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新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言ヘルスケア

新型コロナ「五類」 次のパンデミックに備える

危機で見えた医療機関の機能分化とICT化が鍵

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2023.4.25

ヘルスケア&ウェルネス本部平川幸子

新型コロナウイルス(COVID-19)危機対策:分析と提言
あれほどの猛威を振るった新型コロナもいよいよ、季節性インフルエンザ相当の位置付けに引き下げられる。しかし第二第三のパンデミックがいつ襲来するとも限らない。平時からの備えは引き続き不可欠だ。とりわけ医療機関の機能分化とICT化は将来の感染症対策の鍵を握る。コロナ危機から学ぶ意義は限りなく大きい。

全医療機関 能力に応じた感染症対応が義務化

新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)は、2023年5月8日に感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、「感染症法」)※1上の「五類」として、季節性インフルエンザ並みの対応とする方針が示された。「五類後」のコロナ対応に係る医療費などについても徐々に方針が固まってきているが、このタイミングで次のパンデミックに向けて、平時の備えをすべきである。

実際、新型コロナの対応の根拠となった感染症法の「新型インフルエンザ等感染症」の扱いに関しても、制度が変更されて改正感染症法が公布された(2022年12月9日公布、2024年4月1日施行)。

改正前の感染症法では、新興・再興感染症などが発生した場合、「帰国者・接触者外来」で外来診療を行い、感染症指定医療機関などに入院措置(実質的な隔離措置)をすることが想定されていた。しかし、新型コロナのように急速に拡大する感染症が発生した場合、感染症指定医療機関だけで対応することに無理があったことは、周知のとおりである。

感染症法の改正の具体的なポイントは、医療機関の対応能力に応じて①入院、②発熱外来、③自宅療養者への医療提供、④後方支援(非感染者の受け入れなど)、⑤医療従事者の派遣といったさまざまな形で枠組みが構築されたことだ。全ての医療機関に対して「感染症対応に係る協定」の事前協議に応じることが求められる。感染症対応ができない専門外の医療機関は、非感染者の受け入れや医療従事者を派遣する形で感染症対策に貢献することが指向されたといえる。

なぜ一般医療機関で診療されなかったのか?

医師には「応招義務」があり、診療治療の求めがあった場合に、正当な理由がなければ、これを拒んではならない(医師法第19条1項)とされている。しかし「正当な理由」について、さまざまな解釈がなされている。

新型コロナが発生する前の厚生労働省医政局長通知(2019年12月25日)を見てみたい。ここでは「1類・2類感染症等、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症については応招義務の対象ではない」として、応招義務の対象外と解釈され、一部の医療機関では発熱患者の診療拒否があったとされる※2。こうした事態を踏まえ、その後、厚生労働省から「患者が発熱や上気道症状を有しているということのみを理由に、当該患者の診療を拒否することは応招義務の診療を拒否する『正当な理由』に該当しない」という事務連絡が発出された(2020年3月11日)※3

今般の感染症法改正によって、新型コロナのような新興・再興感染症は、「特定の医療機関で対応すべき感染症ではない」と制度上も整理されたといえる。

改正前の感染症法では、感染患者は軽症者も含めて「入院医療機関」に入院する、という措置がとられていた。隔離が目的である。しかし新型コロナの発生時、事実として軽症な方に対しては「宿泊療養」「自宅療養」などの運用がなされた。こうした宿泊療養や自宅療養は、医療機関のひっ迫を防ぐ苦肉の策であったが、今回の改正で、法的にも明確に正当な医療行為として位置付けられた。

振り返ると、オミクロン株により指数関数的に増大した感染者の受け皿となったのは「自宅療養」である(図1)。新型コロナ前には感染症患者に対する在宅診療(往診・オンライン診療)は想定されていなかったため、役割が明確でなかった。自宅療養者へのケアを、感染者の積極的疫学調査を行う保健所が対応すべきか、かかりつけ医が対応すべきか、という議論もあった。また若年層の多くが罹患したオミクロンの対応では、若い世代に「かかりつけ医」がほとんどなかったため議論の余地がなかった。こうした中で、地域の医療機関をはじめ医師会、看護協会、民間事業者といったさまざまな関係者が対応したのは記憶に新しい。今回の感染症法改正は、コロナ対応の教訓を踏まえて、医療機関の「機能分化」をあらかじめ行い、あらゆる医療資源を活用して医療提供機能を充実させる狙いがある。
図1 新型コロナウイルス感染症患者数の療養場所別推移
新型コロナウイルス感染症患者数の療養場所別推移
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出所:厚生労働省Webサイト「療養状況等及び入院患者受入病床数等に関する調査について」に基づき三菱総合研究所作成
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00023.html(閲覧日:2023年1月7日)

