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FinTechが切り拓く新しい金融サービスのかたち:第2回:投資家の裾野を広げるロボアドバイザー

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2016.6.6

先進データ経営事業本部

デジタルトランスフォーメーション

POINT

  • AIを活用した資産運用相談サービス「ロボアドバイザー」が拡大
  • 既存コンサルティングへの手数料やサービスへの不満がロボアドバイザー拡大の背景
  • 日本でも注目が集まるロボアドバイザーサービス
  • 今後日本でもロボアドバイザーのニーズが高まる可能性がある 

AIを活用した資産運用相談サービス「ロボアドバイザー」が拡大

欧米を中心として、AI (Artificial Intelligence、人工知能)やアルゴリズムを活用して資産運用アドバイスを提供する「ロボアドバイザー」と呼ばれるサービスが拡大しています。

ロボアドバイザーは投資スタンスや財務状況を自動で分析し、最適な資産運用プランを策定して取引を支援します。ロボアドバイザーは、顧客が年収、保有資産、投資経験、投資目的、リスク選好度等の簡単なアンケートに回答すれば、これらの情報に基づき、個々人に適した資産ポートフォリオ、具体的な投資対象をアドバイスしてくれます。さらに、最適な運用プラン案を策定して、プラン通りに取引を実施します。ウェブサイトやアプリ上で個人の資産運用をアドバイスするため、人間のファイナンシャルアドバイザーと対比されます。従来型のファイナンシャルアドバイザーによる資産運用アドバイスは、基本的には対面によって資産運用アドバイスや資産運用プランを提供し、手数料を受け取るサービスで、個々人の事情に応じて資産運用プランをきめ細かく調整し、安心感を与えているのが特徴です。

一方、ロボアドバイザーには3つのタイプがあります(図表1)。一つ目は投資アドバイス型です。運用取引を実行せず、投資アドバイスのみを提供します。そのため、手数料は基本的に無料です。二つ目はオンライン型です。すべてオンラインで、利用者に資産運用プランを提供し、利用者が承認したプランに基づいて取引を実施します。取引手数料として0.05%から0.20%、口座管理手数料として資産残高の0.25%から0.50%を利用者が支払います。三つ目は対面活用型です。対面による資産運用相談時にロボアドバイザーによる資産運用プランを参考として活用します。手数料として資産残高の0.30%から0.90%を利用者が支払います。

ロボアドバイザーは、米国に拠点を置くベンチャー企業によって提供され始めたサービスですが、近年は大手金融機関も参入を開始しています。たとえば、2007年創業の米国のWealthfront(ウェルスフロント)は、預かり資産が20億ドル(約2,400億円、US$1=120円で換算)で、主たる利用者は20代から30代で約2万ユーザー、平均預かり資産は9万ドル(約1,080万円、US$1=120円で換算)です。他には、Betterment社、FutureAdvisor社が代表例(図表2)で、Fidelity Investments社も同種のサービスを検討中です。

既存のコンサルティングへの手数料やサービスへの不満がロボアドバイザー拡大の背景

ロボアドバイザーは、従来型の対面型資産運用アドバイスを受けたくても受けることのできなかった潜在的な投資家らの関心を集める革新的サービスだと考えられています。特に、米国では、資産を形成しつつあるミレニアル世代(1980年代生まれ以降)及び退職を迎えたベビーブーマー世代(1946年~1959年生まれ)を中心とする潜在投資家に支持されつつあります。

2000年前後からミレニアル世代を中心に急速に拡大してきた「インターネットを活用すれば自己判断でも資産運用ができる」との認識が、金融バブル崩壊後一転し、アドバイスなしでは長期的、安定的な資産運用は難しいと認識されるようになりました。然しながら、既存の金融機関等が提供するアドバイザリーサービスを受けられるほど運用資産額が大きくないケースもあり、特にミレニアル世代の投資家にとっては、相談手数料の高さが資産運用サービスを受ける障壁となっていました。これらの投資家にとって、ロボアドバイザーサービスは、既存サービスに比して1/3~1/4程度に抑えられた安い手数料、ネット上で気軽にサービスを受けられる利便性が魅力と映り、支持が広がりつつあります。

また、ベビーブーマー世代の投資家は、これまでフィナンシャルアドバイザーの専門的なアドバイスを受けながら、退職後に備えた資産運用を行ってきました。その一方で、一部のフィナンシャルアドバイザーに対しては、アドバイスする側の利益を優先した運用プラン提案がなされることに懸念を抱く人たちもいました。そうした中、顧客プロファイルをもとに客観的に資産運用プランを提案するロボアドバイザーの中立性や透明度の高さが魅力的と映り、注目を集めています。

日本でも注目が集まるロボアドバイザーサービス

近年、日本でもベンチャー企業や証券会社等がロボアドバイザーサービスを開始しています。
具体例としては、お金のデザイン、エイト証券(エイトナウ)、マネックス証券(answer)、ウェルスナビ等があげられます。
今後の可能性として二つの方向性が想定されます。一つは、新興のロボアドバイザー企業が登場し、マス富裕層向けの従来型資産運用を代替する可能性です。もう一つは、対面型サービスでロボアドバイザーの活用が進む可能性です。フィナンシャルプランナーがロボアドバイザーのプラットフォームを用いることで、より良いサービスが提供されるようになるかもしれません。

