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新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言ヘルスケア経済・社会・技術

新型コロナ(COVID-19)収束シナリオ 第1回:見えてきたニューノーマル(新常態)への道筋

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2021.3.22

ヘルスケア&ウェルネス本部平川幸子

折居 舞

仲尾朋美

柴田弥拡

谷口丈晃

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言

POINT

  • 今後の収束の鍵を握るのはワクチン・治療薬の効果と変異株対応。
  • 2022~23年にかけてはかなりの部分で行動制限の解除が期待できる。
  • 当面は発症を予防するワクチン接種に加え行動制限を維持することが重要。
2021年1月7日に発出された2回目の緊急事態宣言が、3月21日、首都圏を含め全国的に解除された。1回目(2020年4月)の緊急事態宣言では、多様な職種が営業自粛対象となり、経済活動への影響が大きかった※1が、2回目は飲食の場をターゲットとした限定的な自粛により、経済への影響が少ない状態で一定の成果を上げたと言えるだろう。

COVID-19は今後、何度かの流行と制御を繰り返すことになるが、このような行動自粛が求められる生活はいつまで続くのか、COVID-19が収束するのはいつか。

本稿では、当社がネットワークを有する感染症、公衆衛生等の専門家※2の意見を集約し、収束シナリオを検討した。検討の前提として、COVID-19の収束条件を「感染拡大防止」と「致死率の低下」の2つの視点を設定した。感染拡大防止に関しては行動制限がある程度解除されても感染が広がらないことが求められる。致死率の低下に関しては、例えばインフルエンザ程度、つまりたとえ感染しても感染者の死亡率がそれほど高くならないレベルが必要である。

今後の収束の鍵を握るのはワクチンと治療薬

感染拡大防止において重視されるのはワクチン接種であり、致死率の低下にはワクチン接種と治療薬の開発が重要である。

COVID-19はインフルエンザと異なり、大部分の感染者は人に感染させない一方、一部の感染者が多数に感染させる、いわゆるスーパースプレッダーが存在するという特徴を有する。

これまで日本における感染拡大防止対策は、感染者の接触者調査(クラスター対策)などによって感染源を特定し、感染リスクの高い場を中心とした行動制限により接触機会を低減することと、マスク着用、手洗い・手指消毒等の感染予防を行うことであった。現在、国内で進められているファイザー社製のワクチンの発症予防効果については95%の有効性が確認されており、今後、ワクチン接種が進むことにより、感染拡大防止に必要な行動制限が緩和されることが期待される※3

致死率については、当初は手探りで医師たちが治療に当たっていたが、経験を蓄積・共有することで標準的治療法が確立され、発生初期の致死率5.3%(2020年5月31日時点)から1.9%程度(2021年3月15日時点)まで低下している※4。しかし、抜本的な治療薬は存在しておらず、インフルエンザ(致死率0.02~0.03%)に比べれば、60~95倍高い水準である※5

とりわけ、重症化率や致死率が高い高齢者へのワクチン接種への期待は大きい。致死率低下とともに、医療負荷の低減も期待できる。

ただし、ウイルス変異に伴い、感染力、重症化率、致死率がいずれも高まる懸念もあるため、前出の前提が覆る可能性もある。変異株の感染状況に関しては継続して注視する必要があるだろう(図1)。
図1 COVID-19収束のイメージ
図1 COVID-19収束のイメージ
出所:三菱総合研究所

ワクチン・治療薬の効果により行動制限は徐々に緩和

当社では、前述の感染症、公衆衛生などの専門家に対して、今後の見通しに関するアンケート調査を実施し21名から回答を得た(2021年2月22日~2月28日実施、図2)。

専門家の見方としては、本年末まで現状と同等の行動制限が必要となるという意見と、制限は部分的になるという意見が約半数である。しかし、2022年末には制限が部分的になるという意見が大部分を占める。なお2023年末には全面解除になるとした意見も約半数を占めた。今後の2年間で対策が功を奏するか、まさに正念場を迎える。その背景と理由について以下に紹介する。
図2 移動の制約・制限の収束程度(専門家アンケート結果)
図2 移動の制約・制限の収束程度(専門家アンケート結果)
出所:三菱総合研究所

ワクチンへの期待

日本でも本年2月からワクチン接種が開始され、2022年2月末までに国民一般への接種が予定されている※6。国民の一定量に接種が行き渡り、集団免疫を獲得するまたはそれに近いレベルに達するまで1年以上を要する見込みである。

また、現在、接種が進められている複数のワクチン(ファイザー社製、アストラゼネカ社製など)は、現時点で有効性は確認されているが、長期的な安全性や持続性は確認されていない。専門家アンケートからはワクチンの効果が持続する期間に対して、「季節性インフルエンザのように数カ月持続することが期待される」との意見が多く得られた。

また、風邪の免疫記憶がある場合、COVID-19の抗体価(ウイルスに対する抵抗力)が上昇するという研究もあることから、「(理論的にはワクチンによって)基礎免疫が樹立され、季節性インフルエンザのようになる可能性」を示唆する意見も得られた。

