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FinTechが切り拓く新しい金融サービスのかたち:第5回:ゲーミフィケーションを活用した金融/投資教育

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2016.10.13

ICTイノベーション事業本部

金融イノベーション

POINT

  • 金融教育での「ゲーミフィケーション」の活用が模索され始めている
  • 「ゲーミフィケーション」を活用することにより、教育における「モチベーションのアップ・維持」の効果が期待されている
  • 国内では、子供の頃からゲームに慣れ親しんだ世代が資産形成期に入った
  • ゲーミフィケーションの効果を最大限発揮させるためのポイントはデータの蓄積・活用と効果検証の仕組みづくり

金融教育での「ゲーミフィケーション」の活用が模索され始めている

「ゲーミフィケーション」は、2010年にゲームデザイナーのジェーン・マクゴニガルが世界的な講演会TED(テド・カンファレンス)で「ゲームが世界をよくする」というスピーチを行った頃から注目されるようになりました。現在でも、様々な分野においてその活用が模索されています。特に、教育とゲームに関しては、ゴールが明確であること、継続性が必要とされること、競争の要素があることなどの共通点から、相性が良いと言われています。金融分野では、ゴールが明確に金額で示せることや、ゴール達成に継続性が必須の要素であることから、ゲームとの相性の良さは特に際立っており、既に具体的な事例が出始めています。

米国の金融サービス会社LendUp は、低所得者向けに無担保ローンを提供すると同時に、ゲーミフィケーションを活用した金融教育コースを提供しています。この金融教育コースを受講することにより、顧客はポイントを稼ぎ、実際の借入時に利用できる低レート優遇や借入増額などの権利を得ることができます。LendUpによると、教育コースを一つでも終えた顧客の80%は返済傾向が高い傾向にあり、さらに多くのコースをこなしていくにつれて、返済確率が上昇していくとのことです。教育の範囲はクレジットスコアの理解や金融の基礎知識から、お金の使い方、前向きな貯蓄習慣にまで及び、最終的には返済に対する意識を向上させることに焦点を当てています。LendUpは他の金融機関向けに、融資業務をトータルでサポートするサービスをAPI(※1)により提供しており、これまでに蓄積したノウハウを活かした業容拡大を行っています。
図表1:LendUpの教育コース(抜粋)
図表1:LendUpの教育コース(抜粋)
投資教育分野では、フィディリティ・ラボが、「Beat The Benchmark(※2)(ビート・ザ・ベンチマーク)」という確定拠出年金(DC)加入者を中心とした投資初心者向けに教育ツールを提供しています。このゲームは、分散投資の重要性など、投資全般への理解を促すための教育ツールです。

(※1)アプリケーションプログラムインターフェイスの略。プログラミングの際に使用する機能や管理データなどを、外部の他のプログラムから呼び出して利用するための手順やデータ形式などを定めた規約のこと。

(※2)https://www.fidelitylabs.com/content/beat-benchmark

ゲームはステージ制となっており、ステージ1では5回のゲームでそれぞれ1,000ドル、ステージ2では5回それぞれで2,000ドルと、ゲームの進行に応じて徐々に所持金が追加されていきます。さらに、投資前に行うクイズに正解すると、10%加算される仕組みとなっています。プレイヤーは、国際株式、米国株式、債券などの組み合わせを作成し、インデックスのパフォーマンス超えにチャレンジします。ゲームが進むにつれて、プレイヤーが投資信託やセクター、分散投資などの概念を自然に学んでいけるよう設計されています。
図表2:「Beat The Benchmark」の画面
図表2:「Beat The Benchmark」の画面
国内で有名な金融教育ゲームとしては、日経新聞のグループ会社が運営する「トレダビ」があります。架空の資金1,000万円を元手にして、他のユーザーと収益率を競うリアルな株売買の感覚を養うことができるバーチャル取引ゲームです。実際の株価情報を20分遅れのセミリアルタイムで公開し、保有銘柄の評価損益額や勝率が随時確認できるため、実戦力が身につくゲームとして、証券会社の研修などにも利用されています。
図表3:「トレダビ」の画面
図表3:「トレダビ」の画面