次のパンデミック時の鍵は「機能分化」と「ICT化」

新型コロナ患者の入院に伴い病床がひっ迫したことに関しては、1人当たりの入院期間が長かったことも理由の一つとして挙げられる。感染症患者の治療にあたる感染症指定医療機関でも、第三者に感染する恐れがなくなった長期療養者の転院先が見つからず対応を行ったケースもあり、病床ひっ迫につながったともいわれている。

転院先の調整等について、新型コロナ対応では保健所が担う例も多く、業務負担が大きかった。この経験から、第三者に感染する恐れがなくなった長期療養者などの転院を、感染した入院患者の受け入れが難しい医療機関が引き受けるなどの役割分担をあらかじめ設定する必要があると言える。そのことで感染症指定医療機関などの医療機関がより多くの新型コロナ患者を受け入れることが可能となる。こうした長期療養者などの転院を受け入れる医療機関について、改正感染症法では、「後方支援医療機関」と位置付けられており、都道府県が事前に定めることとされている。新しい仕組みを運用するための重要な視点は、医療機関の「機能分化」である。

今後、新型コロナのような感染症が発生した場合、一般の医療機関も、自宅療養や宿泊療養者への医療提供の対応が求められることになるため、まずは五類になった新型コロナの診療において試行することが必要だろう。
図2 役割の明確化の例(後方支援医療機関)
役割の明確化の例(後方支援医療機関)
出所:三菱総合研究所
入院機能について役割に応じて「分化」すると、さまざまな要素があることがわかる(図3)。

具体的には、医療提供という役割の他、医薬品供給、健康観察、生活支援(食事提供)、宿泊機能などが組み合わされて措置が成り立っている。入院病床の不足に備え、「クリニックが在宅診療」「薬局による医薬品供給」「ICTを用いた健康観察」など、複数の事業者であらかじめ機能分化をすることが求められる。2024年4月の改正感染症法の施行までに、都道府県は「都道府県連携協議会」を通じて、この役割分担を事前に進めたい。

ここでは、従来のような在宅医療=「外出が難しい高齢者宅を在宅診療医が訪問」という形から、医療機関に行かずともオンラインで診療し、地域の薬局から医薬品を供給する、というスタイルへの転換が鍵となる。
図3 感染症法改正後の新興・再興感染症対応
感染症法改正後の新興・再興感染症対応
出所:三菱総合研究所

平時から体制強化 自己検査とオンライン診療で負荷軽減

新興・再興感染症などが発生した場合、感染症患者は、増加の一途をたどることが想定されるため、ピーク時に備えた医療体制を平時から準備することは現実的ではない。ただし、平時に実施していないことを緊急時に行うことが困難であることも、新型コロナ対応を通じて明確になった。導入に相応の時間と労力がかかるICT化などはまさに当てはまる。緊急時にICTを用いた効率的な医療体制を構築するためには、平時にも一定程度、慣らし運転をする必要があるだろう。

新型コロナでは、時限的・特例的に初診からのオンライン診療※4などが認められた。これにより新型コロナの陽性が診断された患者は、電話やWeb(パソコンやスマートフォン)を用いてオンラインで医師から診療を受けた後、薬剤を自宅などで受け取ることが可能になったのである(図4)。

さらにさかのぼると対面以外での診療が初めて可能となったのは2009年5月22日の「ファクシミリ診療」が認められた時がある※5。その約1カ月前の4月28日、豚インフルエンザと呼ばれた新型インフルエンザH1N1が発生し、WHO(世界保健機関)が発生宣言をした時期である。当時の医療情勢を鑑みると非常に画期的なことであった。しかしファクシミリ診療は「かかりつけ患者」のみに認められていたものである。さらに新型インフルエンザは、病原性が低かったこともあって、対面以外の診療の機運も高まらなかった。