今後日本でもロボアドバイザーのニーズが高まる可能性がある

日本では現在、家計の資産は現金・預金に偏重しており、実際に資産運用している人は限られている状況です。現在、日本の家計資産の総計1,684兆円のうち現金・預金比率は52.7%で、米国の同総計68.9兆ドル(約8,268兆円、US$1=120円で換算)のうちの13.7%、ユーロエリアの同総計21.7兆ユーロ(約2,930兆円、1€=135円で換算)のうち34.4%を大きく上回っています※1

しかし、日本においては少子高齢化や公的年金への不安の高まりを背景に、若年世代を中心に自助努力による将来に向けた資産形成の必要性が高まるものと考えられ、そうした中、米国のミレニアム世代や、ベビーブーマー世代と同様に、相談手数料の水準や、ネットの利便性、提案の中立性などへの着目から、資産運用サービスの選別が進む可能性もあります。

実際に日本でも、2000年前後よりスタートしたネット証券は、ネットを使いこなすITリテラシーの高い既存投資家向けサービスという新たなニーズ喚起を促し、新しい市場を形成しました。更に、現役世代を中心として、ネットを使いこなす層が増えるに連れて、これまで投資をしてこなかった個人の資産運用ニーズも取り込み、投資家の裾野拡大に貢献しています。

現時点でのネット証券・銀行の口座の所有率を比較すると、性別では男性が高く(男性41%・女性28%)、年齢は40代以上が高く(40代以上40%・30代以下27%)、1,000万円以上の資産を持つ人が高く(資産1000万円以上50%・1000万円未満32%)、目的を持って貯蓄している人が高く(具体的な貯蓄目的有41%・無28%)、情報感度の高い人が高い(情報感度高い人42%・低い人24%)等の特徴※2がみられます。

ロボアドバイザーも、このように潜在的な顧客のニーズを掘り起し、新たな市場を形成することができるかもしれません。テクノロジーをベースとしたロボアドバイザーは、貯蓄から投資への大きな流れに新風を吹き込む可能性の一つとして、金融業界で注目を集めています。
図表1 ロボアドバイザーのサービス概要例:3つのタイプ(米国)
  サービスモデル サービスの特徴 手数料
投資アドバイス型 資産運用は行わず、投資アドバイスのみを提供
  • 低価格、便利さ
  • 10問前後の質問から、顧客プロファイルを行い、適切な資産配分を提示
  • なし
オンライン型 オンラインで、資産運用プランを提供
  • 質問の内容は、基本情報と投資の目的、リスク選好度に関するものに大別
  • 顧客プロファイルを元に、定量的に資産運用プランを分析
  • 取引手数料は、0.05~0.20%
  • 管理手数料は、資産残高の0.25~0.50%
対面活用型 オンライン型に加え、運用方針の相談として、アドバイザーによる対面サービスを提供
  • 低価格、便利さ
  • 対面による安心感
  • 資産残高の0.30~0.90%
図表2 ロボアドバイザーのプレイヤー
  企業名 概要
投資アドバイス型 LearnVest インターネット上の財産管理プラットホームで、資産管理とその有利な 運用をサポート。
MarketRiders 個人退職金積立計画の策定支援などを行うアプリを提供。
オンライン型 Betterment ロボアドバイザー分野での老舗。業界では最も多くの顧客を獲得。
FutureAdvisor インターネット上の財産管理プラットホームで、小口個人投資家向けの資産管理とその有利な運用をサポート。投資アドバイザーと財産管理の二役。
Acorns モバイルアプリによるサービス提供。ユーザーの支払い時の金額を切り上げ、“おつり”を投資に回す仕組みが特徴的。
対面活用型 Charles Schwab 米国リテール向けオンライン証券ビジネスの主要プレイヤーの一つ。 既存の金融サービス会社としては最初にロボに参入。
TD Ameritrade 米国リテール向けオンライン証券ビジネスの主要プレイヤーの一つ。2016年には、オープンアーキテクチャ戦略で、既存のロボアドバイザーや口座管理ソフト等のツールをSigFig等と提携する予定。
Wealthfront 高額所得者の税金対策に特長。ITエリートをターゲットにして、業界最大の預かり資産。投資部門のチーフ・オフィサーは『ウォール街のランダムウォーカー』で知られるプリンストン大学のマルキール教授。
Personal Capital 元PayPalのCEOが2009年に立ち上げたロボアドバイザー。家計管理ツールを起点に、低コストの一人運用とフィナンシャルプランナーに紹介するサービスを展開。

※1:日本銀行統計局「資金循環統計の日米欧比較」(2015年12月公表)

※2:三菱総合研究所、mif3万人調査、2015年6月


本コラムは、フィデリティ投信株式会社と当社が共同作成し、「フィデリティDCニュースレター」に連載されたものです。

執筆者
先進データ経営事業本部
篠田徹、木田幹久、山野高将、本田えり子高橋淳一鵜戸口志郎

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