

空港は、DX・GXの推進により、人・モノ交流拠点機能とともに、地域への波及効果をもたらす可能性がある。新たな可能性の模索は、空港運営事業者に求められる新たな空港像の構築にもつながるのだ。

※1:国土交通省航空局(2023年)
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001588945.pdf(閲覧日:2023年5月24日)

※2:民間の能力を活用した国管理空港等の運営等に関する法律

※3:仙台空港、関西3空港、高松空港、福岡空港、熊本空港、北海道内7空港、広島空港、但馬空港、鳥取空港、静岡空港、南紀白浜空港

※4:国土交通省航空局(2023年)
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001588945.pdf(閲覧日:2023年5月24日)

※5:国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口」

※6:観光立国推進基本計画令和5年3月31日閣議決定
https://www.mlit.go.jp/common/001299664.pdf(閲覧日:2023年6月12日)

※7:国土交通省航空局「空港の脱炭素化目標」
https://www.mlit.go.jp/koku/content/001462944.pdf(閲覧日:2023年5月24日)

※8:国土交通省航空局(2019)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001326637.pdf(閲覧日:2023年5月24日)

※9:Electric Vehicle(電気自動車)の略称

※10:Sustainable Aviation Fuel(持続可能な航空燃料)の略称

※11:香港国際空港
https://www.hongkongairport.com/iwovresources/html/sustainability_report/eng/SR1718/our-future-airport/capacity-enhancement/(閲覧日:2023年5月24日)
Airports Council International
https://www.aci-asiapac.aero/media-centre/perspectives/gar-case-study-ground-services-equipment-pooling-scheme-at-hong-kong-international-airport(閲覧日:2023年年5月24日)

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