新型コロナで初診から「オンライン診療」が認められたことは画期的であり通知の日付から「0410対応」と呼ばれた。加えて2022年12月には、新型コロナウイルス・季節性インフルエンザの同時流行に備えた対応として多数の抗原検査キットが承認され、重症化リスクがない方に対する自己検査が認められた※6。自己検査の結果をもって、診療に用いられることが可能となったものである。その後、オンライン診療は2022年4月1日の診療報酬改定で承認された※7が、「検査キット」による自己検査については「時限的・特例的」な対応にとどまった。
図4 新型コロナ患者に対するオンライン診療および医薬品(ラゲブリオ)の配送の流れ
新型コロナ患者に対するオンライン診療および医薬品(ラゲブリオ)の配送の流れ
出所:厚生労働省の通知※4※6※8などに基づき三菱総合研究所作成
今回の新型コロナ危機の経験を踏まえると、医療の効率化のためにインフルエンザ等の他の感染症を含めて自己検査キットによる検査を進めることでオンライン診療などを適切な形で平時に取り入れる余地は大いにあるだろう。五類感染症として一般の医療機関が新型コロナ患者を診療する際などは、絶好の実践の機会でもあると考えられる。次のパンデミックを待たずにオンライン診療を推進することが、医療の効率化のためには重要といえる。

新型コロナ発生の初期段階では、医療従事者やその家族に対する差別的な言動もあった。また、発生初期は、宿泊療養に対応する民間ホテルなども少なく、宿泊機能が十分でない公共施設などでの対応が余儀なくされた。

新型コロナの拡大とともに、差別的な言動は減り、さまざまなホテルで宿泊療養の受け入れも行われた。今後、新たな感染症が発生した場合も、同じようなことが起きて協力体制の整備が進まないことが懸念される。感染症は誰もが感染する可能性があることや、社会全体での対応が重要になることを改めて周知する必要もあるだろう。

※1:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)。

※2:厚生労働省 医政局長通知(医政発1225 第4号)「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(2019年12月25日)において、「特定の感染症へのり患等合理性の認められない理由のみに基づき診療しないことは正当化されない。ただし、1類・2類感染症等、制度上、特定の医療機関で対応すべきとされている感染症にり患している又はその疑いのある患者等についてはこの限りではない』とされる。
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf(閲覧日:2023年1月7日)

※3:厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策推進本部「新型コロナウイルス感染症が疑われる者の診療に関する留意点について」(2020年3月11日)中の「3.応招義務について」:患者が発熱や上気道症状を有しているということのみを理由に、当該患者の診療を拒否することは、応招義務を定めた医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項及び歯科医師法(昭和23年法律第202号)第19条第1項における診療を拒否する「正当な事由」に該当しないため、診療が困難である場合は、少なくとも帰国者・接触者外来や新型コロナウイルス感染症患者を診療可能な医療機関への受診を適切に勧奨すること。
https://www.mhlw.go.jp/content/000607654.pdf(閲覧日:2023年1月7日)

※4:厚生労働省 保険局医療課「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その10)」(2020年4月10日)。
https://www.mhlw.go.jp/content/000621316.pdf(閲覧日:2023年1月7日)

※5:厚生労働省 新型インフルエンザ対策推進本部事務局 「ファクシミリ等による抗インフルエンザウイルス薬等の処方せんの取扱いについて」(2009年5月21日)。
https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/dl/infu090523-05.pdf(閲覧日:2023年1月7日)

※6:厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策推進本部、他「新型コロナウイルス感染症・季節性インフルエンザ同時期流行下における一般用新型コロナウイルス・インフルエンザウイルス抗原定性検査キットの販売時における留意事項について」(2022年12月9日)
https://www.mhlw.go.jp/content/001022692.pdf(閲覧日:2023年4月20日)

※7:厚生労働省 保険局医療課「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その67)」(2022年3月4日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000908219.pdf(閲覧日:2023年4月20日)

※8:厚生労働省 新型コロナウイルス感染症対策推進本部 医薬・生活衛生局総務課「新型コロナウイルス感染症における経口抗ウイルス薬の医療機関及び薬局への配分について(事務連絡)」。(2021年12月24日(2022年2月10日最終改正))
https://www.mhlw.go.jp/content/000885823.pdf(閲覧日:2023年1月7日)

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