コラム

社会・経営課題×DXデジタルトランスフォーメーション

行政DXの実現に向けた第一歩 第2回:3つのアナログ手続きをデジタル化するには?

デジタイゼーションへの課題と対応

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2022.6.6

公共DX本部富永順也

星野和洋

川﨑彩子

藤多しほり

社会・経営課題×DX
今回は、第1回「デジタル化すべきアナログ事務・手続きの見つけ方」で抽出したデジタル化を検討すべき3つの場面での課題と対応方法について考える。なお、ここで示す対応方法のアイデアは、実現に向け法規制やシステム構築コスト、セキュリティなどの課題はあるが、デジタル化に向けて参考となる考え方や方向性として記述する。

外部からの申請・取り込みを「正確」「簡便」に

<課題>

まず、市民が手書きで紙に記入したアナログ情報を申請し、行政がアナログ→デジタル変換(取り込み)をする場面である。電子申請システムが普及すれば、こうした手続きは不要になるが、普及にはしばらく時間がかかると予想される。この場面での行政側の視点でのデジタル変換のプロセスは以下である。職員が受付で、本人確認とあわせ、提示された用紙に記載されたデータ(アナログ情報)に間違いがないかをチェックし、間違いがある場合は訂正する。職員がバックオフィスで、データをキーボードでの入力やスキャナーによるOCR(光学的文字認識)などを通じてデジタル変換する。

こうした紙での申請は、市民にとっては「複雑」で「煩雑」である。そのため記載方法に迷うことや記載誤りを生じることが多く、結果的に市民と、受付やバックオフィスにいる行政職員の双方にとって「時間がかかる」ものになっている。申請を受け付ける手順を時系列で整理し、デジタル変換までの課題を抽出したのが図1である。
図1 申請受付におけるデジタル変換までの課題
図1 申請受付におけるデジタル変換までの課題
出所:三菱総合研究所

<対応方法案>

紙の申請書記入と同時にデジタル化:モニターとスマートペンの活用

課題への対応として、窓口の記入台にモニターと「手書き」を「デジタル」に変えるスマートペン(デジアナ文具とも呼ばれる)を設置する方法はどうだろうか。申請書へ記入しながら内容が自動的にデジタル化される方法である。市民の手続き方法は変えずに、職員が窓口受付後に電子化する作業を省略できる。スマートペンのアプリと申請先の庁内システム間の連携などが必要ではあるが、比較的に安価に構築でき、既存システムへの影響も少ないと考える。

基本情報をデジタル化:二次元コードの活用

申請書類では多くの場合、氏名、住所、生年月日といった基本情報を、複数の書類に何度も書くことがある。市民がこれを毎度記載するのも煩わしいし、職員が記載された情報を逐一入力すれば、二度手間、三度手間になる。

課題への対応として、基本情報を含む内容を二次元コード化し、それをシールとして出力して貼り付ければ該当欄の記載は不要とし、申請を受け付ける方法はどうだろうか。行政機関にて、運転免許証やパスポートなどを確認したうえで基本情報を含む内容の二次元コードを生成し、そのシールを窓口で配布することで、以後、申請書作成の際に活用するというものである(図2)。

職員も二次元コードをスキャンすることで必要な情報を即座に正確に取得でき、バックオフィスでの作業を効率化できる。高速道路の料金所でETCと一般のレーンを分けているように、窓口を分けて対応するのも1つの方法かもしれない。
図2 二次元コードを活用した申請イメージ
図2 二次元コードを活用した申請イメージ
出所: 三菱総合研究所

事務・手続き途中での「アナログ回帰」を回避する

<課題>

次は、一度デジタルになったにもかかわらず、行政の事務・手続きの途中でアナログに戻ってしまう場面である。民間サービスでは、業務で使うデータは一度デジタル化してしまえば、以後はデジタルのままでサービスを完結できることが多くなっている。検索や分析の結果も画面(モニター)でグラフィカルに表示され、確認できる。

一方で、行政サービスのシステムでは、画面でのデータ表示に加え、さまざまな「帳票」形式でデータを出力する機能が作り込まれている。多くの業務では、こうした帳票をいったん出力し、その内容の詳細を確認した後、バインダーにとじ込むといったことを繰り返している。デジタルデータが途中でアナログ(紙)に戻ってしまう場面である。

端的に言えば、デジタルよりもアナログ(紙)の方が便利な面もあるからである。例えば、紙は「即座に内容全体を見て、指摘を書き込む」といった直感的な作業ができる。紙の資料は素早くパラパラめくることで全体の概観がわかる(一覧性)。メモを書き込む点でも早く、自由度が高い(書き込みの容易性)。紙のファイリングは気になった箇所に付箋を付け、後からすぐに該当箇所を探すことができる(見やすさと管理のしやすさ)。紙に戻すことなく、電子ファイル上で取り扱うようにするには、このような紙の特長、メリットを上回るような工夫、仕組みが電子ファイル側に必要である。

<対応方法>

紙の一覧性と書き込みの容易性をデジタルで担保:タブレットPCの活用

課題への対応として、スマートペン入力が可能なタブレットPC(または2in1※1)を活用する方法はどうだろうか。資料を全てPDF化し、会議の内容に適した部分をダウンロードしてPCに格納し、会議の場に持ち込んで使うというものである。

画面に表示した資料にスマートペンで手書き文字を直接書き込むことができれば、利便性は紙に近づくと考える。タブレットの反応速度、スクロールなどの性能は紙と同じレベルにまで上がっているのに加え、手軽に該当部分の表示を拡大・縮小できる「ピンチイン・ピンチアウト」など、紙にはない機能が駆使でき視認性も高い。価格面でも安価な製品が市場に出始めている。行政職員向け標準PCとして、こうした機器を導入することも考えられる。

