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FinTechが切り拓く新しい金融サービスのかたち:第3回:ソーシャル化する運用取引

ソーシャルトレーディング

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2016.8.8

先進データ経営事業本部

金融イノベーション

POINT

  • 欧米では、投資家が取引実績をシェアする「ソーシャルトレーディング」が登場
  • 既存金融機関にも「ソーシャルトレーディング」を取り込む動き
  • 経験豊富な上級投資家の成功体験を取り込みたい個人投資家ニーズに対応
  • 普及・拡大には法規制をはじめとする課題が存在

欧米では、投資家が取引実績をシェアするソーシャルトレーディングが登場

2000年以降急速に拡大を続けてきたSNSの仕組みを投資分野に応用して、インターネット上でソーシャルに情報を共有・活用する「ソーシャルトレーディング」と呼ばれるサービスが登場しています。

このソーシャルトレーディングは大きく2つに大別されます。1つは、情報を共有している他の投資家の取引情報をコピーし、自らの投資取引として実施する「コピートレード型」です。主にFX取引を中心に、株式等幅広い投資対象を取り扱います。もう1つは、投資家同士の情報共有やコミュニティ化に主眼を置き、多様な投資関連情報をソーシャルネットワーク内で共有する「コミュニティ型」です。

お気に入り投資家の運用取引をコピーできる「コピートレード型」

2007年にイスラエルで設立されたeToroは、「コピートレード型」の草分け的存在です。

eToroでは、ソーシャルサイトを通じて、各投資家の取引情報が公開・共有されます。誰がど の銘柄を購入し、どれだけの投資成績を達成したかも容易に閲覧でき、高い利益を出している優秀な投資家の取引実績を知ることができます。

eToroでは更に、単に情報共有するだけでなく、優秀な投資家のアカウントを登録しておくだけで、その投資家の取引と全く同じ取引を自動で自らも実施できる「コピートレード」サービスを提供しています。

利用者からコピートレードにより発生した運用益に応じた手数料を徴収し、コピーされた投資家に対しては取引コピー数に応じた報酬を還元する仕組みです。これにより、一般的なSNSでフォロワーを増やそうとする心理と同様に、上級投資家は運用成績を伸ばし、被コピー数を増やそうとします。

また、そのソーシャル性を最大限活用し、コミュニティ内でトレード大会も開催しています。成績優秀者に賞金を与えるだけでなく、入賞による知名度向上が被コピー数増加にも繋がり、上級者を惹きつける魅力となっています。
図表1 eToroのサービススキーム
図表1 eToroのサービススキーム
eToroは2016年1月時点で日本を含む170カ国、450万人以上のユーザーが登録しており、ユーザー数では直近2年間で約1.6倍に拡大しています(※1)

同種のサービスは世界的に拡がりを見せています。2007年にギリシャで設立されたZuluTradeは、2014年時点で50万人以上のユーザーが登録しています(※2) 。シグナルプロバイダと呼ばれる上級投資家の取引に「相乗り」する事で、自動的にコピートレードが実現されます。リスクウェイトも設定でき、投資リスクを一定の範囲内に収める等、投資家の保護機能も充実しています。ZuluTradeは2014年9月に投資助言・代理業登録業者として登録済の国内企業を子会社化し、日本でもサービス展開を進めています。

投資家同士のソーシャルコミュニティを醸成する「コミュニティ型」

「コミュニティ型」の代表例は、2008年にニューヨークで設立された「SumZero」です。

eToroやZuluTradeが個人投資家を対象としているのに対し、本サービスの主要ターゲットには機関投資家も含まれており、特にバイサイドの機関投資家にとって世界最大のコミュニティサービスであると謳っています。オンライン上で直接取引が実施できるわけではありませんが、専門家同士で投資関連データ・レポート・政策等のリサーチ情報を共有する事ができます。利用者の属性やニーズに応じて、一般向けのベーシックプランから、より上級者向けのエリートプラン、バイサイド機関投資家専用のバイサイドプラン等、複数のプランが用意されていて、上位のプランでは各種イベント参加やマクロレポート閲覧権等、付加価値の高いサービスを受ける事ができます。

既存金融機関もソーシャルトレーディングを取り込む動き

これまではベンチャー企業が中心になっていたソーシャルトレーディングサービスですが、既存金融機関もこうした動きへの対応を始めています。

米OANDA社は、2013年にソーシャルトレーディングサービスを展開していたCurrensee社を買収し、同サービスの自社展開を始めています。また、デンマーク・コペンハーゲンに本拠を置くSaxo Bank社も、2014年から新しいソーシャルトレーディングのサービスを展開しています。

