コラム

社会・経営課題×DXデジタルトランスフォーメーション

行政DXの実現に向けた第一歩 第3回:デジタイゼーションからデジタライゼーション、そしてDXへ

デジタイゼーションへの課題と対応

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2022.6.13

公共DX本部加藤卓也

吉澤直人

社会・経営課題×DX
本シリーズでは、行政の事務・手続きにおけるデータの形態という切り口から、アナログで行っていた業務、作業をデジタルで行えるようにする課題と対応方法を整理、紹介した。

最終回の今回は、次のステップとして、デジタル化されたことを前提に業務プロセス自体を見直す「デジタライゼーション」や、各種デジタルデータを活用し、これまでにないサービスを創出する「デジタルトランスフォーメーション(社会全体のDX)」の実現に向けた検討ポイントを概観する。なお、行政DXの実現に向けたデジタライゼーションの課題と対応については、改めて論じることとしたい。

行政のデジタル化に関する動向とデジタイゼーションの関係

まずは行政のデジタル化に関する取り組みを振り返ってみたい。日本の行政のデジタル化は、古くは「電子政府」、現在は「デジタル・ガバメント」と呼ばれ、これまで数多くの施策が立案、実施されてきた。第1回で述べたように、現在、デジタル・ガバメントの推進に当たっては、「デジタル手続法」により、さまざまな行政の事務・手続きのデジタル化を進めるための基本原則として、以下の「デジタル3原則」が示されている。

①デジタルファースト:個々の手続き・サービスが一貫してデジタルで完結する
②ワンスオンリー:一度提出した情報は、二度提出することを不要とする
③コネクテッド・ワンストップ:民間サービスを含め、複数の手続き・サービスをワンストップで実現する

これらのデジタル3原則を、本シリーズで用いた事務・手続きフローや方向性に当てはめると、以下のように位置づけられる。
図 デジタル化3原則と本コラムのモデルとの関係
図 デジタル化3原則と本コラムのモデルとの関係
出所:三菱総合研究所
デジタイゼーションにより行政サービス、民間サービスのさまざまな事務・手続きの入り口と出口がデジタルになり、これらのサービスが1つにつながれば、デジタル3原則が満たされる、と言えるのではないだろうか。

デジタイゼーションからデジタライゼーションへ

行政DXの実現に向けて、デジタイゼーションの後、次のステップであるデジタライゼーションに進む必要がある。第2回までのコラムの主要テーマであるデジタイゼーションにおいては、既存の事務・手続きなどプロセス自体を変えることは前提としていない。デジタライゼーションにおいては、データがデジタル化されたことを前提に、アナログベースの無駄なオペレーションを可能な限り改善・変革していく、いわゆるBPR(Business Process Re-engineering)に取り組んでいくことになる。

デジタライゼーションに立ちはだかる大きな壁は、現行業務のしがらみである。特に行政の業務は、マニュアル・ルール化されている部分も多く、現行業務を踏襲した、定型化されたものになりがちである。一方で、現状の業務にとらわれ過ぎると、現行業務の改善にとどまってしまい、変化も頭打ちになってしまう。

業務の飛躍的な改革を求めるには、現行業務の延長ではない変化に取り組んでいく必要がある。改革に取り組むに当たっては、変化が比較的容易な領域(業務の手順や方法など)と、変化が難しい領域(制度やアウトプットなど)に分けて整理することが重要だ。

このうち、変化が比較的容易な業務の手順や方法などは、デジタル技術をきっかけとして一から業務をデザインすることが挙げられる。デザインから実際の業務へ定着させる過程では試行錯誤も発生するが、新たな業務への変化に効果を感じることができれば、現行業務へのしがらみもなくなり、変化をさらに促進することができるだろう。もちろん、制度やアウトプットも含めて一からデザインすることができれば、効果はより大きくなる。

デジタライゼーションからDXへ

さらに、デジタライゼーションが完了したら、次は変革した業務プロセスに基づき、社会全体としてサービスやビジネスを変革・創出するDXに取り組む。ここでは、単独の行政機関や民間企業に対するDXではなく、複数の行政機関、民間企業のDXを通じて、行政、民間のさまざまな業務が1つのサービスとしてつながることで、「社会全体のDX」を実現するという観点が重要である。

社会全体のDXの例として、「図 デジタル化3原則と本コラムのモデルとの関係」内に記載した確定申告を考えてみたい。確定申告は国税庁が受け付けているが、手続きに必要な控除証明書などは金融機関から発行される。これらについて、確定申告の手続きだけでなく、手続きに必要な控除証明書なども含めてデジタル化し、業務プロセスを改善することが前述のデジタイゼーションやデジタライゼーションである。

しかし、社会全体のDXはこれだけでは不十分である。デジタルデータを活用して、行政サービスが、これを必要とする住民に的確に届くようにプッシュ型のサービスを実現することや、蓄積されたデータを元に分析を行い、政策の改善を実現することが社会全体のDXであり、デジタル化の最終的な目標である。

DX実現に向けた課題

行政、民間のさまざまな業務が1つのサービスとしてつながることは、国民の利便性向上に資する反面、リスクもある。安全・安心なデジタル社会を実現するためには、本人確認をどのように行うべきか、個人情報をどのように保護するか、セキュリティや個人情報保護への十分な配慮が必要となる。

第2回でテーマとしたデジタルな情報提供における課題については、政府の「デジタル・ガバメント技術検討会議」のうち「データ連携タスクフォース」の自治体サブワーキンググループなどで検討、調査・研究が進められている。また、政府は、さまざまな行政手続きにおける本人確認の課題等について、「行政手続におけるオンラインによる本人確認の手法に関するガイドライン」を取りまとめた。
今後、これらの動きやガイドラインに基づき、個別の事務・手続きに求められるセキュリティレベルや認証レベルの検討が必要となるだろう。
 
社会全体のDXが実現するまでには依然として、さまざまなハードルがある。それを乗り越えてゴールに向かうためには、本コラムで述べたように「一から業務をデザインすること」、「複数の行政機関、民間企業のDXを通じて、行政、民間のさまざまな業務が1つのサービスとしてつながること」が重要な視点になる。

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