ワクチンに対するコメント(専門家アンケートより)

  • 従来の風邪の原因となるコロナウイルスも、抗体価は持続しない。新型コロナウイルスに対するワクチンも、接種後は発症予防、重症化予防の効果はあるが、年単位で長期間は持続しないと考えられる。(季節性インフルエンザのように毎年接種する必要があるという意見)(医療機関:臨床)
  • 現行のワクチンは、季節性コロナ(風邪)への免疫があると抗体価の上昇がよくなる。持続性はない場合でも基礎免疫は樹立されるため、現状のヒトコロナウイルスにようになるか、季節性インフルエンザのようになるかいずれかである。現状のワクチンにより、変異株に対しても一定の効果は見込まれる。(医療機関:臨床)

治療薬への期待

治療薬についてはいまだ特効薬はなく、現在開発されているものは主に対症療法(既存の免疫機能を抑制する医薬品の応用)にとどまっている。今後、抗インフルエンザ薬のような治療薬が開発・普及するか否かは、専門家の中でも意見が分かれた。

治療薬に対するコメント(専門家アンケートより)

肯定的な意見
  • ある程度ウイルスの増殖を抑え、症状緩和や重症化を抑える薬剤が開発されると予想する。(医療機関:臨床)
  • 現在はRNAポリメラーゼ阻害薬が主体であるが、これにM蛋白阻害薬が加われば治療は改善する。(医療機関:臨床)
否定的な意見
  • 新型コロナウイルスの複製は発症後すぐにピークとなり、減衰局面になるので、良い抗ウイルス薬が開発されても効果を得ることが難しい。(微生物学・免疫学)

変異株の脅威

COVID-19の制御方法を見いだしつつある一方、新たな脅威として、2020年後半から感染拡大が確認されている「変異株」の存在が挙げられる※7。現在確認されている変異株として、通称、英国株(VOC-202012/01)、南アフリカ株(501Y.V2)、ブラジル株(501Y.V3)、起源不明のE484K変異株などが挙げられる※8。おのおのの特徴はいまだ検証中であるが、英国株では、二次感染率が25~40%増加、重篤度が1.3倍などという解析結果もある。欧州を中心に変異株の割合が増加しており、一時的に減少傾向にあった感染者数が再び増加する地域も見られている。

日本国内でも散発的に変異株の感染者が確認されており、これまでの行動変容などの感染対策のみでは十分な効果が得られない可能性があり、注意を要する事態である。

COVID-19の今後の流行と収束への見通し

COVID-19の収束については、流行促進の要因である変異株の脅威を、抑制要因であるワクチン・治療薬の効果が上回るかが重要な鍵を握っている。その時期については、いまだ不透明な部分も多いが、専門家の見方を総合すると、徐々に行動制限が緩和されることが可能となり、2022~23年にかけてはかなりの部分で行動制限の解除が期待できる。

逆の見方をすると、ワクチンや治療薬が感染拡大を抑える効果を発揮するまでの一定期間は、行動制限が求められることを前提に社会活動を想定する必要がある。ワクチンや治療薬開発の最新状況については、次のコラムで詳細を述べることとしたい。

※1:令和2年4~6月期の国内総生産(GDP)は実質で前期比8.3%減、年率換算で29.3%減を記録した(出所:「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」令和2年3月28日(令和3年2月26日変更)新型コロナウイルス感染症対策本部決定)。

※2:当社がネットワークを有する感染症専門家のうち、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策専門家会議、厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード、厚生労働省厚生労働審議会感染症部会、厚生労働省クラスター対策班等の専門家約30名にアンケート調査を依頼し、21名から回答を得た(2021年2月21日~2月28日)。
回答のあった21名の専門分野は、基礎系(微生物学・免疫学)2名、臨床系(内科学)4名、社会系(公衆衛生学・衛生学)11名、その他2名(分子生物学、小児科)。

※3:厚生労働省Webサイト「ファイザー社製のワクチンについて」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_pfizer.html(閲覧日:2021年3月3日)

※4:致死率は死亡者数を感染者数(PCR陽性者数)で除した数とした。
厚生労働省Webサイト「新型コロナウイルスに関連した患者等の発生について(5月31日各自治体公表資料集計分) 」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11612.html(閲覧日:2021年3月17日)
厚生労働省Webサイト「新型コロナウイルスに関連した患者等の発生について(3月15日各自治体公表資料集計分) 」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_17403.html(閲覧日:2021年3月17日)

※5:厚生労働省厚生科学審議会(2021年1月15日国立感染症研究所提出資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000720345.pdf(閲覧日:2021年3月17日)

※6:厚生労働省Webサイト「新型コロナワクチン接種についてのお知らせ」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00218.html(閲覧日:2021年3月3日)

※7:国立感染症研究所「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について (第6報)」
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/10169-covid19-35.html(閲覧日:2021年3月3日)

※8:報道では「英国株、南アフリカ株」等とされているが、初期にこれらの国で確認されたため通称で呼ばれているもの。

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