「ゲーミフィケーション」を活用することにより、教育における「モチベーションのアップ・維持」の効果が期待されている

以上紹介したように、金融/投信教育分野における「ゲーミフィケーション」への期待は大きく、既に積極的な導入が進んでいます。「ゲーミフィケーション」を効果的に活用する上で重要なポイントは、知識・スキルの習得といった目的を達成する上で必要となる「モチベーションのアップ・維持」です。

米国の教育工学者ジョン・ケラーは、ARCSモデルという考え方の中で、学習のモチベーションを高める要件として、「Attention(注意:面白そうだ)」「Relevance(関連性:やりがいがありそうだ)」「Confidence(自信:やればできそうだ)」「Satisfaction(満足:やってよかった)」の4つを挙げています。

また、ユーカイ・チョー(Yu-Kai Chou)は、「ゲーミフィケーション」がユーザーを惹きつけるための「鍵となる要素」として、「達成感」「忌避感」「エンパワーメント」等の8項目に分類した「Octalysis」を発案しました(図表4)。米国のFidelity Investmentsではこの考え方を採りいれた教育ツールの開発を進めています。
図表4:「Octalysis」における「鍵となる8つの要素」
図表4:「Octalysis」における「鍵となる8つの要素」

国内では、子供の頃からゲームに慣れ親しんだ世代が資産形成期に入った

国内に目を向けますと、日本は、投資教育で「ゲーミフィケーション」を活用する上で、文化的な準備が整っている国だと言えます。

1980年代、任天堂の「ファミリーコンピューター(ファミコン)」が一世を風靡し、家庭の日常生活にゲームが入り込みました。この時代、小学生だったファミコン世代は今や40代に成長しています。さらに1990年代には、ソーシャルゲームの走りとも言える任天堂の「ポケットモンスター」が登場します。友達とアイテムを交換したり、戦ったりするソーシャル性が特徴のゲームでした。小学生の頃にこのゲームに慣れ親しんだポケモン世代は今や30代になっています。

一方、これらの世代は投資を始めるのに最適な年代です。社会保障に関する将来不安等により、資産形成の必要性が再認識されつつある中、彼らを主要ターゲットとした投資教育を行う際に、「ゲーミフィケーション」は非常に強力なツールとなる可能性を秘めています。

ゲーミフィケーションの効果を最大限発揮させるためのポイントはデータの蓄積・活用と効果検証の仕組みづくり

「ゲーミフィケーション」が強力なツールになり得るとはいえ、長年ゲームに慣れ親しんだ世代を新たなゲームに引き込むのは容易なことではありません。ゲーミフィケーションの効果を最大化するためのポイントは、ユーザーを絶えず動機づけするゲームデザインにあります。

たとえば、報酬が簡単に入手できても有難味がないですし、報酬入手のタイミングが遅すぎてもモチベーションが上がりません。難易度の高い課題が序盤から登場しても、ユーザーはクリアを諦めてしまいます。

このように、ユーザーの熟練度・知識と、課題の難易度のバランスを取ることが、ユーザーのモチベーション維持の重要なポイントになります。そのためには、プレイログ等のデータからユーザーの行動や嗜好をつぶさに分析し、ゲーム内に存在する様々なパラメータの効果を継続的に検証・チューニングしていくことが必要です。データの蓄積・活用と、継続的な効果検証を行うための仕組みづくりは、今後、「ゲーミフィケーション」を投資教育に活かしていく上で欠かせないものとなっていくでしょう。

さらには、「ゲーミフィケーション」がユーザーの投資教育を実現するにとどまらず、投資行動・資産管理といった実際のアクションに繋がっているかまでをトータルで検証し、改善していくことが望まれます。

本コラムは、フィデリティ投信株式会社と当社が共同作成し、「フィデリティDCニュースレター」に連載されたものです。

連載コラム(全10回)は、当社 ICTイノベーション事業本部
篠田徹、木田幹久、山野高将、本田えり子高橋淳一鵜戸口志郎 が執筆を担当しています。 

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