このような海外のソーシャルトレーディングサービスの普及に対し、国内企業にも類似の動きが見えつつあります。

トレイダーズ証券が提供する「みんなのシストレ」では、ユーザーが優秀なストラテジー(投資戦略)を選択し、自らの投資取引として自動売買する機能を提供しています。コンセプトとしてはコピートレード型のソーシャルトレーディングサービスに近いですが、選択できるストラテジーは証券会社が提供する限定的なものに留まっていて、サービス参加者間で共有できるというところまでは至っておらず、発展途上です。
図表2 主なソーシャルトレーディングサービス一覧
図表2 主なソーシャルトレーディングサービス一覧

実績のある上級投資家の成功体験を取り込みたい個人投資家ニーズに対応

こうした投資のソーシャル化の誕生・拡大の背景にあるのは、特に投資未経験者を中心に根強く存在する「投資は難しく、面倒」という固定観念です。

フィデリティ退職・投資教育研究所の調査において、国内の投資未経験者に対し投資をしない理由を聞いたところ、「資金が減るのが嫌だから」が37%で1位、「投資するだけのまとまった資金がないから」が29%で2位、「何をすれば良いのか分からない」が25%で3位、「色々勉強しなければならないと思うから」が23%で4位となっています。理由の上位として、「投資により資産が減少する不安」に加えて、「投資に対する漠然とした難しさ・煩雑さ」のイメージが先行している事が伺えます(出所:フィデリティ退職・投資教育研究所、サラリーマン1万人アンケート、2016年) 。

こうしたユーザーのニーズにまさに合致したのが、ソーシャルトレーディングサービスです。ソーシャルトレーディングサービスでは、投資の経験が浅いユーザーや、どの銘柄を買えばいいか分からないユーザーでも、実績のある優秀な投資家を選ぶだけで、簡単に同一の取引が実現できます。難しさと煩雑さを同時に解決しています。

これらの革新を考えるにあたって、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)の進展は外せません。ICTにより、誰もがインターネット上で繋がり、簡単にお互いの情報を共有し、そして実際に行動(投資取引)する事もできるようになりました。

上級投資家の成功体験を取り込みたいという、元来多くの投資家に存在していたニーズが、ICTの進展により利用しやすい形となって解決され、拡大したと考えられます。

普及・拡大には法規制をはじめとする課題が存在

これまで投資に関するアドバイザリーサービスは、プロのファイナンシャルアドバイザーによる対面型のサービスが主流でした。このため、投資未経験者にはハードルが高くなっていました。しかし、ソーシャルトレーディングサービスの普及によって、投資未経験者もより身近に投資を感じる事ができ、投資家の裾野が拡大する可能性があります。個人投資家は、従来型の対面サービスに加え、前号で紹介した「ロボアドバイザー」サービスや、SNS感覚でまずは試してみる「ソーシャルトレーディング」を、目的に応じて使い分けるようになるでしょう。

一方で、ソーシャルトレーディングの拡大に向けて最も大きな課題となるのは、先進国を中心とした法規制の問題です。

国内では、金融商品取引法において、投資方法のアドバイスをするための資格として投資助言・代理業が定められています。このため、ソーシャルトレーディングのように、他人に取引情報を公開してコピートレードを促す事で報酬を得ることは同法に抵触する可能性があります。また、このような取引の規模が大きくなれば、同法で禁止されている相場操縦にも該当する可能性があります。

海外にも同様の規制は存在します。また、欧州各国でFX取引での空売り規制が強化されるなど、全般的にソーシャルトレーディングの主要取引の場であるFX市場に対する規制は強化される傾向にあります。

これらの国内外の法規制の高い壁により、ソーシャルトレーディングの拡大は限定的な範囲に留まっており、サービスの認知度を含め、投資未経験者が気軽に利用できる状況にはまだまだ遠いというのが実情です。今後、法規制等の課題を解決した上で、既存のSNSと連携し、より簡単に投資情報の共有ができるようになれば、個人投資家の裾野を拡げ、サービス利用者数が大きく拡大する可能性がありそうです。

本コラムは、フィデリティ投信株式会社と当社が共同作成し、「フィデリティDCニュースレター」に連載されたものです。

連載コラム(全10回)は、当社 先進データ経営事業本部
篠田徹、木田幹久、山野高将、本田えり子高橋淳一鵜戸口志郎 が執筆を担当しています。 

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