紙ファイリングの見やすさと管理しやすさをデジタルで担保:電子ファイル管理方法のルール制定・運用

紙の資料の場合、クリップやインデクスなどを用いて議題ごとに資料をまとめることができる。これに対し、電子ファイルの場合、使用したアプリケーションごとにファイルを作り、複数ファイルとして資料化する。そのため、ファイルを逐一開いて投影・説明している場面を会議でよく見かける。こうすると、確認するのにさまざまなアプリケーションを開き、文書間を行ったり来たりしなければならず、説明者も出席者も説明箇所を見誤ることがある。

課題への対応として、電子ファイルの管理ルールを制定し、運用する方法はどうだろうか。例えば、1つの議題に関して、エクセルやパワーポイントなど、使用アプリケーションが異なる複数資料が用意されている場合、それらをPDFのような共通書式に変換した上で1つのファイルに統合して確認できるようにするなどの方法である。

今ならPDF編集ソフトウエアの機能やスクリプトなどの方法を用いて手間なく、一括変換ができる。個人のPC全てにソフトウエアを購入するのが難しい、ということであれば職員全員が使用する文書管理などのシステムにこうした機能を組み込む方法もある。ボタンを押すだけで、指定したファイルを一括でPDF化、統合できる機能があれば、紙に印刷せずにモニターで資料を確認する場面も増えるはずである。

外部への提供を「デジタルのまま」で行う

<課題>

3点目は、行政が市民や他の行政機関向けにデータを提供する際に、専用の帳票形式にデータを印字してアナログ(紙)で渡す場面である。こうした紙による提供は内容を即、その場で確認できるといったメリットがある一方、いくつかの課題がある。

1つは、帳票の作り込み負担である。データを紙帳票で提供するには、情報システムに当該帳票を出力する機能を組み入れる必要がある。多種の帳票を作り込みむほど、システム構築時の初期費用はかさむ。また、法律や制度の変更が発生した場合、それに応じて帳票に出力する項目の変更が必要になり、そのための改修が求められる。さらに、専用紙や特殊なプリンターが必要な場合は、消耗品の管理など運用時のコストもかかる。

もう1つは、受け取る側の負担である。役所から紙で情報を受け取った場合、その場での確認は瞬時にできるが、後からその紙を探そうとしてもなかなか見つからないことは誰しも経験しているだろう。情報の提供先と提出先が異なる場合、ある行政機関で出力した紙を別の機関に持参して、そこで紙の情報を再度、デジタル化することもあると聞く。こうした同じ情報のアナログ、デジタルの繰り返しは、時間と費用の無駄の最たるものと言えよう。

<対応方法>

国のシステム基盤を活用したデジタルでの情報提供:デジタル庁マイナポータルによる情報集約

課題への対応として、既に国がデジタルで情報提供を行っているマイナポータルを活用して情報を集約していく方法はどうだろうか。マイナポータルは、国(デジタル庁)がマイナンバー制度の施策の1つとして推進しているものである。総務省によると、2021年11月1日時点でマイナンバーカードの交付率は39%を上回り※2、マイナポータルを使える人も多くなってきている。

マイナポータルでは、行政機関が保有する市民自身の情報(世帯構成、税・所得、健康・医療など)をデジタルで確認できる。健康・医療については薬剤・健診結果レベルまで確認することが可能だ。また、生命保険控除証明書などをe-Taxに連携させるなど、行政機関同士や、民間企業との連携も進められている。

プライバシーや個人情報の保護に配慮する必要はあるが、将来的には自治体が行う市民へのデータ提供をマイナポータルに集約し、そこを見に行けば行政機関が保持している個人データのうち提供可能なものは電子で入手できるようになることを期待したい。

スマートフォンアプリを活用したデジタルでの情報提供:前橋市の母子健康情報の事例に見るアプリ開発

課題への対応として、スマートフォンのアプリを開発し、デジタルでの情報提供に活用するのはどうだろうか。ここでは、前橋市の「母子健康情報の配信」の取り組みを紹介したい。このアプリを使うと市からの母子健康情報に関するお知らせや子供の健診結果を閲覧でき、予防接種のスケジュールの通知などをスマートフォンで受け取れる※3(図3)。利用開始のための申請も窓口に行かず、インターネットから直接可能だ。健康・医療・介護に関する個人情報をカルテとして活用するPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の一歩であると同時に、自治体におけるデジタルな情報提供の一歩でもある。
図3 前橋市が提供する子育てアプリ「OYACOplus(オヤコプラス)」
図3 前橋市が提供する子育てアプリ「OYACOplus(オヤコプラス)」
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出所: 前橋市ホームページ「子育てアプリ「OYACOplus(オヤコプラス)」を提供中」(OYACOplus説明資料【概要版】P3より)
https://www.city.maebashi.gunma.jp/material/files/group/8/OYACOplsugaiyosiryo.pdf(閲覧日:2022年4月9日)

※1:ノートパソコン型であるが、タブレットの機能も備えており、パソコンの機能とタブレットの機能の両方を切り替えて使用できるPC。

※2:総務省「マイナンバーカードの市区町村別交付枚数等について(令和3年11月1日現在)」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000777036.pdf(閲覧日:2022年4月9日)

※3:前橋市「子育てアプリ「OYACOplus(オヤコプラス)」を提供中」
https://www.city.maebashi.gunma.jp/soshiki/seisaku/mirainomesozo/gyomu/6/3869.html(閲覧日:2022年4月9日)

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